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やばいファン

「ゆき、急にどうした?なんだ話って」

「お父さん、落ち着いて聞いてね。

私、結婚したいの」

「け・・結婚したいってお前、彼氏はいたのか」

「ううん。お付き合いはしてないけど、急にプロポーズされたの」

「そんなの駄目だ!
まずは付き合って、その人のことをよく知ってからの方が・・・」

「大丈夫!私はその人のことずっと大好きだったから、とっても嬉しいの!昔から応援してたから」

「応援してた・・・って、何をしてる人だ?」

「ミュージシャン」

「駄目だ駄目だ!!音楽で飯も食えてないくせに、プロポーズだなんて」

「フフフ、大丈夫!人気ミュージシャンだから」

「え?」

「私その人のコンサート何度もいってるんだから。ビックリしたわよ!急にプロポーズされて」

「なんて人だ?」

「宮崎涼さん」

「・・・知らないなぁ」

「知らない?すごい人気なのよ♪」

「どんな人なんだ」

「ちゃんとしゃべったことないけど、絶対優しい人よ」

「ちゃんとしゃべったことない?」

「ホント驚いちゃった!昨日発売のCDを買いに行ったら、急にプロポーズされたの!」

「・・・・え?」

「ほら、このCD!タイトルみてよ
【結婚しないか】
って、凄くない?」

「あ、ヤバイなぁ!」

「そう、ヤバイでしょ!?
私もビックリしちゃった!!」

「あ、違う違う!」

「確かにコンサートでも、
よく目が合うな〜とは思ってたんだけど」

「うん、ヤバいヤバい
ちょっと、待て!」

「驚くのはわかる!私も急にプロポーズされて心が追いついてないもん」

「お前は何もわかってない!ヤバイなぁ!!」
これだいぶヤバイなぁ!」

「何がよ!さっきから何言ってんの?」

「お前勘違いしてる!これはプロポーズじゃない!会ったこともないんだろ!」

「あるわよ!!・・・・握手会で」

「あぁヤバい!それは会ったとは言わない!!」

「何言ってんの、ちゃんと会ってるじゃない」

「大変なことなってるなぁお前!父さん気づかなかった!いつからだ?いつからそんなヤバいんだ??」

「ね、お父さんいいでしょ?結婚しても」

「ダメだ!ダメっていうか、無理だ!!」

「なんでよ!」

「いいか?この【結婚しないか】ってのは、お前に言ってるんじゃない!ただの曲名だ!」

「何言ってんのよ!!じゃあ歌詞カードみてよ!
私のこと書いてんじゃん」

「どこだ!」

「ほらー、“ゆき“が綺麗だ
って、私の名前じゃん」

「これ、“雪”だろ!!
雪のこと言ってんだよ
お前の名前じゃないぞ」

「あ〜照れちゃう♪恥ずかしいっ」

「違うって言ってるだろ!
都合よく解釈するな!!」

「まだ書いてるから
ほら、“ゆーき“が欲しい」

「“勇気”が欲しいって書いてんだ!」

「ここも、“ゆーき”をくれ」

「“勇気”をくれだ!」

「ここだって!
“ゆーき”を振り絞る」

「どういう解釈だそれは!
お前を振り絞るってなんだ!
さすがにおかしいって気付くだろ!!」

「他の歌詞もみてよ!全部私に当てはまるの!」

「もういいよ」

「ほら、ここ!!

【僕の手を握ったまま、静かに見つめる君】

私のことね!」

「ヤバいなぁ!!
これは握手会の時のお前を書いてるんじゃない!!」

「私はいつも静かに見つめてるのよ」

「何か喋れよ怖い!!
握手会で見つめるだけってなんだ」

「喋らない!勿体無い!!ただ見ていたい!!!」

「何を熱くなってるんだ!」

「ここも!

【メガネがよく似合う君】

これも私ね」

「お前、メガネなんかかけてないだろう」

「握手会の時は恥ずかしいからサングラスしてるのよ」

「ヤバいなぁ!」

「真っ黒なサングラス!
見られたくないもん
あっ、ここの歌詞も!

【よく笑う君が好き】

私ね♪」

「そんな笑うタイプじゃないだろう」

「握手会の時に嬉しくなっちゃって、つい大声を出して笑っちゃうの!
アァーハッハッハッハッ!!!」

「ヤバすぎるだろう!!!
握手会で一切話をせず声を上げて笑うサングラス女!」

「あ〜おっかしい♪」

「宮崎くん可哀想に・・・・・」

「向こうだって私のこと覚えてくれてる」

「うん、覚えてると思うぞ、駄目な方でな。
なんでお前は出禁にならないんだ!」

「なんか一度マネージャーから

次からは来ないでください

って言われたんだけど、多分宮崎くん、私に恋して仕事がままならないんだと思う」

「しっかり出禁になってるじゃないか!
あぁ、なんてこった。
ゆき、お前いつからこんなことなってたんだ」


「それにこの曲、逆再生したら

“タスケテー、タスケテー”

って聞こえるのよ」

「・・・・怖いなぁ!!
なんだそれ!
プロポーズと関係ないじゃないか!!
まずなんで逆再生してみたんだ」

「ねぇ、お父さん!

結婚してもいいでしょ?」

「駄目だと言ってるだろう!
現実を見なさい!!」

「このわからずや!!
駆け落ちしてやる!!」

「待ちなさい、ユキ!!
いいか、よく聞け!!!

お前は・・・・ヤバファンだ」

「何よヤバファンって!!」

「ヤバいファンなんだよ!!
お前はもう2度とライブに行ってはいけないぞ!
宮崎くんにもスタッフさんにも周りのファンにもみんなに迷惑かけてるんだ!!
お前はズレまくっている!!!
もう行くな!!危険すぎる!!」

「何よそれ!!!
お父さん何もわかってない!!
せっかく彼が今、部屋にきてんのに!!」

「・・・・お前、ヤバい薬でもやってんのか?」

「やってないわよ!!!!」

「じゃあそいつ、部屋で何してるんだ!」

「寝てるわよ!」

「寝てるのはお前だ!!目を覚ませ!!」

「ホントよ!!!今連れて来るから!!!!」


ユキは勢いよく居間を飛び出し
激しい音を立てて
2階の部屋へ駆け上がって行った


「たく!なんなんだあいつ。全然知らなかった。

ゆきがあんなことになってただなんて」


浩二は机の上に置いてあるリモコンを手に取った
気を紛らわすため、テレビをつける

夜の報道番組が放送されていた



《昨日CDを販売したばかりの人気ミュージシャン宮崎涼さんですが》



「おぉ、彼か」







《現在、行方不明になっております》






「え」






《警察が捜索中とのこと・・・・》










「・・・・・・・・・え?」










ズ、、、






ズズズ、、、、、




ゴトン!!




ズズズ、、、





ギシギシ、、、





ズズ、、

ズズズ、、、、、






2階から

何かを引きずりながら

階段を降りてくる音が聞こえる

「ゆき、お前、まさか・・・・」


居間の扉がゆっくりと開く

ゆきは、宮崎涼の抱き枕を持って立っていた

「・・・・・え?」

《速報です!
ただいま宮崎涼さんが、警察により保護されました》


「・・・・は?」

「お父さん紹介するね、
この人が宮崎涼さん」

「・・・・よ、よよよ、よ、よよ、

良かったぁ〜〜〜〜〜!!!!!!」


「良かった!?
え、お父さん、良かった??
結婚許可してくれるの!!」


「うん、とりあえずは良かった!!!
とりあえずな!!!
うん!!!
ゆっくりと!!!
またゆっくり時間をかけて
話あっていこう!!!!
今日はそれを抱きしめて眠りなさい!」

「お父さんずっと何言ってるの??
もう、おっかしいんだから〜♪」

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