なぜ、晴から雨へと天候が変わっていく時に、「天気は上り坂に」と、言わないのだろうか?

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2024.7.7 presented in [note] ( //note.com/runningWater/]
2024.7.9 rewritten

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1 2つの概念

この先、晴から雨へと天候が変わっていく事が予想される際に、天気予報において、「天気は下り坂に」という表現が、しばしば使用されるようだ。

 「天気は下り坂に」

この表現には、下記の2つの概念が、関係していると、思われる。

[概念A 坂を行く方向](上り坂を行く|下り坂を行く)
[概念B 天候の変化] (雨から晴へ|晴から雨へ)

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2 表現には、2段階あり

現在、我々が見聞きする様々な、気のきいた表現は、過去のある瞬間に、ある人が創造したと考えられる。

しかし、[表現]は、創りだされるだけでは、ダメである。

その[表現]を見聞きした多くの人が、「これは、うまい言い回しだな」と感じ、「これは、使えるぞ」と思い、自らもその[表現]を使うようになる、それを見聞きした他の人もまた、その[表現]を使うようになる、このような、[表現の受容・伝搬]があってこそ、その[表現]は、世に残ることとなり、現代においても多くの人によって使用されることとなる。

このように、[表現]においては、下記の2つの段階が考えられる。

 第1段階 創りだされる段階
 第2段階 伝搬される段階

上記のようにして、世に残ることとなったような[表現]が、創りだされる、その瞬間において、
 その表現を生み出した人の心(脳)内には、ある[仕組み]が存在していた
、と思われる。

なおかつ、
 その[仕組み]と同形の[仕組み]が、多くの人の心(脳)内にも、存在している
だからこそ、
 その表現は多くの人によって、受容・伝搬される、されてきた
、と思われる。

その[仕組み]とは、
 2個の概念どうしを結びつけるような、なにものか
である。

その実体がいったい何であるのか、どのようなものであるのか、それは、私には分からない。(大脳内のニューロンの結合なのか、あるいは、もっと別の何ものなのか?)

その実体は分からないのだけど、とりあえず、
 [2個の概念どうしを結びつけるような、なにものか]
、それを、
 [概念間リンク]
と呼んでみることにしよう。

これ以降、[概念A]と[概念B]とを結びつけるような[概念間リンク]を、下記のように表記することと、する。

 [リンク[概念A-概念B]]

日本の過去の歴史上のどこかの時点に、[詩的な魂を持つある人X]が存在していたとし、以降、この人のことを、

 [詩的な人 X]
 
と、記することにしよう。

ある日ある瞬間、[詩的な人 X]は、自らの心(脳)中に、下図のような[概念間リンク]が存在することに気が付いた。

Fig 2.1

このリンクは、下記に述べるように、2階層構造のリンクになっている。

 [概念・坂を行く方向] と [概念・天候の変化] との間に、リンクが形成されており
  なおかつ、
 それぞれの概念を構成している要素([上り坂を行く]、[晴 --> 曇り --> 雨]、等)どうしの間にも、リンクが形成されている

以降、この[概念間リンク]を、
 [リンク[概念・坂を行く方向-概念・天候の変化]]
と呼ぶことにしよう。

この概念間リンクが、自らの心(脳)中に存在することに気づいた、[詩的な人 X]は、その次の瞬間、下記のような、[表現の変換]を思いついた。

 変換前:今後の天候の変化は、[晴 --> 曇り --> 雨]となるであろう

     ===[表現の変換]===>

 変換後:今後の天候の変化は、[下り坂を行くがごときもの]となるであろう

下図(Fig 2.2)に示すように、この[表現の変換]は、[リンク[概念・坂を行く方向-概念・天候の変化]]を用いて、行われているのである。

Fog 2.2

[リンク[概念・坂を行く方向-概念・天候の変化]]が、[詩的な人 X]の心(脳)中に存在した
 がゆえに、
[詩的な人 X]は、このような[表現の変換]を思いつけたのである。

以上が、[表現が創りだされる段階]に関しての説明である。

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次に考えるのは、[(その表現が)受容・伝搬される段階]について、である。

[詩的な人 X]の口、あるいは、筆・ペンから発せられた表現:

 「今後の天候の変化は、[下り坂を行くがごときもの]となるであろう」

を見聞きした、[別の人Y]は、その表現が意味しているところのものを正しく理解し、「これは、うまい言い回しだな」と感じ、「これは、使えるぞ」と思った。

いったいなぜ、[別の人Y]は、その表現が意味しているところのものを正しく([詩的な人 X]が意図したごとくに)理解できたのか?

その[別の人Y]も、また、自らの心(脳)中に、下記のような[概念間リンク]が存在することに、気が付いたからである。

Fig 2.3

Fig 2.2 に示されている[概念間リンク]と、Fig 2.3 に示されている[概念間リンク]は、全く同形である。

[別の人Y]は、上記の[概念間リンク]を、Fig 2.2 に示されたのとは逆方向の経路をたどることにより(Fig 2.3 で示したように)、下記のような、[表現の変換]を、(心(脳)中において)行えたのである。その結果、[別の人Y]は、その表現が意味しているところのものを正しく([詩的な人 X]が意図したごとくに)理解できたのである。

 変換前:今後の天候の変化は、[下り坂を行くがごときもの]となるであろう

     ===[表現の変換]===>

 変換後:今後の天候の変化は、[晴 --> 曇り --> 雨]となるであろう

この表現:
 「今後の天候の変化は、[下り坂を行くがごときもの]となるであろう」
が、多くの人々によって受容・伝搬されるうちに、
より簡潔な表現
 「天候は下り坂に」
へと変形し、定着して、現在、多くの人々によって使用されるに至ったのであろう。

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3 概念間リンク・発生の過程

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3.1 3段階の過程

では、いったいどのようにして、
 [リンク[概念・坂を行く方向-概念・天候の変化]]
が、
 [詩的な人 X] と [別の人Y]の心(脳)中
に、存在するようになったのであろうか?

私は、以下のような、3段階の過程により、これが存在するようになった、と想像する。

 段階1:[リンク[概念・坂を行く方向-概念・高度の変化]]の発生
 段階2:[リンク[概念・高度の変化-概念・天候の変化]]の発生
 段階3:上記2個の[概念間リンク]の統合

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3.2 [リンク[概念・坂を行く方向-概念・高度の変化]]の発生

我々が坂道上の移動を行う時、

 [上り坂]を行く時には、我々の眼球がある位置の標高は、小さい値から、大きい値へと、変化していく、すなわち、我々の眼球の位置は、[低]から[高]へと、高度が変化していく。

 [下り坂]を行く時には、我々の眼球がある位置の標高は、大きい値から、小さい値へと、変化していく、すなわち、我々の眼球の位置は、[高]から[低]へと、高度が変化していく。

[詩的な人 X]は、この、[坂道上の移動]と[高度の変化]との関係に着目した。その結果、[詩的な人 X]の心(脳)中に、下記のような、[概念・坂を行く方向] と、[概念・高度の変化] とを結びつけるリンク、すなわち、[リンク[概念・坂を行く方向-概念・高度の変化]]が発生した。

このリンクは、下記(Fig 3.2) に示すように、2階層構造のリンクになっている。

 [概念・坂を行く方向] と、[概念・高度の変化] との間に、リンクが形成されており
  なおかつ、
 それぞれの概念を構成している要素どうしの間にも、下記のようにリンクが形成されている

 [上り坂を行く] (概念・坂を行く方向 を構成する要素)
  と
 [低 --> 高] (概念・高度の変化 を構成する要素)
  との間に

 [下り坂を行く] (概念・坂を行く方向 を構成する要素)
  と
 [高 --> 低] (概念・高度の変化 を構成する要素)
  との間に

Fig 3.2

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3.3 [リンク[概念・高度の変化-概念・天候の変化]]の発生

[詩的な人 X]の心(脳)中に、下記のような、[概念・高度の変化] と、[概念・天候の変化] とを結びつけるリンクが発生した。(Fig 3.3)

このリンクが、どのようにして発生したのか、という事については、後述の3.5節において、述べる。

このリンクは、下記に述べるように、二階層構造のリンクになっている。

 [概念・高度の変化] と、[概念・天候の変化] との間に、リンクが形成されており
 それぞれの概念を構成している要素どうしの間にも、下記のようにリンクが形成されている

 [低 --> 高] (概念・高度の変化 を構成する要素)
  と
 [雨 --> 曇り --> 晴] (概念・天候の変化 を構成する要素)
  との間に

 [高 --> 低] (概念・高度の変化 を構成する要素)
  と
 [晴 --> 曇り --> 雨] (概念・天候の変化 を構成する要素)
  との間に

Fig 3.3

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3.4 上記2個の[概念間リンク]の統合

[詩的な人 X]の心(脳)中において、上記の2個のリンク ( [リンク[概念・坂を行く方向-概念・高度の変化]] と [リンク[概念・高度の変化-概念・天候の変化]] ) が、下記 Fig 3.4 で見るような形で統合されて、

 [リンク[概念・坂を行く方向-概念・天候の変化]]

が発生した。

このリンクは、以下に述べるような意味で、二重構造のリンクになっている。

 [概念・坂を行く方向] と、[概念・天候の変化] との間に、リンクが形成されており
 それぞれの概念を構成している要素どうしの間にも、下記のようにリンクが形成されている

 [上り坂を行く] (概念・坂を行く方向を構成する要素)
  と
 [雨 --> 曇り --> 晴] (概念・天候の変化を構成する要素)
  との間に

 [下り坂を行く] (概念・坂を行く方向を構成する要素)
  と
 [晴 --> 曇り --> 雨] (概念・天候の変化を構成する要素)
  との間に

Fig 3.4

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3.5 [リンク[概念・高度の変化-概念・天候の変化]]は、どのようにして発生したか

私は、その過程は、以下に述べるようなものであったのではないか、と、想像する。

(1) [リンク[概念・気分の変化-概念・天候の変化]] が、発生した

この世に生を受けて後、様々の天候の日々を生き抜いてきた結果、このような、[概念・気分の変化] と [概念・天候の変化] の間に、概念間リンクが、形成されていったと、想像する。

Fig 3.5.1

(2) [リンク[概念・高度の変化-概念・気分の変化]]が、発生した

About [orientational metaphor], [方向性のメタファー] について

で見たように、我々はとかく、[高・低]の概念と、他の概念とを、関連づけたがる傾向にあるようだ。その結果、
[概念・高度の変化]と[概念・気分の変化]との間に、下記のような概念間リンクが、形成されていったと、想像する。

Fig 3.5.2

(3) 2個のリンクが統合された

上記の、[リンク[概念・高度の変化-概念・気分の変化]]((2)に記した) と [リンク[概念・気分の変化-概念・天候の変化]] ((1)に記した)が、下記 Fig 3.5.3 で見るような形で統合されて、[リンク[概念・高度の変化-概念・天候の変化]] が、発生したと、想像する。

Fig 3.5.3

このリンクは、以下に述べるような意味で、二重構造のリンクになっている。

 [概念・高度の変化] と、[概念・天候の変化] との間に、リンクが形成されており
 それぞれの概念を構成している要素どうしの間にも、下記のようにリンクが形成されている

 [低 --> 高] (概念・高度の変化 を構成する要素)
  と
 [雨 --> 曇り --> 晴] (概念・天候の変化を構成する要素)
  との間に

 [高 --> 低] (概念・高度の変化 を構成する要素)
  と
 [晴 --> 曇り --> 雨] (概念・天候の変化を構成する要素)
  との間に

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