小説「よりそう~手帳と万年筆のちょっといいはなし~」第69話
手帳と万年筆が教えてくれた「席を譲りなさい」という言葉。ちょうど目の前で席を探していた人に譲ったんだけど、その人が呼んだ相手が『たかしさん』。カフェ「キムン」のマスターのお子さんと同じ名前。
まさかこの人が?
結城さんと二人で目を丸くしてアイコンタクト。
できるだけ平静を装いながら二人の会話に耳を傾ける。もちろん違和感がないように適当な会話ぽいことをしようと、話しかけたりするが、話がかみ合わない。だって、お互いに聞いてるのは隣の会話だから。
遠くから見ると、やばいムードのカップルに見えるかもしれない。
そんな中、我々の方に聞こえてきた情報をまとめるとこんな感じ。
・朝一の基調講演はエンジニアの二人もよくわからなかったらしい。
・そのあとのセッションはすごい勉強になって、早く帰って試したいことが 見つかった。
・こんなにたくさん人が集まるカンファレンスは初めて。
・会場の雰囲気なのかもしれないが、今日は暑い。
うーん。ここまでは決定的な情報はあんまりわかんない。
とはいえ、関東近辺ではなくて、別に今日は暑いというほどではないので、どっちかというと北の方なのかも。
ただ、一番気になるのは、結城さんが書いた絵と全くと言っていいほど違うタイプの男性ということ。どっちが正しいのかな。
結城さんは眼鏡の力を使おうとしているのか、ガン見しないようにちらちらとみている。
さて、自分はやっぱり手帳に聞いてみようかな。
手帳を開いて、万年筆をペンホルダーから取り出す。キャップを回して外して、あまりしていないが、キャップをペンの後ろにつけた。
なんて書こうか、そう迷っていると
「素敵なペンですね」、たかしさんではなく最初に席を譲った隆史さんの同僚の方が話しかけてきた。
「え、あ、ありがとうございます。」急でびっくりして返すと、
「お気に入りのペンなんです。なんか持っていると助けてもらえているような気がするんで。」
「へぇ、そうなんですね。自分も社会人になるタイミングで母から同じ感じのペンをもらいましてね。なんか気に入ってずっと使っています。」
そういって見せてくれたのは、ペリカンらしい緑と黒のストライプがついたボールペン。
「やっぱりその緑の縞はペリカンらしいですね。」
俺が答えるよりも早く答えたのは、結城さん。文房具店のスタッフの顔に変わっている。
「素敵なペンをプレゼントしてくださるお母様はすてきですね。」
「あ、ありがとうございます。すてきかどうかはわからないんですけど、、、たかしそろそろ行こうか、次始まるし。。」
結城さんの圧力か、かわいいさなのか焦っているようで、行ってしまった。
あー。もうすこし情報が欲しかったけど。。。
・・・・
さっきの二人は、運んでいたトレイを片付けながら何か話している。
読唇術ができれば、すごいことが分かっていたはずだ。
「たかしってやめろよ、 おまえだってたかしだろ。」
そういっていたのだから。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。すこしでも気に入っていただけたら、続編を書くモチベーションになりますので、スキをお願いします。
また、過去の内容を取りまとめ加筆修正したフルバージョンを作りました。ご興味があればちょっと覗いてみてください。(大分本編と開いてしまったけど)
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