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アポリネール論

詩集「カリグラム」より「手紙」の抜粋

僕も自作に対する七人以上の愛読者は望みませんが、ただ僕はその七人の男女の性も国民性も、また身分もそれぞれに異なることを望みます。つまり僕は自分の詩篇を、一人の黒人のアメリカ拳闘選手が、一人の中国の皇后さまが、一人のドイツの新聞記者が、一人のスペイン画家が、一人の由緒ある家系の若いフランス婦人が、一人のイタリアの若い農婦が、インド駐屯のイギリス士官が、愛してくれることを望みます。

アポリネールを読んだのは高校生のときで、詩集「アルコール」の長編詩「地帯」を犯罪的に美しいと感じたのを良く覚えています。

君はプラーグ郊外の宿屋の庭にいる
卓上に薔薇が一輪あって来ましたは無性に幸福だ
君は自分の散文のコントを書くかわりに
バラの中で眠る大花潜に見とれている

アポリネールは、ボードレールやロートレアモンのように、特権的詩人ではない。ふざけているし馬鹿丸出しで、そうしたことの全てが才能になっている詩の神様に愛された詩人です。恋人に猥文調の詩を送って、でも、その猥文調がちゃんと切ない恋の詩になっている。

「とてもいとおしい僕のルウよ」より

口 おお僕の無上の喜び おお僕の神酒 お前が好きだ
その動きをこよなく愛している手 お前たちが好きだ
とても貴族的な鼻 お前が好きだ
うねり踊るような歩き方 お前が好きだ
おお 可愛いルウよ 好きだ 好きだよ お前たち好きだ

私が詩に求める要素
宇宙的な造形美
哲学的な叙情性
真実であること
の原型を私のなかに築き上げた詩人です。

また、「アポリネール短篇集」も怪奇で、美しく、偶然の必然性を愛したシュールレアリストらしく、謎を解き明かすのではなく、謎を謎という美しさのまま小説にしている作品集です。


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