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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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#恋愛小説

【ショートショート】エイプリルフール【再掲】

本編  わ、私は……。  別に、アンタのことなんて。  何とも思ってないんだから!         ○ 「……これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」 「いや、ちょっと待て」 「……なによ」 「オレさ、さっき『エイプリルフールなんだし、せっかくだからウソついてみろよ』って言ったよな」 「そうね」 「……今の、ウソなの?」 「…………ウソに決まってるじゃん」 「……そうか」 「照れるな! こっちが恥ずかしい!」 「うるせえ! こっちのセリフだ!!」 後

『珈琲は月の下で』【#短編小説】

貴女と飲むのは、これがいい。 「ふぅ……」  ちょうどお客様の流れも途切れた、カフェスタイルのバー。お昼とされる時間はコーヒー系をメインに、夜とされる時間帯はお酒をメインに提供するスタイルのコーナーだ。  カウンターのやや奥まったところで、鋭く、だけど小さく一息つく。傍からは気づかれない程度に背筋を伸ばしてみれば、関節も何度かぱきぱきと一心地つくような音を立てた。  かれこれ一週間もこうしていれば、朝も昼も夜もよくわからなくなってくるものだ。それはこうしてカウンターの内

待ち人来たりて、されども 〜短篇〜

『待ち人来たりて、されども』   私はこの風景が好きだった。  私の生きて来た原風景のように思える、この景色が何よりも好きだった。  最近は映画のロケとかに使われたとかで聖地巡礼の人が多くなって来たけれど、それでも時間によっては静けさがやってくる。その時が、何よりも好きだった。  信じたくはなかった。  信じたいはずがなかった。  だから、私は今でもここに居るし、私は今でもあなたを待っていた。  私が大好きなこの場所で。  すっかりモノクロになってしまったこの場所で。  

瑠璃色リップルズ 〜超短篇〜

『瑠璃色リップルズ』  「ソウスケくん」 「ん?」 「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」 「……いきなりどうした」  目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。  カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。  この少女は基本的にマジメなタイプだ。  もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。  舗装のがたつきが目立つ歩道

あなたがいれば ~好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集~

『あなたがいれば』  夕暮れ時。買い物帰り。 「『君さえいれば何もいらない』、なんて言葉があるけどさ」 「……どしたの急に」  怪訝な顔を隠すことなく見せつけてくる。  そりゃそうか。  TPOを考えろ、って話だ。 「わざわざそんな前置きをするってことは、そうじゃない、とでも?」 「それだけじゃ、なんとなく足りないよなぁ、って」 「へえ……。じゃあ、何があればいいの?」 「『君と、君が幸せであるという事実』? ……綺麗な言い回しが思いつかないけど、『君が幸せ

「あちらのお客様からです」 〜短篇〜

   どもです、御子柴です。  今日は、いつもの短篇集からではないところからお話を持って参りました。   本篇  「あちらのお客様からです」  マスターが、カウンターの端に席を取っているあの娘へとカクテルを渡すのを確認しながら、俺は手元にあるジントニックを啜った。  ときどきこのお店のカウンターで、ひとり楽しそうな笑みを浮かべながらお酒を楽しんでいる女性。  キュートなえくぼと、まぁ、その、あれだ。  ……素敵なバストをお持ちでいらっしゃる方だ。  彼女が、少し

あめふりやまぬ 〜好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜

『あめふりやまぬ』   大粒の雨を降らせていた秋の空は、ようやくその手を緩め始めた。  通り雨くらいだろうと思っていたのだが、予想が甘かったらしい。これならもう少し室内にいた方がよかった。靴の中で濡れているソックスを足の指で少し弄った。 「ごめん、ケイスケくん。お待たせー」 「ううん、さっきついたとこだから」 「……ウソつきぃ、裾とか濡れてるもん」  あっさりとバレてしまった。 「バレちゃあ、しかたあるめえ」 「何それ。時代劇のつもり?」 「まぁ、そんなもん

エイプリルフール 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『エイプリルフール』   わ、私は……。  別に、アンタのことなんて。  何とも思ってないんだから!                     ○           「……これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」 「いや、ちょっと待て」 「……なによ」 「オレさ、さっき『エイプリルフールなんだし、せっかくだからウソついてみろよ』って言ったよな」 「そうね」 「……今の、ウソなの?」 「…………ウソに決まってるじゃん」 「……そうか」

目は口ほどに 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『目は口ほどに』  「どうした? さっきからずっとこっちばっかり見てるけど?」 「……イヤ?」 「イヤではないけど」  今は信号待ちの最中だから別に問題はない。  歩いているときは前を向いておいた方がいいと思うのだけど、どうも彼女はこちらというより、確実に僕の顔ばかりを見ている。  ちらりと視線をそちらに向けると、逸らすというわけではない。  むしろさらに強烈に僕を、僕の目を見てくる。  視神経にまでつながろうとするような目力だ。  くりっとしたブラウンの瞳に吸い

忘却の彼方へ 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『忘却の彼方へ』    忘れてくれて、一向に構いません。  だけど忘れられるということは、たとえほんの少しだったとしても。  あなたの中に私が居た証拠。  ――今はもう、それだけで十分です。       ---------------------     後書き 今回も「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」に掲載済みの作品から持ってきました。  覚えていてもらえたということだけでも嬉しいことってありますよね、きっと。

心理テスト 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『心理テスト』  彼の手元には、どこから持ってきたのか心理テストの本がある。 「さてさて、問題です」 「どーぞ」  彼にとってはただの戯れなのかもしれないけど。  自分だけが訊いて終わり、みたいな.  そんな子供っぽいことを考えているんだとすれば。 「あなたは薄暗い夜道を歩いていましたが、突然後ろから肩を叩かれました。その人は誰でしょう」 「その心理テスト意味ないなー」 「え、そう?」 「……だって、いつでもあなたのことしか思い浮かばないもの」 -----