手帳ミステリー SOSEIの手帳11
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手帳ミステリ SOSEIの手帳10|Rukawa.Nagamasa (note.com)
Day7: 深海蒼生
「ハッカーなんてデジタル人間がなぜ、手帳を?」と思わず声を出してしまった。
「君もそうだろう。デジタル人間は手書きに戻っていくのさ。」と、響さんの先輩に指をさされる。
「デジタルは必ず流出すると思っているようだ。結果、恐ろしくアナログな手段で情報整理や交換をしているらしい。その中で、日本の革手帳やノートのクオリティの高さがお気に入りで特に、職人の一品物などに興味が強いらしい。」吉川さんの落ち着いた声の説明に、思わず納得してしまう。
なるほど。これが、後戻りできないってことか。手伝いをしないとしても、何も考えずにイベントを楽しむことはできない。
「メーカーに話した方がはやいのでは?」と返す。難しいのは分かっているが。
「検討したがね。日本の企業だと、イベントが中止になる可能性の方が高いと判断して、それは回避した。だが、君は少なからずメーカーの人とも繋がっているだろう。」と先輩が答える。
「会話をする程度ですよ。向こうの担当者の方は知っていますけど、向こうが、俺のことをどれくらい認識しているかはわからないですし」と答える。
「イベントは2日あります。自分は1日しか参加できないですよ。2日参加するとむしろ違和感が強くなる。」と説明をした。
「そこは私たちも理解している。君のような候補は何人かリストアップし、テストさせてもらった。合格者は3組だけだったがな。」と藍沢という男とが答える。この男は軽いのか重いのかよくわからない。
「3組?みんな誰かと組んでいるんですか?」と聞くと、「一人だと危なすぎるからな。バディが必要だ」と答える、吉川という男性。
「なるほど。そのハッカーがどんな人なのか、名前とか写真はあるんですか?」と追加の質問。
「全くない。だが、手帳にその片鱗があるはずだ。」と、確信の声で話す。
「そんな危ないもの持ち歩かないでしょう。」と、珍しく響さんが答える。
「すべては持ち歩かなくとも、でかい偉業の成果になるなにかは持ち歩いている可能性が高い。」、吉川という男は目をつむりながら話す。
おそらく、ここは賭けの部分も強いのだろう。
「メダルは持ち歩くということですか。そこに期待して、いろんな人と知り合いになって手帳を見せてもらえと。」依頼内容を想像して答える。
「話が早くて助かる。」と、先輩の声。
「ちなみに報酬は?」と、ワントーン下げて聞いた。
「我々がイベント内容を確認できるカメラをつけて参加してくれた時点で10万。1人手帳の中身をみつけてくれたら1万。
ハッカーを見つけてくれたら、1000万。」 と先輩。
響さんはビッグボーナスだと思っているのか、びっくりした顔をしている。
「最後、安いですね。」と切り返す。もちろん、吹っ掛けている。
「いくらなら頑張ってくれるかな。」と吉川さん。きっと、吹っ掛けられていることも気づいているのだろう。
「1億でどうです。」スパっという。
「ふっかけるな。」と先輩が、ちょっと起こり気味で返答。
「こんな手の込んだテストできるんだから余裕ですよね?ずっと響さんの先輩に俺たち見張らせていられるくらい。」
「気づいてたのか?」と藍沢が驚きの声を上げる。
「東京駅のロッカーのところですね。なんか感じました。確信したのはあの動画で、俺だけ名前まで言わなかった時ですけど。」
「このペンで盗聴してても、俺の下の名前話してないですからね。」と手帳に刺さっていた茶色い縞のの万年筆を取り出す
「ヒュー。そこまできづいてたのか。」
びっくりする先輩。
「それもわざとでしょ。だってサイバー課で俺のこと調べてたらわかるでしょ、さすがに。」
だから、色々手に届く謎が多かったのか。 なるほどと納得する。
「ちなみに響さんを巻き込んだ理由は?別に彼とコンビになる必要は買ったはずだ。手帳もあなたが持ってきてもよかったですよね。」 と先輩に言い放つ。
「こいつの強み、気づいた?」と先輩が楽しそうに話す。
「巻き込み力みたいな?」 と答える。
「なるほど。いい線だ
こいつはね、最高の課題解決者なんだよ。」と、自信ありげに話す。
へ?ないない。って顔をしていると。
「こいつが解くんじゃないんだが、解けるやつに説くべくして問題を渡せる能力だ。信じられないけどな。大学時代それで何度も助けられたり、俺が自分の才能に気づけたりしたもんさ。
それが俺の直人評。その直人がお前を相棒に選んだなら、それが最適解だ。」
先輩が、響さんに視線を送りながら微笑みを浮かべる。
本当に信じているようだ。最高の誉め言葉を受けた響さんは照れ方がわからないように、もぞもぞしている。
「正直億は出せるかはわからんが、増額はできる。」
吉川さんが話を遮った。まだ、何かを言いたげな先輩は、反笑いを浮かべて下を向く。やりすぎたと思っているようだ。
なるほど。響の先輩は分析思考よりの話好きか。話長いんだろうな。
「2人セットで協力してもらえるということでいいかな?」渋い声が続く。
クロージング突入だ。
「条件がもう一つ。イベントの2日目にしてください。1日目は人が多すぎて、多分ゆっくり話しかけれない。」
「なるほど。参加者の声は重要だな。
その条件でかまわないが。その場合、3組しか合格していない以上、残り2組は、初日。必然的に君たちが1組になるが、大丈夫か?」と先輩。
「大丈夫かどうかは、あなたたちが決めてください。正直、どこまでできるかわからない。メーカーの人たちにも迷惑をかけたくないし。1人を見つけるために、それ以外の人たちを不快にもさせたくない。」
と、正面から強めの口調で言う。
「わかった。我々も自分たちでできるバックアップは行う。」そういうと、
威厳ある老人は、俺の前に手を差し出し握手を求めてきた。
本気なんだな。
握手を返す。厚い、温かい手だ。内面はどうかわからないが。。
隣では、先輩と響が握手を終え、先輩とよばれているひとが、俺にも握手を求めてきた。
「それでは、細かい打ち合わせをしたいので、部屋にいこう。」と逢沢といったか、先輩が声をかける。
それを聞いて、もう?という顔で、響が急いでケーキに手を付け始めた。
「彼がケーキを食べる時間くらい待てるだろう」と老人がいう。時間に細かい人なんだろう。だが、今は優しい顔で響がケーキをがっつくところを見ている。
「一つ聞いてもいいですか」と質問する。「どうして俺を選んだのですか?」
ちょうど、ウェイターが伝票を持ってきた。初老の男性は、その伝票を受け取り、
「君が望む答えになるかわからないが、第一に、今回のイベントのメーカーの手帳を使っているからだ。第二に、君のインスタグラムのコメントから手帳に詳しそうだと思ったから。最後に、私も好きなペリカンの万年筆を君も愛用していたからだ。」
といって、スーツの胸ポケットから緑色の縞のペリカンの万年筆を取り出した。
おしゃれなサインをしてウェイターに返す。
「ペリカンいいですよね。」
「君の子供2匹の天冠は私も好きだよ」 この人もアナログの人なんだと分かった。
文具好きの中に悪い人はいない。それが俺の持論。なのに、犯罪者を捕まえろというのは、自分の価値観を揺るがす大事件だ。どこまでできるかわからないが、少し、気持ちが上がっている自分を実感する。
「さて、いこうか」白髪の男性が立ち上がった。
みんなで部屋に向かいだす。大きな窓から、高くなった太陽の光が真上から差し込んできていた。
終わり
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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