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kono星noHIKARI 第17話

BETRAYER Ⅰ       2020.07.22


 ニコはまだ、相馬のいる青森へ向かうことができないでいる。
 この星で行方不明になった者のデータが集まらない。あれ程、管理体制の厳しいTop(中央省)にも、その先のコアの極秘データ内にも、片鱗さえない。相馬から聞いたGalaxy body clockを持ち天の川銀河の危機を救う為、旅立った人のデータも手に入らない。ジェフが何度もTopへ情報の開示を求めているが未だに反応はない。自分たちの星KPnsに戻った人へここからアンケート調査を送ったが返信はない。


 梅雨明けはまだだ。見よう見まねで、この星の夏を過ごそうと、屋上に作った四阿あずまやに誰かが下げた風鈴が早い夏の音色を奏ている。

 オフィスではジェフとノアがふたりっきりで外出しようと企てているが、ニコから監視役を頼まれてるリオにすぐに勘づかれ、結局3人で出かけることになった。ずっと雨の日が続いたが今日は曇り空の予報だ。3人はそれぞれ、Tシャツにショートパンツ姿だがノアは薄手のジャケットを羽織っている。3人ともストラップサンダルを履いている。気温も湿度も高く、マスクをつけていることも相まって不快なではあるが、自分達の星の二酸化炭素が多い大気よりは過ごしやすい。

リオ「僕もね、買い物したかったの。ダニーの服を買いたいんだよね。いつか一緒に出かけられるようにさ。正体不明の彗星を解明できない自分に責任を感じてるらしくてさ、ビルから出たことあるのかな?誰も責めてないのにね。自分のことを不甲斐ないと思ってるんだ......?あれ?」
 振り返ると、そこにふたりの姿は無かった。
リオ「ちょっとぉ~!何なのっ!」

 戻ると通り過ぎた交差点の右手にペットショップがあった。ふたりはやはりそこに居て、いつまでも子犬のケージから離れない。しばらく見学させてから、やっと引き剥がし、ジェフの行きつけの店に向かった。

ジェ「ワーオ!ジジイ!」
 いきなり大きな声でジェフが、店から出てきた小柄な老人を指さした。久しぶりにペイさんと会えたジェフは嬉しさ全開で走り寄り、思い切り抱きしめる。

ペい「ジェフ、痛いよ。久しぶりだねぇ。またデカくなったか?」

ジェ「あ、sorry!デカくなったないよ!『light&shadow』がお休み貼ってて、ジジイと会えなかったよ」

ノア「ジェフの友達のGigiなの?こんちは〜」

リオ「こんにちは!Gigiさん!」

ジェ「はいはい。Youたちジェフの友達かい?これまた、元気そうな子達だ!買い物は後だ!ご飯を食べに行こう!」

 3人は大喜びでぺいさんについて行った。
 横浜の中華街にあるぺいさん馴染みの店に着いた。客が1組いたが、奥の部屋へ店主に通された。コロナ禍で予約制にしているので、客同士がかち合わないようになっている。しかし、ぺいさんは予約なしでもこの店に入れる特別な客らしい。

 ジェフからぺいさんのことを聞いていたリオ、ノアは興味津々で円卓に座るや否や、前のめりでぺいさんに質問を始めた。

リオ「Gigiさんはもしかして、すごくやばい人なの?」

ジェ「やばい人?」

ぺい「どんな人がやばい人なんだい?」

リオ「例えば、街を牛耳る影のドンとか、大金持ちとかで、この辺りの店にも顔パスで入れるとか?」

ノア「首領ドンなの?首領ドンなの?」

ぺい「はーはっはっはっは。ああ、そうか僕のビジネス、教えてなかったね」

ジェ「『light&shadow』waiter?」

ぺい「Not like that!」

ノア「分かった!おじいさん」

リオ「職業じゃないじゃん!」

ぺい「合ってるよ。日本のいろんな物を外国に売る会社の社長だった。だけど、歳を取っておじいさんになったからな、他の人に代わったんだ」

ジェ「シャチョさん?すご〜い」

ノア「ってことは、首領ドンだったの?」

ぺい「はーっはっは。ドンではないよ。もう働かなくていいから、楽しい事をしてる」

リオ「でも、ジェフと会ったお店はやってないんでしょ?他にも楽しいことあるの?」

ぺい「楽しいことなんて探せば沢山あるさ。ひとりで釣りやサーフィンをすることもあるし、家でだって音楽は聴けるし、楽器もできる。TVもあれば、ラジオもある。ゲームで対人もできる。海外の友達を見ながら話もできる」

ノア「サーフィンするの?」

ぺい「色んな国の波に乗ったよ」

ジェ「世界中友達いるね?」

ぺい「そうだよ。サーフィン仲間は沢山いる。連絡は取り合えるからね。今が不幸なんてちっとも思ってない。見方を変えるんだ。このお店だってやり方を変えたから、収入が減る事はない」

リオ「すごっ!いいこと聞いた気がする!僕も海外行ったよ」

ぺい「そうか!海外に旅行に行ったのか?」

リオ「この星の歴史が好きなんでね」

ぺい「そうか!ギョベクリ・テペは見たか?」

リオ「もちろんさ」

ぺい「Oh!それは良かった」

ノア「なにそれ?」

リオ「トルコにある最古の遺跡だよ」

ジェ・ノア「へえ〜」

 初めての味を堪能した後、海が見える公園を散策した。ジェフとリオが飲み物を買っている。
 一ヶ所に留まると相変わらず、ノア目掛けて鳩や雀などが集まって来て、ぺいさんも驚いている。

ぺい「Youは生き物に好かれてるのか?」

ノア「オレ、そうなの。可愛くて皆んなと遊んであげたいけど、沢山来すぎてできないんだ。周りの人に迷惑かけちゃうし」

ぺい「みんなに大好きだよと言えばいいんだ。そうすれば安心して、追いかけ回さなくなるから」

ノア「やってみていい?」

ぺい「ああ」

ノア「みんな大好きだよ!大好きだよ!」
 360度回転しながら、鳥たちに話しかけてみた。

ノア「あんま、変わらんなぁ」

ぺい「お?そうか?はーはっは!」

ノア「Gigi、ホントのことだったの?」

ぺい「誰かに聞いたんだ。はーっはっはっは。好きが伝わると落ち着くんだ。ノア、君は心と同じ、凄く澄んだ目を持ってる。君が必ず叶うと思って願うんだ」

ノア「あ〜なんかまた、変な鳥がきたよ?叶ってないじゃん!これ、ヨウムだよ?また、警察行きだ。だからシャツ1枚になれないんだよ。暑いのに〜」

ぺい「ほう?はっはっは」

 ヨウムがノアの肩にとまり『スキダヨスキダヨ』と繰り返している。リオとジェフが戻ってきて、肩に大きな鳥を乗せた困り顔のノアを見て腹を抱えて笑う。

 警察署で自分の住所と電話番号をヨウムが話し始めたお陰で、飼い主がすぐ分かり、手続きが長くなる事はなかった。

 ノアとリオが警察署に行ってる間、公園のベンチにジェフとぺいさんが座って海を眺めた。

ジェ「ジジイ、元気なの。よかった」

ぺい「こんな世の中になるなんて、思ってなかったからね。心配かけたね。ありがとう。ジェフ、少し日本語がうまくなったよ」

ジェ「ほんと?Telephone number分からないから心配した。おしゃべりしたかった。楽しい事とか──また............」
 声が小さくなり、視線が下を向く。

ぺい「んん?ジェフ、元気ないねぇ。どうかしたか?」

ジェ「ボク、みんなを騙した」

ぺい「どうして?どんなふうに?」

ジェ「I do not know, but............」

ぺい「ジェフは皆が好きなんだろう?皆もジェフが好きなんだろう?見てると分かるよ」

ジェ「I want to think so...」

ぺい「じゃあ、大丈夫だ。その気持ちが、支えになるよ。騙そうと思ったことはないだろう?」

 ジェフはうんうんと頭を縦に振った。

 ジェフは自分の記憶の一部が変化している事に気付いた。あのシークレットルームでのパスワードも操作方法も、今まで認識したことは一切なかった。自分が気付かぬ間に何かを知っていることが実際に起こっている。もしかすると、ノアにこの星で宇宙を救えと誘導したのは自分ではないかという猜疑心が湧いてきている。Topのエリートとして今まで何の疑問も無く生きてきた自分の足下が崩れだした気がする。仲間と一緒に笑いあって、助け合って、ぺいさんや店の人たちと音楽を楽しんで、そんな自分が本当の自分であって欲しいと祈った。

 ジェフはぺいさんが携帯電話を持ち歩かないと知っているので、自宅の電話番号を聞いた。そしてジェフの連絡先のメモを渡した。
ジェ「ジジイ、一人暮らし。困ったことあったらtelephoneね。mailでもいいよ」

ぺい「OK。OK」

ジェ「ボク、telephoneしていい?」

 ぺいさんは笑って頷いた。ジェフがホッとした表情になる。

 3人はぺいさんにご馳走になっただけでなく、洋服も買ってもらった。リオがダニーの服を迷っていると、ダニーの背格好を聞いて、これはどうだ?と次々とリオの両手に乗せていく。ニコへの服を探していたノアの腕にも服の山ができた。ダニーやニコの分まで全てぺいさんが支払った。またご飯を食べようと約束して、ぺいさんと別れビルに向かう。

リオ「ルカにも服を探せば良かったかな?」

ノア「そこは、ほら、デートで買うでしょうから。ねえ」

リオ「あ。そか」

ジェ「ジジイ、いいひと」

ノア「ほんと、そうだね。ジェフ、Gigiに会えて良かったね」

ジェ「うん」

リオ「僕、Gigiさんと話してて、間違って地球の事『この星』って言っちゃったんだ。でも、スルーされて」

ノア「別に不思議じゃないよ?」

リオ「地球の人はあまり言わないんじゃない?気のせいかな。何かさ、なんか、意識の種類が違うんだ」

ノア「おじいちゃんだからじゃん?いっぱい色々知ってるみたいだしさ」

リオ「そう......かな?」

ノア「嬉しいなあ。Gigiと友達なっちゃった。えへへへ」


 間もなく彼らのビルが見えて来そうなところで、ジェフ、ノアの意識にリオの声が届く、
——なんかさ、この1ヶ月くらい前からなんだけど、僕たちへの意識を感じるんだ。単なる、ファンなのかなって、興味なかったから気にもしてなかったけど、今日はずっとついてきてる。後ろに男女のふたりがいる。あ、振り返んないで。バラバラにビルに戻ろう——

 ビルの300m程手前の交差点で「じゃ、また」とそれぞれが手を挙げて、別方向に向かって別れた。

 バラバラになった3人に一瞬、ふたりは慌てたが、男はノアの後を、女はリオの後を追ってきた。ジェフが先にビルに入ろうと角を曲がった時、人とぶつかった。

女「あ。ごめんなさい!」

 ジェフが持った沢山の紙袋の隙間から女性が見えた。見覚えがある。
ジェ「sorry!だいじょぶ?えと?コンビニの?」

女「あ?そうです。ぜんぜん大丈夫です。いつも買いに来てくれてありがとうございます!ごめんなさい。バイトの時間遅れそうで」

ジェ「そなのね?気をつけて、転ばないようにだよ。また、行きますから!」

女「ありがとうございます。待ってますね!」

 ジェフが彼女の背中にずっと手を振っている。
 リオとノアが近付いても気が付かない。彼女の姿が見えなくなって、ニヤニヤ顔のまま振り返ったジェフが後にいたふたりにびっくりする。

リオ「大丈夫だったよ。気のせいかな?すぐ、意識が感じられなくなって、追って来なくなったんだ」

ノア「何だったんだろ〜ね〜。あれ〜?ジェフはどうしたのかな〜?」
   わざと覗き込む。

ジェ「コンビニの女の子と、会ったの」

リオ「へー?嬉しそうね」

ノア「オレらよく行くコンビニだよね?いたいた確か1か月前くらいからいた。めちゃめちゃ可愛い子だよね」

ジェ「......」

リオ「え?恋してるの?」

ジェ「ののののののぉーん!」

リオ・ノア「ふーん?」

 ジェフは耳まで真っ赤だった。

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