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居酒屋「よりみち」商売繁盛記〜失敗から始まる新たな人生〜5/5



【 エピローグ 】

「まぁ。ミイちゃんには兄弟がいたのね。」
フレイアは驚いたように言って目を細めた。
まだベッドから起き上がれないフレイアによく見えるように赤い首輪をしたトリエグルをハルカが抱き上げる。
おとなしく抱き上げられたトリエグルはそのままフレイアのそばにいきたいそぶりを見せたので、ハルカはトリエグルをフレイアの布団の上に置いた。

今日、ハルカたちはアリサに段取りをしてもらって、コルチナ商会が持っている別邸で療養中のフレイアにトリエグルを渡しにきた。

ハルカの足元をうろうろしていたベイグルと、フレイアの側を離れないとばかりに布団の上で丸くなったトリエグル(ミイちゃん)。
ベイグルの赤い首輪には金色の鈴が、トリエグルの首輪には、魔石の代わりにリボンがついていた。

布団の上で丸くなった子猫を優しい目で見てフレイアは言った。

「占いによると…」
アリサは言った。
「このコは先代のミイちゃんの生まれ変わりですよ。動物は望めば自分の主人の元にもう一度生まれ変わって戻ってくることができるのですって。」

フレイアが言う。
「火事の時にね、ミイちゃんが私を守ってくれたように思うの。そうでなければ私は助からなかったと思う。おかしな事を言うと思うでしょう?でも、そんな確信があるの。あんな火事で、このコが怪我をしなくて本当に良かったわ。」

フレイアの顔には包帯が巻かれている。おそらく跡が残ってしまうだろう。
「傷は痛みますか?」
痛々しいフレイアを心配そうに見つめるハルカの視線を感じたフレイアは
ユーモアたっぷりにこう言った。
「ウチが薬問屋で良かったわ。よく効く痛み止めが手に入りやすくて」

強い人だ。この人は、本当はこのような明るいお茶目な一面がある方なのかもしれないな…ハルカはそう思った。
フレイアがハルカを気に入ったようなのを見てアリサが如才なく言った。
「奥様、ミイちゃんは、うちのベイちゃん(ベイグル)と仲良しなので、たまにはミイちゃんと姉妹で遊ばせてあげてください。飼い主のハルカが連れてきますので」
「それで、もしよければウチのハルカをお話し相手に、色々教えていただけますと、助かりますわ。
実は、内緒なのですが、このハルカは「あちら」から来たんです。それで行く所がなくて、ウチで住み込みで働き始めたのですけど、とにかくこちらの世界に疎くて危なっかしくて仕方ないんですの」
「あら、それはいいわ。」
フレイアはふふふと笑ったようだった。ハルカを見て言う。
「あなた、しばらくベッドから動けない私の気晴らしに話し相手になってくださる?」
急に話を振られて目を丸くしていたハルカだったが、フレイアの申し出を楽しく受けたくなっている自分に気づいた。
以前だったら、勇気がなくて、新しいことには躊躇して逃げたくなっていただろう。

「はい、よろしくお願いします。ベイちゃんを連れて、奥様とミイちゃんに会いに参ります。」

一歩、踏み出してみよう。自分のできることをやってみよう。誰かの役に立ってみよう。
自分から世界に関わってみよう。
ハルカはそう思った。

「ニャァ」

ハルカの心を読んだかのように、ベイグルが鳴いた。
フレイアが微笑んでいるのを見て、ミイちゃんがゴロゴロと喉を鳴らした。



#創作大賞2023

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