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隣にインスピレーション

今日こそはクリエイティブな私の創造性を爆発させるべく、コーヒーは淹れずスマホいじりもほどほどに9時前に家を出た。

家を出る前にスマホのメモに整理した「noteネタリスト」を思い返しながら、日曜の静かな並木道に整列している緑の揺らぎを楽しむ。そんな自分に満足する。順調な滑り出しだ。

歩車分離信号。大小の車に道を空けさせ、交差点の中央を贅沢に闊歩したら、大宮駅構内のお気に入りのカフェが近づいてくる。

以前に通っていたときのデータから、このくらいの時間なら空いてると踏んでいたのに今日は選択肢が限られていた。個人的にはノートパソコンを開いてnoteを書く場合、机が高すぎず店内を見渡せる席が疲れにくいうえにクリエイティブを刺激していい。

中央に鎮座する石から切り出したような冷たい長方形の大テーブルは空いていることが多い。今日は全方位に他人がいても没頭できるほど万全な集中力ではなかったから、壁を背にした隅っこの丸テーブルを確保してからコーヒーを注文しに行く。初めて見る若いお兄さんが会計してくれた。

腰を下ろし、ようやくコーヒーにありついた、のも束の間。隣の客がいびきをかいてふんぞり返っていた。ふう、なるほど今日の試練はこれか。気にせずパソコンをリュックから召喚。コーヒーをもうひとくち。

よしっ、書くぞ!

あれ、なんか…臭くない…?

コーヒーの酸味からくる香りじゃないと気付いた直後に、隣のおっさんの体臭であるという認めたくない事実が目眩を起こす。

きょ、今日こそはnoteを書くんだ、諦めるなぁぁっっ!(白目)

鼻呼吸を止めてミッションの確認。
「アウトプットしたくてもだえている毎日に終止符を打つ」

まずは隣に座るノイズをキャンセルするために完全ワイヤレスイヤホンを装着。よし。次にコーヒーはすぐ飲み込まず、できるだけ舌で転がしておいて香りを鼻に残す。さらに外したばかりのマスクを再装着。よし。

***

完全防護を施した私は念願の1記事を書き終えた。

やっとインスピレーションがカタチになった。明らかに自分の何かのステータスが少し上がり、静かなる無双状態に入る。これが気持ちいいんだけど、メカニズムはよく分からない。

五感のフォーカスを緩めると、異臭を少しだけ置き土産して隣のモンスターが消えていた。そういえばちょいちょい時間を気にしていたような気がするな。モンスターにも予定があるんだろう。


なんだ、順調じゃん!
書けるじゃん!!

このまま2記事目を書こうとして波に乗ろうとしたけど、やっぱりネタに迷った。相変わらずネタの吟味をする癖が治らない。お気に入りの音楽も少し邪魔に感じて右耳を1回タップ。一時停止してすぐ飛び込んできたのは、ノイズキャンセリング越しのこもった女性の声だった。

「いいじゃない、あなたも他人からは輝いて見えるわよ。」

隣の怪獣とその荷物があった席は、2人の若い女性が向き合って近況を共有する華やかな空間に様変わりしていた。どうやらブラック企業で知らぬ間に体調を崩し退職を決めた黒服の女性と、その悩みを完璧に受け止める赤いセーターの女性。いい友人ってやつだ。

その赤くて明るくて優しい彼女の素敵な返しが、今の私にはクリアに聞こえた。自分にとってもヒントになる言葉のような気がして。

私はいつも自分の望む理想が遥か遠くにあると思っていたし、そんな現実を受け止められない自分を低く見積もって社会に潜むように生きてきた。でも地底を這っていたからこそ見つけられたアクセサリーがあって、いつの間にか自分らしさが磨かれていたのかも。


そろそろ地上に出てみたいな。

そんなアウトプット欲がこうして遂に芽を出した。おめでとう。

隣の臭くてうるさい怪獣も、隣の赤くて素敵な女性も、私のインスピレーションを刺激してくれた。いつだって隣にはインスピレーションがあって、それを自分なりにアウトプットできるだけの魅力は多少は備えているのかもしれない。輝いて見えるのかもしれない。

2記事目が書けた。

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