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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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『ヌーヴォーとヴィンテージ』【#短編小説】

 ――むしろ『超短篇小説』かもしれない。  っていうか、そうだね。  1000文字すら行ってないです。 『ヌーヴォーとヴィンテージ』 「んーっ! うぉいしーっ!」 「『うぉいしい』の?」 「そ。ただの『美味しい』との差別化、的な?」  食後のバニラアイスに舌鼓をうつ彼女の頬は、アイスよりもよく溶けていた。   お気に入りのそれは、乙女のなんとやらなどを考えた上で週3回を限度にしている。  毎日食べるよりも喜びが大きくなるらしい。 「なによ。その顔」 「なにが?

特効薬 〜 好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜

『特効薬』  あなたに会うと、どんなにイヤな思いも  消えて無くなると思ってたけど。  たったひとつだけ、  あなたにも治せないモノがあるみたい。    ――切ない気持ちだけは治してくれないのですね。         あとがき 会えば会っただけ、離れたときに切ないモノです。  密を避けなければいけないご時世ですが、がんばりすぎない程度にがんばりましょうね。

裏路地エスケープ 〜超短篇〜

『裏路地エスケープ』  雨上がりの交差点を右に折れると、大通り沿いとはまた違った風景。  ヒトの陰もクルマの通りも、別世界に入ったように居なくなる。  自分の足音だけが僅かに響いている。  見慣れているとはいえ、不思議な光景だった。 「ん?」  建物の影が途切れたところに、何かがある。  動いている。  最初は何かゴミでも捨てられているのかと思ったが、違う。 「猫か」  誰も来ないのをいいことに、往来の真ん真ん中を、ブラウンの猫が塞いでいた。  寝ている

恋の味 ~超短篇~

『恋の味』  この恋は、たとえて言うなら、ショートケーキの上にあるいちごのようなものだ。  真っ赤に染まったいちごは、見る者をひきつける。  可憐な姿に引き寄せられる。  けど、その実態は――さらにクリームの化粧を施していなければ、その酸味をごまかせない。  蛮勇ながらその実に触れて、痛い目を被ったことなんて数知れず。  だけれど、僕は。  そんないちごに恋をしてしまった。      to be continued...?       あとが

亜麻色アルバ 〜短篇〜

『亜麻色アルバ』 流れるプールで漂っているような、心地のよい揺れが身体を包んでいる。  ゆらゆら、ゆらり。  目を閉じていればそのまま深い眠りに落ちていきそうな、ゆりかごのような安心感だ。  ——いや、今もうすでに目を閉じているのだけれど。 「……ん?」  どうやら、朝、らしい。  窓の外は明るい。明らかに明るい。どう考えても、いつもより明るい。  寝ぼけたアタマに鞭を打つようにして、両の目を擦る。何度か瞬きを繰り返して、ようやく焦点が合ってきた。  なるほど

瑠璃色リップルズ 〜超短篇〜

『瑠璃色リップルズ』  「ソウスケくん」 「ん?」 「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」 「……いきなりどうした」  目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。  カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。  この少女は基本的にマジメなタイプだ。  もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。  舗装のがたつきが目立つ歩道

夕景ユートピア 〜超短篇〜

『夕景ユートピア』   互いの頬が紅いのは、きっとこの夕陽のせい。   互いの顔が熱いのも、きっとこの夕焼けのせい。   この世界には今、ふたりだけのように思えて。   互いの腕に力を込めた。     あとがき 今日の超短篇は画像を選んでから書くスタイル。  映像からのインスピレーションで書くっていうのも、楽しいモノです。  ところで。  シルエットの男女って、イイですよね。  

あなたがいれば ~好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集~

『あなたがいれば』  夕暮れ時。買い物帰り。 「『君さえいれば何もいらない』、なんて言葉があるけどさ」 「……どしたの急に」  怪訝な顔を隠すことなく見せつけてくる。  そりゃそうか。  TPOを考えろ、って話だ。 「わざわざそんな前置きをするってことは、そうじゃない、とでも?」 「それだけじゃ、なんとなく足りないよなぁ、って」 「へえ……。じゃあ、何があればいいの?」 「『君と、君が幸せであるという事実』? ……綺麗な言い回しが思いつかないけど、『君が幸せ

夜咄ヴァイオレット 〜超短篇〜

夜咄ヴァイオレット すみれ色のワンピースに身を包んだ女性が、反対側のホームで静かにたたずんでいる。  どこを見ているのか、何を見ているのか。  線路二本を隔てた先の彼女の視線なんか、こちらにはわかるはずがない。  そのはずなのに、何故だか知らないが、それが手に取るようにわかってしまう。  ——西に向かって立つ彼女は、来るはずのない明日の夜を思っている。  それは、ただの自己投影なのかもしれないが。  もう考えるのはやめよう。  ニンゲンを、やめよう。  目を閉じて、淀み始める

東雲システマティック 〜超短篇〜

東雲システマティック     東の空からは夜明けの報せ。  春の朝は次第に足早。  時々聞こえる大型トラックのクラクションは、それでもどこか眠気を纏っている。  そんな壊れ気味の時計にしたがって、まだ数少ない街ゆく人はいつも足早。  出始めた太陽に背を向けて、歩く先は駅とかだろうか。  こんな時間にどこへ行くの、ってそれは人それぞれ違うだろうけど。  少し冷えた部屋の中から、何も纏わずにそんな光景を眺めてみた。  ため息をひとつ、東雲に溶かす。  そのあたりに影が落ちた