論文紹介【カーボンプレートシューズのランニングエコノミー対決】
お疲れ様です。走る研究室の近藤です。
先週木曜日は
A Comparison of Running Economy Across Seven Carbon-Plated Racing Shoes
という論文を紹介しました。
最近話題の各種カーボンプレートシューズのランニングエコノミー(RE)等を比較した論文です。簡単にまとめたので、参考にしてください。
背景
ランニングシューズの技術が進歩し、特にナイキのヴェイパーフライでは、ランニングの経済性を向上させることが示されている。他のブランドでも、カーボンファイバープレートや厚めのミッドソールフォームを採用した先進的なシューズが開発されている。しかし、これらの新しいシューズはどれもヴェイパーフライとは比較されていない。
そこで、7種類のカーボンプレートシューズと1種類の従来のレーシングシューズがREに与える影響を比較した。
方法
使用したシューズ
・7種類のカーボンプレートシューズ:Hoka-RocketX(HRX)、Saucony-Endorphin Pro(SEP)、Nike-Alphafly(NAF)、Asics-Metaspeed Sky(AMS)、Nike-Vaporfly2(NVF2)、New Balance-RC Elite(NBRC)、Brooks-Hyperion Elite2(BHE2)
・1種類の従来のレーシングシューズ:Asics-Hyperspeed(AHS)
(Fig. 1)
被験者
男性ランナー12名(5kmベスト:16.0±0.7分)
実験方法
2回の測定を行った。1回目の測定では8×5分間の試行(16 km/h、試行間に5分間の休息)をランダムに行い、2回目の測定は1回目とは逆の順序で行った。走行中のメタボリックデータとランニングメカニクスデータを収集し、平均化した。
結果
・VO2(ml‧kg/min AHSからの変化率)はシューズによって有意に異なっていた。
・HRH(51.67±2.07)、BHE2(51.42±1.72)は、AHS(51.71±2.02)と差がなかった。
・一方、SEP(50.93±1.82; -1.48±0.72%)とNBRC(50.99±1.83; -1.37±0.78%)は、AHSよりも統計的に優れていたが、NAF(50.13±1.86; -3.03±1.48%)、NVF2(50.29±1.72; -2.72±1.02%)、AMS(50.39±1.71; -2.52±1.08%)よりも劣っていた。
→つまり、REの良い順番に並び替えると
NAF、NVF2、AMS > SEP、NBRC > BHE2、 HRH、AHS
(Fig. 2)
・AHS→3強シューズ(NAF、NVF2、AMS)でのRE改善率が大きいランナーは改善率が小さいランナーに比べて、元々のランニングエコノミーが良くない、接地時間が短い、ケイデンスが遅い、上下動が大きい、という傾向がある(Table 5)。
考察
・従来のシューズと比較して、NVF2は平均2.7%のREを改善した。また、NAF(3.0%)とAMS(2.5%)はNVF2と同等にREを改善した。一方、他のシューズは1.5%未満の改善率に留まった。
→様々なブランドから新しいスーパーシューズが発売されても、既存のナイキシューズと比較して競技環境が平等になっていないことを示唆している。
・単にカーボンプレートを搭載したり、スタックハイトを高くしたりだけでは、ナイキと同等のREを達成することはできない。
→シューズのフォームとプレートの相互作用がRE改善に重要であることを示唆している。
・「バネ性」のある素材を増やすことと、シューズを軽くすることのトレードオフにメーカーは直面している。
・ピアソン相関により、シューズ間の平均VO2は平均ケイデンスと正比例し、平均上下動とストライド長とは反比例することがわかった。
→シューズによるRE改善効果は、より長くより弾むストライドを特徴とするランニングメカニクスの変化に関連していると考えられる。
・RE改善率の大きいランナーは、改善率の小さいランナーに比べて元々のREが劣っている。
→REが悪いランナーが良いランナーとの差を縮めることを可能にしているように見える。
・NAFでのRE改善率(0~2.2%)が最も低かった4人の被験者は、被験者の中で最も高い4つのケイデンスを記録していた。また、被験者の中で唯一上下動が8cm以下だったランナーはNAFでのRE改善率は0%であった。
→ケイデンスが高く上下動が小さいという特性は、元々REの良いランナーであることに由来するのか、それともこれらの特性が反応性に影響しているのかは不明。
結論
テストしたシューズの中には、従来のレーシングシューズよりも優れた性能を発揮するものがあった。その中でNAFとAMSのみがNVF2に匹敵した。これらのデータから、ランニングシューズ市場全体では、NVF2がもたらす優位性に追いついていないことが示唆される。
読んだ感想
3強シューズがNAF、NVF、AMSというのは、実態とも一致していると感じた。日本の大学生・実業団選手はシューズ契約の縛りが少ない、結果を出さなければ生き残れない、という点で、彼らがレースで履いているシューズは「最もパフォーマンスを発揮できる」シューズである可能性が高いと考えている。この研究で使われたシューズの中だとレースで見かけるのは3強シューズに限られる印象を受ける。サッカニーやブルックスのカーボンプレートシューズの評判も良いが、テンポ走や距離走での使用が中心であるような印象を受ける。論文中でも、ナイキがもたらす優位性に各ブランドまだ追いついていないという旨の記述があったが、全体としてはその実態を裏付けるような結果である。一方で、それまでは完全な「ナイキ1強」であったが、このデータでもAMSがそれに匹敵するシューズであることが証明され、この研究では使われていないものの、アディダスのアディオスプロも国内外で結果を残している。以前と比べたらエリート選手のシューズ選択のバリエーションは増えているように感じる。
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