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土門拳の『風貌』

2週間ほど前に、図書館へ本の返却に行った時に、土門拳の『風貌』という写真集を棚で見つけて借りてきました。

『風貌』土門拳
小学館 1999.1

見開きの左ページには人物の写真があって、右のページには、その人物の自筆のサインと、土門拳が書いた撮影時のエピソード、それからその人の略歴が書かれています。

土門拳が若い頃、戦前の昭和10年代から戦後の昭和20年代に撮られたもので、作家や画家、俳優の中には、その作品を知っていたり、名前を聞いたことのある人物だったりするのですが、彼らがとても身近に感じられて、借りてきてからほぼ毎日少しづつページをめくっていました。

例えば幸田露伴の自宅へ行った時には、同行した出版社の人の幸田露伴に対する態度が慇懃を極めたものだった。とか、鈴木大拙のところでは(鈴木大拙の眉毛の立派なこと!一目見たら忘れられない)大拙と彼の息子が一切英語で話していた。とか

この本の表紙の、白いお髭の素敵なお爺さまは志賀直哉。手にしている団扇の造形にも目が釘付けです。

ほとんどの人が明治生まれなので、みなさん着物姿で、写真はモノクロですが、かえってその方が生地の織りの感じとかがよくわかって、様子が良いのです。

土門拳の文章を読んで、その場面を想像しながら、「とられた男」の写真を見る時間は、初めて体験する至福の時間。

鏑木清方のところでは、撮影後に鍋焼きうどんが振る舞われたそうで、そのことだけでもう、鍋焼きうどんは鏑木清方の描いた女たちの傍の存在になって、私にとっても特別になってゆきます。


それで、小林古径(こばやしこけい)という画家の人を初めて知ったのですが、略歴にある作品名に見覚えがあって、それを確かめに東博へ行ってきました。

その作品はすでに展示替えで無くなっていたのですが、代わりに『住吉詣』という掛け軸が展示されていました。

『住吉詣』小林古径筆
大正2年(1913)絹本着色
東京国立博物館 本館
2023年4月16日撮影

明治、大正の頃、まだ海は住吉大社のそばにあったのでしょうか。
古の慣わしと変わらず、船で住吉詣をする難波の海ののどかな風景。

『住吉詣』小林古径筆 部分
大正2年(1913)絹本着色
東京国立博物館 本館


黒縁の畳の上の格子柄の座布団にちょこんと座ってらっしゃった小林古径が描いた「住吉さん」と思うと、なんだか胸がいっぱいになってしまいました。

『住吉詣』小林古径筆 部分
大正2年(1913)絹本着色
東京国立博物館 本館

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