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「あの頃、文芸坐で」【48】鈴木清順オールナイト⑤野川由美子の輝き、そして「刺青一代」

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文芸坐.001

オールナイトに通うという映画の見方をしている人は今はほぼいないであろう。当時は、ロードショー館も土曜はオールナイト上映が当たり前だった。風営法みたいなものができて、夜の世界はどんどん狭くなっていき、昨今のパンデミック状態では夜の世界がなくなる勢い。夜が元気な方が歴史はいろいろに変化するように思うのだが…。先の見えない時代の愚痴である。鈴木清順オールナイト、5夜目です。野川由美子が出ている3本と高橋英樹の任侠映画での最高傑作と私が思っている「刺青一代」との邂逅。

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まずは、コラムから。「今年のドレス」と言うのは、「殺しのドレス」のパロディ題名。ここに書いてある、女優さんと映画が、本当に懐かしかったりする。映画女優の名前で時代がわかると言うことだ。そう言う意味でもエンタメは無くしてはいけないのだ。映画で着られているドレスという面から見ても、同じようなことが言える。映画は今も時代の鏡である。

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プログラムは、文芸坐は変化なく、文芸地下は、寺山修司の後に、高林陽一監督の二本立て。こちらは観に行っているので、後日。オールナイト欄に、「ドフトエフスキーの生涯の26日」のナイトロードショーの告知。こういうのも含め、当時の文芸坐のプログラムは本当に多岐に及んでいた。これを書いていて思うのだが、10くらいのスクリーンを持っていて、常時、古い映画をかける名画座みたいなものがあれば最高だと思う。500円くらいの値段で古い映画を浴びるほど観られる環境が欲しい。それが出来てこそ文化的な国だと思う。映画は映画館で観るものだ。

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ということで、鈴木清順5本立てに関して

「刺青一代」

先にも書いたが、これを観たとき、高橋英樹という役者がとても大きく見えた。最後の出入り風景のあまりの奇抜さもあるが、映画全体のはみ出した世界に高橋は見事にフィットしている映画だ。小道具も含め、清順美学全開の一作。ヒロインは和泉雅子。和泉が、なかなか印象的。とはいえ、最後の出入り、襖を開けても開けても先がある奥行き。畳の上の殺陣をガラス張りにして下から撮るというシュールさ。もう、たまらない一作である。

「肉体の門」

野川由美子の映画デビュー作。題名の通りの身体をはった熱演は、彼女のイメージを明確にしたと言っていいのではないか?田村泰次郎原作の二度目の映画化。そして、映画としてこれを超えるものはできないだろう。少なからず、戦後を知っている作り手が作ったものであり、パンパンたちの着るドレスは刺激的。こういう原色の使い方としては、清順映画の中で最高の出来と言っていいだろう。

「春婦傳」

「肉体の門」があっての企画だろう。原作は同じ田村泰次郎。谷口千吉監督山口淑子主演の「暁の脱走」のリメイクである。山口もはっきりした顔の美人だが、野川由美子も似ている感じがする。戦場の売春宿にこんな女がいたら、それはいろいろ起こるだろう。とはいえ、清順演出は、相手役である川地民夫の写真をバラバラにして心を表現したり、やりたい放題になってきている。カラーでないのは残念な一本だが、戦場シーンはなかなか凝っている。

「悪太郎」

今東光原作。多分、自伝的な話だ。簡単にいえば小説家を目指す不良の話。山内賢主演、ヒロインは和泉雅子。清順美学と言われるようなシーンは結構あった気がするが、あまり覚えていない。もう一度、見直したい一本だ。

「悪太郎伝 悪い星の下でも」

「悪太郎」がそれなりにヒットしたから作られたのかどうかは知らないが、同じ原作者の同じような話。ヒロインは和泉雅子だが、ここでは野川由美子の女学生役が印象的だった。多分、女学生にしたら、色っぽかったからだ。オールナイトのここで最後に見たまま、見ていないので、これももう一度見直したい一本だ。

野川の清順作品では、後「河内カルメン」があるが、これも清順美学を語る上では重要な一本だ。そう、清順映画を語る上で、野川由美子という存在はかなり大きなウェイトを締めているのだが、「肉体の門」以外はあまり観られる機会が少ないのは残念な限り。そして、野川由美子を最も素敵に撮っている監督は鈴木清順であると私は思う。

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