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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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#連作短編

あめふりやまぬ 〜好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜

『あめふりやまぬ』   大粒の雨を降らせていた秋の空は、ようやくその手を緩め始めた。  通り雨くらいだろうと思っていたのだが、予想が甘かったらしい。これならもう少し室内にいた方がよかった。靴の中で濡れているソックスを足の指で少し弄った。 「ごめん、ケイスケくん。お待たせー」 「ううん、さっきついたとこだから」 「……ウソつきぃ、裾とか濡れてるもん」  あっさりとバレてしまった。 「バレちゃあ、しかたあるめえ」 「何それ。時代劇のつもり?」 「まぁ、そんなもん

エイプリルフール 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『エイプリルフール』   わ、私は……。  別に、アンタのことなんて。  何とも思ってないんだから!                     ○           「……これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」 「いや、ちょっと待て」 「……なによ」 「オレさ、さっき『エイプリルフールなんだし、せっかくだからウソついてみろよ』って言ったよな」 「そうね」 「……今の、ウソなの?」 「…………ウソに決まってるじゃん」 「……そうか」

目は口ほどに 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『目は口ほどに』  「どうした? さっきからずっとこっちばっかり見てるけど?」 「……イヤ?」 「イヤではないけど」  今は信号待ちの最中だから別に問題はない。  歩いているときは前を向いておいた方がいいと思うのだけど、どうも彼女はこちらというより、確実に僕の顔ばかりを見ている。  ちらりと視線をそちらに向けると、逸らすというわけではない。  むしろさらに強烈に僕を、僕の目を見てくる。  視神経にまでつながろうとするような目力だ。  くりっとしたブラウンの瞳に吸い

忘却の彼方へ 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『忘却の彼方へ』    忘れてくれて、一向に構いません。  だけど忘れられるということは、たとえほんの少しだったとしても。  あなたの中に私が居た証拠。  ――今はもう、それだけで十分です。       ---------------------     後書き 今回も「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」に掲載済みの作品から持ってきました。  覚えていてもらえたということだけでも嬉しいことってありますよね、きっと。

心理テスト 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『心理テスト』  彼の手元には、どこから持ってきたのか心理テストの本がある。 「さてさて、問題です」 「どーぞ」  彼にとってはただの戯れなのかもしれないけど。  自分だけが訊いて終わり、みたいな.  そんな子供っぽいことを考えているんだとすれば。 「あなたは薄暗い夜道を歩いていましたが、突然後ろから肩を叩かれました。その人は誰でしょう」 「その心理テスト意味ないなー」 「え、そう?」 「……だって、いつでもあなたのことしか思い浮かばないもの」 -----

さくら 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『さくら』  「春太《しゅんた》、何見てんの?」 「ん?」  ソファベッドに座っていると、キッチンの方から美乃《よしの》が呼んできた。 「桜」 「いや、ケータイじゃん」  たしかにそうだけど。  目の前にあるのは、窓ではなくスマホの画面。  その画面は彼女からだと僕の身体で見えない。  少し猫背気味に見えたのだろう。  彼女は持ってきた僕のマグカップを机に置くと、軽く背を叩いてきた。 「……あ、ほんとだ。桜だ」 「でしょ?」 「いつ撮ってきたの?」 「ん