『風の歌を聴け』ブックカバーチャレンジ②


 「僕って平凡な人間だよね?」17歳の僕は、カルボナーラにかける黒胡椒が見つからない時のように、悪友につぶやいた。

 「変だよ」と空の雲が動くのは当然かのように答えた。

 1995年の夏は、ダイアモンドヘッドのように太陽が照りつけていた。常夏のハワイとは似ても似つかぬ僕たちは、学校や部活をさぼっては、世界中の心配が自分に降りかかっているかのように毎日語りあった。

 そんな、今となってはどうでもいい日常の中、悪友は調子外れのZARDの「揺れる想い」を鼻歌で歌いながら、村上春樹の『風の歌を聴け』を手渡してきた。本をほとんど手に取らない僕は、もらった文庫本をFILAのリュックの中に投げ込んだ。

 何もすることのない僕は、j-waveから流れるジャミロ=クワイの曲を聴きながら、汗の吸わないソファに深く座り込み、本を取り出した。本を手に取っている僕の姿は、きっとティラミスを頬張るヨークシャテリアのように見えたに違いない。

 ぼんやりとしていると部屋の中が薄暗くなっていた。気がつくと羊男が僕の隣に座っていた。

「やれやれ」いったい僕の身に何が起こっているのか。

 それ以来僕の家の本棚には村上春樹の小説が並んでいる。それ以上でもそれ以下でもない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?