『カレーライスを一から作る』ブックカバーチャレンジ③

 「給食の人気メニュー」「カレーは飲み物」「金曜日はカレー曜日」

 子どもの頃からよく食べていたカレー。煮込んだ肉や野菜にルーを入れる。キャンプや子どものチャレンジメニューとしてよく作られる。辛口が美味しいと感じるようになったときに、ちょっと大人に近づいた気がしたものだ。

 しかし、インド料理と出会ってから、カレーのイメージは全く異なるものになった。スパイスの香り、そのスパイスとて無数の種類がある。食材に合わせて、使うスパイスや量を変える。体調に合わせて調合まで変えるという話を聞いて、その奥深さに魅了させられた。

 インドに旅行した後には、ターメリックやクミンなどのスパイスを買い込み、自分でも香り高いカレーを目指して、何度も作ってきた。ミックススパイスも使わずに、スパイスを混ぜて作るというと、多くの人に感心され、味も嬉しいが、なんとなく認められるというくすぐったい感覚もあった。みんながチャレンジしないことをやってできているという、せこい感覚もあった。

 子どもが生まれ、子ども好みの甘いルーのカレーばかりを作るようになっていた。クミンをはじめに炒めたり、最後にガラムマサラを振りかけたり、ちょっとした工夫はしていたが、それでもルーのカレー。それでもたまにスパイスの香りを味わって欲しくて、辛味のないスパイスを使った煮込みを作ることもあった。

 ある日、図書館の児童書の新刊コーナーに『カレーライスを一から作る』があった。人類学者で医者の関野吉晴氏ゼミでのことをまとめた本だった。かなり個人的な趣味で、子どもに面白いから読むように勧めた。

 普段は漫画ばかり見ている子が、難しい表現などあるはずだが、貪るように読んでいた。しばらくは、「面白かった」と何度も行っていた。あまりの熱の入れように、Amazonで注文し、私も読んだ。

 まさに“一”から作っていた。スパイスを混ぜるなどというレベルではなく、食材や食器まで手作りをしていた。無理だというのは簡単だけど、少しでもやって見たいという思いを抱きながら、本を閉じるとそのことへの思いも閉じられてしまった。

 新型コロナウイルスに伴う休校が続いている。子どもは相変わらず漫画ばかり読んでいるが、時間があるので晩御飯を作るように言うと、予想外に乗り気になった。経験で包丁を触らせるぐらいしかしてこなかったので、包丁の握り方、皮剥き機の使い方、ガスコンロの使い方、お米の研ぎ方(無洗米だけど)を一から学びながらも、一生懸命作っていた。食材ごとの硬さの違いや切った感触を感じ、飛び跳ねる油にビビり、ガチガチに肩に力を入れながらも、ほぼ一人で(玉ねぎだけは手伝った)カレーライスを作り上げることができた。

 時間や空間、技術的にも相互に依存し合いながら生きざるを得なくなっている今日の社会。そんな中でも、自分ができることを自分でする。そんな小さな取り組みが大切だと感じている。世界中を旅したり山に登ったりする冒険もあるが、身近なことを文字通り一からチャレンジすると言うのは、現代においてはかなり大きな冒険につながっている気がする。


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