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当たり前なようで意外なほどの「きつさ」とパフォーマンスの関係②

こんにちは、古川です。10月26日の走る研究室のまとめ第2弾です。

前回に引き続き、

「きつさ(認知)」「体の状態」、どっちがどのくらいパフォーマンスを制限しているの?

という疑問に対し、意外な示唆を与える研究をご紹介いたします。

今回の取り上げる先行研究は、ザックリ言うと「暑い中で感覚だけ涼しくしても速く走れるの?実際に体温下げた場合と比較してみた」という感じです。

「きつさ」というより「あつさ」に対する介入なのですが、認知を変えてみるという部分では共通しており、面白かったので取り上げます。


まず、まとめスライドはこちら。

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以下、詳細です。


被験者には、5㎞のタイムトライアル(TT)を3回走ってもらいました。以下の条件をランダムな順番で1回ずつです。

1.介入なし

暑い中(33℃)で、ただ5㎞TTを行います。


2.氷スラリー(水と氷の混合物)を飲む

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※イメージ https://www.walkerplus.com/article/158103/

TT前に氷スラリーを飲み、深部体温を下げてから走ります。深部体温があるラインを超えるとペースダウンに繋がるので、予冷戦略を行っています。今回の実験のような暑い環境下では、この予冷戦略でタイムが改善することも知られています。(実際にTT序盤の深部体温(直腸温)が下がっていたことが確認されました。直腸温はプローブという器具を肛門に挿入して測ったみたいなのですが、これやりながらTTできるんですね…。)

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※イメージ https://www.adinstruments.com/products/rectal-probes


3.メントール溶液で口をすすぐ

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※イメージ https://store.shopping.yahoo.co.jp/soukai/4954799119053.html

1㎞毎にL-メントール溶液(22℃)25mLを5秒間口に含んだ後、バケツに吐くようにしました。これによって被験者に清涼感を与え、あつい感覚を和らげます。

介入なしに対し、他2条件は、それぞれどのくらい効果が出たのでしょうか?

メントールマウスリンス条件では、氷スラリーや介入なしの場合よりタイムが良くなりました。その改善率は平均2.7%(42秒)でした。

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横軸は条件、縦軸は5㎞のタイムを表しています。白丸〇が各被験者のタイムで、棒グラフの棒の高さが平均タイムです。「介入なし」や「氷スラリー(氷)」の棒に比べて、「メントール」の棒が低い値を示しています。

心拍数は3条件とも差がありませんでした。つまり、メントールで体の負荷が下がっていたわけではないようです。(「プロラクチン」という物質も測定されており、メントール条件で他2条件より高くなっていました。プロラクチンはストレスの指標とされています。メントール条件では、より速く走れたことにより、身体ストレスがむしろ大きくなったと考察されています。)


この研究では、予冷戦略で高体温を避けた(体の負荷を減らそうとした)場合ではパフォーマンス改善はみられず、清涼感を与えた(認知にアプローチした)場合でパフォーマンス改善がみられました。

意外にも清涼感でタイムが上がってしまうのですね。。。

猛暑の東京オリンピック2020男子マラソンで、大迫選手氷入りの帽子を被っていた様子が印象的でした。直接、筋温や深部体温を下げられるわけでもない氷帽子には、どんな狙いがあったのでしょうか?

脳から血液を冷やす…?それも効果があるのかもしれません。また、今回紹介した研究をふまえると、大迫選手は「認知の方を変えることの重要性」を経験的に察知して(もしくは先行研究をご存じで)、氷帽子を採用されたのかもしれない、と思いました。


多くの研究から、予冷戦略等で体の負荷を下げることの重要性もわかっていますので、もちろん「認知さえ変えればいい」と言うつもりは毛頭ありませんが、「認知が意外なほどパフォーマンスと関係してる」「認知を変えるの大事そう」ということを感じていただければと思います。

次の最終回では、「じゃあ、どうしたらいいの?対処法は?」に少しだけお答えできればと思います。それではまた!


文責)古川


文献

Stevens, C. J., Thoseby, B., Sculley, D. V., Callister, R., Taylor, L., & Dascombe, B. J. (2015). Running performance and thermal sensation in the heat are improved with menthol mouth rinse but not ice slurry ingestion. Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports, 26(10), 1209–1216. https://doi.org/10.1111/sms.12555



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