神の香柏とそのシダーローズ
ウィキソースの口語訳旧約聖書に、香柏(こうはく)という言葉が、たまに出てくる(訳によって書かれ方は様々だが)。
旧約聖書『詩篇』第80篇10-11節。
「 山々はその影でおおわれ、神の香柏はその枝でおおわれました。
これはその枝を海にまでのべ、その若枝を大川にまでのべました」
また、『エゼキエル書』第17章22-24節には、
「 主なる神はこう言われる、「わたしはまた香柏の高いこずえから小枝をとって、これを植え、その若芽の頂から柔らかい芽を摘みとり、これを高いすぐれた山に植える。
わたしはイスラエルの高い山にこれを植える。これは枝を出し、実を結び、みごとな香柏となり、その下にもろもろの種類の獣が住み、その枝の陰に各種の鳥が巣をつくる。
そして野のすべての木は、主なるわたしが高い木を低くし、低い木を高くし、緑の木を枯らし、枯れ木を緑にすることを知るようになる。主であるわたしはこれを語り、これをするのである」」
……と。
新共同訳ではそこ(エゼキエル書17:22)を「うっそうとしたレバノン杉」と訳している。
『香柏』とは、レバノン杉のことで、ヒマラヤスギ属の樹だ。杉とはいうが、マツ科の植物である。
松、ということは、『松ぼっくり』が出来る。
そのレバノン杉の松ぼっくりである『シダーローズ』を加工したものがある。
名前の通りの薔薇のようなカタチになるので、クリスマスで大人気なのである。
もちろん、そのままで飾りつけをすることも多い。
僕が働いている職場の庭に、大きな大きなヒマラヤスギ……レバノン杉があり、無許可で登ってその松ぼっくりを拾っていくひとが、後を絶たない。
無許可で樹に登るひとに、
「許可を取ってください」
と言うと、
「これ(松ぼっくりとヒマラヤスギ)が、なんなのか、あなたはわかっていますか?」
と、問い返され、話をうやむやにされるのが、いつものパターンだ。
ちなみに、職場にあるそれは曙杉(メタセコイア)なのではないか、とも言われるので、調べてみる必要はある。
どちらにしろ、球果を使いたいという声がたくさんあるのは事実だ。
話を戻すと。
〈ルアハ〉というヘブライ語がある。
風という意味が元々の意味の言葉であるが、いわゆる「神がかっている」ときに、使う言葉で、聖書に何度も出てくる。
上述した『詩篇』の杉も、訳によれば「神の杉」と呼称される。
ルアハな杉だ、ということであり、〈とても大きい杉〉と言ったところか。
レバノンには『カディーシャ渓谷と神の杉の森』というユネスコ文化遺産になっている世界遺産がある。
登録名にある神の杉とは、レバノン杉のことを指し、「cedars」と表記されている。
そう、シダーローズとは、『Cedar Rose』と表記するのだ。
松ぼっくりとは、球果のことで、時期になると球果の先端が落ちてくる。
これがシダーローズで、その落ちてきたシダーローズをアレンジメントしてクリスマスの飾りつけにするのは、話を知っているひとにはとても喜ばれるのだ。
今回は聖書の話をしているが、実はメソポタミアの『ギルガメッシュ叙事詩』にも、レバノン杉が出てくる。
僕は、なにも知らなかった。
シダーローズの出てくる神話。
香柏と呼ばれるほどの「香り」を持つシダーローズについての神話は、魅了する香りが故に、悲劇になる。
いつか僕は、それについて語りだすだろう。
だが、今回は、ここで筆を置こう。
ここまでが神の杉のチュートリアルで、それを踏まえた上で、話は始まる……。
〈了〉
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