手帳ミステリー SOSEIの手帳10
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手帳ミステリ SOSEIの手帳9|Rukawa.Nagamasa (note.com)
Day7:響直人
「ここですよね。」隣に立っている深海さんに声をかける。
「行ってみましょうか。 」いつも冷静な青年も少し緊張の面持ちだ。
PCの謎を解いて辿り着いたのはホテルのラウンジ。
覚悟を持って、キーの入力完了後に表示されたのは、有名なアミューズメント施設のホテルのピンポイントの天気。しかも、金曜日になったばかりだというのに、日付は土曜日の10時からの天気が表示された。
これは、明日の10時にここに行けばいいってことじゃないかということになり、6日目は日が変わった直後の2時間くらいで解散になった。土曜日の9時半。舞浜に集合して、今、ホテルの入り口の前に二人で立っている。
ちなみに、先輩には謎が解けましたというLINEを送ったのだが、これも完全に既読スルーされている。
深海さんは今日は私服。とは言ってもポロシャツにチノパンとこの場所にあっている。自分は何も考えずいつも通りTシャツにジーパンできてしまった。ま、子供が好きなテーマパークのホテルなので、カジュアルな人たちも多いのだが。
席はどこだろう。
「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」と入り口の人に声を掛けられる。
「えー、待ち合わせなんです。」と深見さんが答える
「どなたとお待ち合わせですか?」男性の質問。
あれ。誰宛?先輩の名前を出したほうがいいのかな と考えていると、
「田中さんで予約されてるはずなのですが。」深海さんは、何のためらいもなく答えた。
「はい、お待ちしておりました。こちらです。」
と言って、ラウンジの中に招き入れてくれた。気持ちの良い大きな窓ガラスの奥の少しこじんまりした場所に、白髪の老人と一緒に談笑している先輩の姿を発見する。
「先輩。」と声をかけると、
「直人よくきたな。」と言って握手を求めてくれる。
知らない人がいても、いつもと変わらない。
「深海くんですね。はじめまして、藍沢です。
直人の大学の先輩で、、」
と自己紹介の途中だったが、
「今回の首謀者ですよね? 」と、冷たい声で深海さんが遮って、白髪の男性に鋭い視線を送っている。
その視線に気づいていないように、「ま、座ろうか。」と落ち着いた、深みのある低い声で白髪の男性が返した。その何気ない圧に、みんな無言で席につく。
水と一緒にメニューを持ってきてくれる。ケーキセットや限定のスペシャルドリンクがあるらしい。
ケーキセットを頼もうと思っていたのだが、「コーヒーで」と深海さんが口早にたのむ。
つられて、「自分も同じもので」と言ってしまう。
「せっかくなんだからケーキセットにしたら?」と先輩。
「そうだね。2人にコーヒーのケーキセットをお願いします。」
白髪の男性がウェイトレスに声をかけ、自分たちのオーダーを変えてしまった。
微妙な雰囲気を感じてか、ウェイトレスはそそくさと戻っていった。
手帳を取り出し、
「まず、今回のこの手帳は、明らかに俺をターゲットにしてましたよね。」
強めのトーンで深海さんが切り出す。
先輩と初老の男性は視線を合わせ、先輩がそうだと答える。
「なぜそんな手の込んだことを。
ましてや死人が出る事件に俺を巻き込んだんですか。」
周りの人もびっくりしたように声を張り上げて立ち上がった。
そうか、そこに怒りの源泉というか、最後まで付き合ってくれた理由があったのか。この謎解きに本気だったのもそれが原因なら話がわかる。
「すいません。これドラマのリハーサルなんです。」と先輩が業界人のように周りに説明する。納得したのか、周りの人たちも自分たちの楽しみを満喫し始めた。
「まず、初めに。」
初老の男性が口を開くと、
「手帳に入っていた名刺の田中一郎は架空の人物であの会社も出鱈目なものだ。北海道で同性同名の田中一郎さんが亡くなったのは全くの偶然なんだよ。」
あ、深海さん。目が点になった。そうだよね。今回のモチベーションが全否定されちゃったんだもん。
「それについては本当に謝る。だが、結果、君が本気でこのテストに取り組んでくれたことは私たちにとって幸運だった。」
そういって、頭の上まで綺麗に真っ白だとわかるほど深々と頭を下げる。
「全くの出鱈目という証拠はありますか?」
なんとか声を出した質問に、先輩が、
「個人は架空な以上証明できないんだが、」
といい、PCを取り出して、何かを立ち上げる。
「田中の所属会社のホームページは俺が作った。」と、PCの画面がこちらに見えるよう、PCをひっくり返した。確かに、昨日見たホームページの元ファイルのようだ。
「気づくかと思ったが会社名、反対から読んだら、ダウトカンパニーだしな」と先輩が付け加える。深海さんはそこには驚きも、反応もせず、
「じゃ、なぜ、そんな課題を俺に?」 あえて謎という言葉を使わない。
「PCを開いた時に2つキャンディのアイコンがあったのを覚えているね。」白髪の老人がさらに低い声で話しかける
「どっち選んでも同じ結果になったやつでしょう?」深海さんの声は冷たい。できるだけ感情を押し殺している。
「あのときはな。だが、、」と一呼吸を置いて、
今、ここで選んでもらいたい。」と先輩が続く。
「これから先は君の人生に関わる。
だが、まずは、自己紹介をさせてもらおう。私は吉川継次。警視庁サイバー課の人間だ。」
そう言って胸から、警察手帳をちらりとみせる。本物ぽい。本物をみたことないので、ぽいと付けたが。
「そんな人が、一般市民に何のようですか」明らかに会話のペースを握られているが、深見さんはいつもの冷静さを取り戻しているように見える。
あ、いつもの深海さんに戻った。すごい人だな。すぐに冷静になれる。なんとなく、この先の展開を想像しているんだろう。
「改めて聞くが、この先の話を聞いたら、君の人生は変わってしまう。それが嫌なら、あのケーキを食べて帰って欲しい。」
ちょうどウェイトレスさんがケーキとコーヒーを持ってきてくれた。正方形のショートケーキ。スポイトのようなものが刺さっている。
「アルコールを飛ばしたブランデーが入ってます。大人のショートケーキになるのでお楽しみください。」
そう言って下がっていく。
深海さんは、おおよその想定はありそうなのか、こちらをみてきた。
「どうしたいですか?」と自分に聞いてきた。
「直人、お前も決めろ。」先輩が続く。
「深海さんの決定に従いますよ。」迷うことなく、自信をもって言えた。
いいの、それで?という顔をする深海さん。
「この謎解いてくれたのは全部深海さんですし。」といつものように答える。
先輩と吉川さんはフフッと笑った。
それを受けて、深見さんはスポイトのブランデーを一気にかけてケーキに乗っている大きなイチゴとケーキを食べた。一気に。
あれ、帰る?ってこと。
そして、コーヒーを一気に飲み干した。
「すいません。」とウェイターを呼ぶ。
「おかわりお願いします」と声をかけた。
あ、準備万端になったということか。
「話を聞きます。」きりっとした声で反応した。
「1週間後、君もおそらく参加予定の手帳のイベントがあるね?」
「ありますよ。何の関係が? 警察が追っている犯罪者が参加するとでも?」そんな冗談あるのかという雰囲気で、質問を質問で返す
「今、世界に7人のスーパーハッカーがいると言われているのだが、すくなくとも、その1人がそのイベントに参加するはずだ。
その逮捕の手伝いをお願いしたい。」
いやいやー、ないわー。と思わず顔に出てしまう。
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手帳ミステリ SOSEIの手帳11|Rukawa.Nagamasa (note.com)
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