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砂漠のコーヒーロック 2009年4月24日


ベッドに倒れて、
転がっていた読みかけの小説を開いて一節を読んだら
ふと昔を思い出して
一瞬コーヒー豆を噛み潰したような感じがした。


        *


そもそも大学に入ったばかりのころ、
フランス語を選択したのは、
アフリカに行きたいと思ったからでした。

私はサハラ砂漠に憧れていました。
なぜかはうまく説明できないけど、
口では砂漠を緑化したいんだと言っていたけど、
(もちろん緑の森も好きだけど、)
本当はただ単純に、あの果てしない
絶望の海のように乾ききったサラサラの砂の大地に
憧れていたんだと思います。

フランス語の先生はアフリカ文化の研究者でした。
丸めがねをかけた物静かな人で
私はフランス語の出来はよくなかったけど
ランボーの詩をフランス語で習ったとき、
語学ってなんてすばらしいんだって思った。

ランボーの詩は、ロックでした。
私はoasisが好き、Mr.BIGも好き、レッチリも好き、
shing02もすごいし、nujabesも素敵、
最近はチャットモンチーも好き、あとくるりも好き、
なぜなら彼らの言葉はロックだから。
(音楽的にはどうなのかよくわかんないけど)
それとおんなじで
ランボーはロックだ、と思ったのです。
詩や文学や音楽は、その人の言葉で語られるから力がある。
ちからが、あるのです。


  L'eternite'

Elle est retrouve'e.
Quoi? - L'Eternite'.
C'est la mer alle'e
Avec le soleil.


ランボーは十代の後半に数年間だけ執筆活動をして、
そのあとはアフリカをふらふらしていたそうです。
ランボーも砂漠に憧れを抱いていたらしい、
と後から知ったときには
私はかなり嬉しかったのです。
あ、私は砂漠に憧れていいんだ、と、そう思ったのです。

高校のとき、英語の先生に呼び出されて、
将来何をしたいのか、と聞かれたことがありました。
砂漠です、と答えて変な顔をされた。
いえだから、砂漠の緑化です、とあわてて言い直したら、
へぇっと鼻で笑われた。


            *


フランス語の先生が受け持っていた文化人類学の授業を
密かに一生懸命受けていました。
(普通は一生懸命出るような授業じゃない。笑)
かといって周りの女子のように
(なぜかそっち系の授業は女子率が高かった)
積極的に先生に絡めなくて
だからたぶん、静かだけど中途半端にまじめな私は
先生からしたら扱いずらい学生だったかもしれません。

少数民族のお墓と儀式と民族音楽、
人の死にまつわる文化の違い。思想の違い。
そういうことを考えることがただ面白いと思った。
駒場のキレイな図書館で沢山本を借りました。
大学で「優」だったのは、
社会哲学、東洋思想史、文化人類学、人間心理学、
そんなんばっかでした。

今と違う道を進んでいた自分を一瞬想像して、
すぐやべって思って
苦いコーヒー豆をぺっと吐き出すように
ぶるぶるっと頭をふってみる。

ソニックステージを立ち上げて、
音量を最大にして、それで脳内洗浄!

読みたいことはいつでも読めるし、
書きたいことはいつだってかけるから
私は自分で苦いコーヒーをごりごりやって
いい香りのするおいしいブレンドに仕立て上げればいい。
そういう時代だ。

社会は優しくない。
いろいろ御託を並べ立てても
結局は全部自分の甘えなんだって言われても仕方ない。

それでもいつか
私のオリジナルブレンドができたらいい。
今は甘いって言われても仕方ない。
もうくたくたのへろへろで、なんとか搾り出しました、
みたいな感じでもいい。
最終的にとびきりロックな感じなら、それで。

ぶわーっと体の中身をかき回して
そして循環させてくれる、ドラムのオトみたいな感じで。

昔、父が言っていた言葉を思い出す。
東京は、若者が悩むにはいいまちだ。
雑然としていて、うるさくて、いいまちだ。
そうかもしれない。

音と光とヒトとモノがあふれる都会。
どうしても東京にいたい、と思っていたのに
今はどこまでも腰が軽い。
ヒトはあふれている。モノもあふれている。
失うものなんて最初から何もなかったような気がする。
だからこそ、すべてを受け入れたいと思う。
(そんなかっこいいもんじゃないだろうけど)

「永遠(L'eternite')」

もう一度 探し出したぞ
何を? 永遠を
それは太陽と共に行ってしまった海だ

待ち受けている魂よ
一緒につぶやこう
空しい夜と烈火の昼の切ない思いを

人間的な願望から
人並みのあこがれから
魂よ、つまりお前は脱却し
そして自由に飛ぶという…

絶対に希望はないぞ
ねがいの筋もゆるされぬ
学問と我慢がやっと許してもらえるだけで…
刑罰だけが確実で

熱き血潮のやわ肌よ、
そなたの情熱によってのみ
義務も苦もなくたかぶるよ

もう一度 探し出したぞ
何を? 永遠を
それは太陽と共に行ってしまった海だ

僕の永遠の魂よ
希望は守りつづけよ
空しい夜と烈火の昼がたとい辛くとも

人間的な願望から
人並みのあこがれから
魂よ、つまりお前は脱却し
そして自由に飛ぶという…

絶対に希望はないぞ
ねがいの筋も許されぬ
学問と我慢がやっと許してもらえるだけで…
刑罰だけが確実で

明日はもうない
熱き血潮のやわ肌よ、
そなたの熱は それは義務

もう一度 探し出したぞ!
─何を? ─永遠を
それは太陽と共に行ってしまった海だ


アルチュール・ランボー


※これは、2009年4月24日の日記を転載したものです。

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