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読書01.トヨタ生産方式に見る「自律型人材」の育成に必要なこと(トヨタ物語/野地秩嘉)

昨今、「自律型人材」の必要性が叫ばれている。
VUCAという言葉に標ぼうされるように、先行きの見えない世の中、自律的に仕事に取組むことが個人に求められている。

ところで、「自律」とはどういうことなのだろうか?
コトバンクによると、自律とは、

① 自分で自分の行ないを規制すること。外部からの力にしばられないで、自分の立てた規範に従って行動すること。

とのことである。(他にもあるが、割愛)
ここに少し自分なりの解釈を加えてみると、自律型人材とは、

自分の頭で考えて行動できる人

ということになる。

そして、本書でその成り立ちから定着の歴史までが記された「トヨタ生産方式」は、まさしく「自律型人材」を育成する仕組みである。
日本一の大企業トヨタは、ずっと以前から「自律型人材」の育成をしてきたのである。

「トヨタ生産方式」では、ひとりひとりが徹底的に「考える」ことが求められる。
ラインに不具合が生じれば、「アンドン」と言われる仕組みでライン担当者自身が管理職の決断を待たずにラインを止める。そして原因がわかるまで、例え10時間を超えても、何時間でもラインを止め続ける。
ラインを止めるということは、その間生産活動をしないということであり、つまりはお金を生まない時間を過ごすということである。通常の考え方だと、生産台数を達成するためにラインを動かしてしまうが、トヨタでは徹底的に動かさない。
その間、従業員は胃がキリキリするような思いがするだろう。ただ、胃をキリキリさせながら、「カイゼン」できることがないか考える。
いかなる状況でも、作業効率を高め、無駄な中間在庫をなくし、常に改善できることはないかと考える。

大事なことは導き出した解決策を「そのまま教えない」ことだ。伝授するのではなく、現場の人間が思いついたように答えを引き出す。指導する人間が出した答えと同じでなくとも、現場の人間がやりやすいと思ったら、そちらの方が正しい答えだ。(474ページ)
昨日よりも今日、今日よりも明日、連綿と向上させる。それがトヨタ生産方式の行きつくところだ。こう書くと、非常に過酷な生産方式のように思えるけれど、どんな仕事であっても、「考えて仕事をする」とはそういうことだ。毎日、朝、現場に来て考える。

あまりの厳しさから社内で「鬼」とまで呼ばれる生産調査室が指導役となり、(かなりマッチョめな)コーチングスタイルで、現場の従業員を「考える」人材にしていく。
そして、例えばアンドンを引いてくれた作業者には必ず「ありがとう」と声をかけるなど、心理的安全性を担保することを欠かさない。
この絶妙なバランスによって、トヨタの生産現場では自律型人材が育っている。

冒頭、「自律型人材とは、自分の頭で考えて行動できる人」だと書いた。
シンプルだが難しいこの定義に対して、トヨタ生産方式には、
①常に目的を捉え、もっとよくするにはどうしたらいいかを考える
②そのためのアクションを承認する、受け止める
③そしてそのアクション・文化を毎日継続する
というヒントをくれている。

最後に、カイゼンについての解釈をとおして、「自律型人材」になる本当の意味を垣間見た一節を紹介したい。

なぜ、作業者がやりやすいようなカイゼンを施すのか。それは、生産性を向上させるには仕事が楽しくなる、楽になるのがいちばんだからだ。もっとも生産性が上がる作業とは体調がよくて、気分もよくて、やっていること自体が楽しい時であり、そういう状態にすることが本来のカイゼンだ。


自分が楽しく元気に働き、のびのびと能力を発揮すること。
自律型人材育成の第一歩は、そんな未来をイメージすることかもしれない。

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