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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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#ショートショート

【ショートショート】エイプリルフール【再掲】

本編  わ、私は……。  別に、アンタのことなんて。  何とも思ってないんだから!         ○ 「……これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」 「いや、ちょっと待て」 「……なによ」 「オレさ、さっき『エイプリルフールなんだし、せっかくだからウソついてみろよ』って言ったよな」 「そうね」 「……今の、ウソなの?」 「…………ウソに決まってるじゃん」 「……そうか」 「照れるな! こっちが恥ずかしい!」 「うるせえ! こっちのセリフだ!!」 後

『ヌーヴォーとヴィンテージ』【#短編小説】

 ――むしろ『超短篇小説』かもしれない。  っていうか、そうだね。  1000文字すら行ってないです。 『ヌーヴォーとヴィンテージ』 「んーっ! うぉいしーっ!」 「『うぉいしい』の?」 「そ。ただの『美味しい』との差別化、的な?」  食後のバニラアイスに舌鼓をうつ彼女の頬は、アイスよりもよく溶けていた。   お気に入りのそれは、乙女のなんとやらなどを考えた上で週3回を限度にしている。  毎日食べるよりも喜びが大きくなるらしい。 「なによ。その顔」 「なにが?

Humanity Dance【#小説】

プロローグ: さながらUTOPIA(ただし続けるとは言ってない)  経年的な老朽化が見えながらも、整備はしっかりと行き届いている関節を、それでもギリギリと言わせながら飼い主の傍らを歩く『犬』。  そんな犬に向かって、シリコンカバーを付けてもらっている『犬』が吠えかけている。  天気も良い昼間の公園は、いつにも増して騒がしいように見える。  不思議に思ったが、よく考えればノイズキャンセリング機能が全開になっていた。  いつもの癖だった。  さすがに外でこれはマズいの

マーガレットの悪夢【超短篇小噺】

『マーガレットの悪夢』 「好き、嫌い……。好き、嫌い……。好き、嫌い……」 「……」 「好き、嫌い……。好き!! ボクのこと、好きなんでしょ!?」 「……いや。その結果が出るまで花をむしり続けるようなオトナは、ちょっと」 「そんな!」 「っていうか、ふつうマーガレットの花びらって奇数枚なんだけど。そんなに偶数のモノばっかり見つけるっていう、アンタの運の悪さもどうかと」 「それはさすがに理不尽!」 「それはアンタに毟られ続けた花のセリフだわ!」 あとがき  い

買い物は「そのとき自分が、どれだけ満足できたか」にかかってくるものなんだ【#超短篇小説】

ポイントカード・シンドローム 「いやぁ、得したー」 「何が」 「コレ買うと、今ポイント還元2倍だって言うからさ。この前から気になってたし、思い切って買っちゃったんだよね」  袋の中を覗けば、おそらくはメイクアップ用のアイテム。  ちょっとした機械っぽい代物だった。 「またポイントたまってきたしー。今度は何と引き換えようかなぁ」  ほくほく顔で袋の中身を見ているカノジョには、しばらくの間何も言わないでおこう。  さっと検索して、わかってしまった。  カノジョが買

げんきをだして 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」〜

『げんきをだして』       なんだか、今日はとくにいそがしそうに出ていった。  お勤めはボクの方が遅いので、たいていは見送る役目。  いってらっしゃいの声は届いただろうか。  せめて、できる限り、今夜はゆっくりできるようにしてあげよう。                    ○      もう真夜中。  1日は短い。  小さな足音。  間違いない。  帰ってきた。  いつもやさしいあなたに、今日はちょっとだけサプライズをあげる。  目の

恋の味 ~超短篇~

『恋の味』  この恋は、たとえて言うなら、ショートケーキの上にあるいちごのようなものだ。  真っ赤に染まったいちごは、見る者をひきつける。  可憐な姿に引き寄せられる。  けど、その実態は――さらにクリームの化粧を施していなければ、その酸味をごまかせない。  蛮勇ながらその実に触れて、痛い目を被ったことなんて数知れず。  だけれど、僕は。  そんないちごに恋をしてしまった。      to be continued...?       あとが

瑠璃色リップルズ 〜超短篇〜

『瑠璃色リップルズ』  「ソウスケくん」 「ん?」 「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」 「……いきなりどうした」  目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。  カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。  この少女は基本的にマジメなタイプだ。  もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。  舗装のがたつきが目立つ歩道

夕景ユートピア 〜超短篇〜

『夕景ユートピア』   互いの頬が紅いのは、きっとこの夕陽のせい。   互いの顔が熱いのも、きっとこの夕焼けのせい。   この世界には今、ふたりだけのように思えて。   互いの腕に力を込めた。     あとがき 今日の超短篇は画像を選んでから書くスタイル。  映像からのインスピレーションで書くっていうのも、楽しいモノです。  ところで。  シルエットの男女って、イイですよね。  

夜咄ヴァイオレット 〜超短篇〜

夜咄ヴァイオレット すみれ色のワンピースに身を包んだ女性が、反対側のホームで静かにたたずんでいる。  どこを見ているのか、何を見ているのか。  線路二本を隔てた先の彼女の視線なんか、こちらにはわかるはずがない。  そのはずなのに、何故だか知らないが、それが手に取るようにわかってしまう。  ——西に向かって立つ彼女は、来るはずのない明日の夜を思っている。  それは、ただの自己投影なのかもしれないが。  もう考えるのはやめよう。  ニンゲンを、やめよう。  目を閉じて、淀み始める

東雲システマティック 〜超短篇〜

東雲システマティック     東の空からは夜明けの報せ。  春の朝は次第に足早。  時々聞こえる大型トラックのクラクションは、それでもどこか眠気を纏っている。  そんな壊れ気味の時計にしたがって、まだ数少ない街ゆく人はいつも足早。  出始めた太陽に背を向けて、歩く先は駅とかだろうか。  こんな時間にどこへ行くの、ってそれは人それぞれ違うだろうけど。  少し冷えた部屋の中から、何も纏わずにそんな光景を眺めてみた。  ため息をひとつ、東雲に溶かす。  そのあたりに影が落ちた