甘い曲がり角 2009年05月04日
ボロボロのジーンズにすっぴんで
エメラルドグリーンのペディキュア(私の足のでこぼこの親指の爪を魚のうろこみたいにしてくれるから好き)をぬった足にサンダルをつっかけて
晴れ渡った五月の空を仰ぎながら チャリをこいでいると
ふわりと花の甘い香りがした
あれは何の香り?
あの曲がり角はいつもそう
甘い花の香りがする
レンガ造りの壁にツタの葉が絡みついた
小さなケーキやさんのある曲がり角
そこを曲がるとTSUTAYAで
何時間もかけて選んで借りた2本のDVDを
どちらも見ることなく次の日に返却する 無意味な行動をしたのは
ピンク色をした咲きかけの花がかもし出すその甘い香りを
またくぐりたくなったからかもしれません
あれは何の花?
あの曲がり角にある小さなケーキ屋さんには
いつも上品な夫婦やハンチングをかぶってひげを生やしたおじ様や
きれいな着物を着たご婦人方が
上品にコーヒーや紅茶をすすっていて
私はそれをボロボロのジーンズをはいてチャリに乗ったまま
甘い香りと共に覗くのが好き
それは現実的なアレコレを忘れさせてくれるから
次にあの曲がり角を曲がったら
アンディウォーホールの生と死
フェデリコフェリーニ(白黒のやつ)
ミラン・クンデラ原作、フィリップ・カウフマンの「存在の耐えられない軽さ」を借りにいこう。
それらはきっと 美しすぎて醜い何かを脳裏の外に追いやって
醜いがゆえに美しい何かを気づかせてくれると思うから
「素肌を隠すのではなく、肌本来の美しさを引き出す」
というのがわが社のコンセプトだったわけですが
結局のところ私は
でこぼこの足の親指の爪を
うろこみたいなエメラルドグリーンで隠してしまいたいし
田舎っぽく浮き出るほっぺたの赤みをブルーで押さえ込みたいし
飲みすぎ寝不足で腫れぼったいまぶたをアイシャドウですっきりさせたい
コンプレックスをカバーしたいのですね
美しさとは何なのでしょう
花は結局死ぬまで咲かないんだと思う、と
つぼみのままなんだけど
花を咲かせたい、咲かせたい、と思っていることが
実はとても美しいんだと ある人が言って
ふうんそんなものかと思っていたけど
彼が作ったTシャツをうちに帰ってきてみたら
そこに描かれた蝶が今にも飛び立ちそうで飛び立たず
それがとても愛おしく感じて
ああそうか、と思った。
「目に映る 全てが 醜くて 好きなんだ
綺麗だよ 本当は 醜くて 綺麗なんだ」
そう、その人はそう歌ってる人でした。
あの甘い花の香りは、
きっと、私の汗、私の涙、私のため息。
美しい何かを知りながら、醜い何かを愛おしく思う、
その想いでもって私を昇天させてしまうような
とても危うい化学物質。
私はその甘い香りにやられて、
今日も五月の朝を迎えるのです。
*
この日記は2009年5月4日の日記を転載したものです
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