【day12】MY POPSTAR

 砂金が取れると噂される川で遊んでいたら空から女の子が落ちてきた。慌てる暇もなく僕は受けて止めていた。

 おかしな話だけど受け止めた腕にも脚にも衝撃はなく女の子は羽のように軽い。上を見れば自殺者がよく利用する橋があり、二十メートルから三十メートルといったところだろうか、目を凝らせば一足のスニーカーが不自然なくらいきれいに並んでいる。女の子は裸足だった。靴下を履かないタイプなんだなと少し軽蔑した。

「きゃあ!」

 僕の腕の中で目を覚ました女の子は僕を見るなり奇声を上げて飛びのき、半身になって自身の腕で震える体を抱いた。僕を見るその目は明らかな警戒と困惑、わずかばかりの敵意があるようだった。

「なんでそんなに体が軽いんですか」

「身軽になりたいと願ったから。それより誰ですかあなた」

「落ちてきたんですよ、そこの橋の上から。あなたが。で、僕が助けた」

「助けて欲しいなんて言ってませんが」

「結果としてそうなっただけで僕も助けようとは思っていませんでした」

「なら今度は放っておいてください」

「それが出来なかったゆえの現状ですよ。頭悪いんですか、落ちてくる途中でどこかにぶつけました?」

「では今すぐここを立ち去ればいいじゃないですか」

「あなたが橋の上から落ちるのを止めるならいいですよ」

「それこそ結果論でしょう。あなたが立ち去ったからといって私がまた落ちるかどうかはあなたには分からないのだから。見て見ぬふりができないなどというあなたの大層な正義感には抵触しませんよ」

「可能性があるなら潰しておきたいじゃないですか」

「それなら全国の自殺名所でも巡ってくださいよ。その方が建設的でしょう」

「それもいい案ですが別に死にたいなら死ねばいいんですよそんな人たちは。僕はこの川に用があるからどくことができないだけで、あなたの言う正義感だとかは持ち合わせていません」

「それならさっさとその用事を終わらせて消えてください」

「いえ実は、用事はもう終わったんです」

 僕は女の子の方へと歩いていく。その場から動かない女の子はしかし、引きつった頬としわの寄った眉間、親の仇でも見るような怯えた目で僕を見ていた。「その用事ってなんだったんですか」僕は女の子を抱きしめた。

「あなたを見つけることです」

 僕は恋に落ちていた。