2020年からのIngressを振り返る―Ingress9周年に寄せて
Ingress9周年 - Ingress Year 9
Ingressは2012年11月15日にAndroid版の招待制テストプレイが始まり、2021年11月15日に9周年を迎え、2018年11月6日に配信開始したIngress Primeは2021年11月6日に3周年を迎えた。
Ingressが9周年を迎えた事に合わせて、ここでは、2020年以降のIngressについて、順不同になるが、様々なイベントや機能の実装などを紹介しながら振り返っていく。
新型コロナウイルスの流行下とNianticのリアルワールドゲーム
2020年、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行によって、世界中の人々の外出機会が大幅に減った事で、リアルワールドゲームを取り巻く環境は大きく様変わりし、Ingressもその例外ではなかった。
2020年2月、沖縄県那覇市で開催予定だったイベント「ペルペトゥア・ヘキサスロン那覇」と「ラック・ザ・ボックス那覇」が中止となった。「ミッションデイ那覇」は延期になった。
また、イタリアのミラノで開催予定だった「ペルペトゥア・ヘキサスロン・ミラノ」は中止になり、イタリアのミラノでの「ミッションデイ・ミラノ」と日本での「ミッションデイおうめ」と「ミッションデイ呉」は延期になった。その他にも、グローバルチャレンジやアノマリーイベントなど世界規模でのイベントが延期や中止になった。以下のファンサイトの記事には2020年3月18日時点のイベントの延期・中止の情報が載っている。
2020年3月30日、世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に伴い、「野外で楽しむ、探索する、運動をする」を基本とするNianticのアプリであるIngress、ポケモンGO、ハリー・ポッター:魔法同盟に自宅で楽しめる工夫が施される事になった。
ドローンネット
2020年6月、Ingress Primeに「ドローンネット」が導入される事が発表された。
ドローンネットの挙動としては以下の動画を見ると分かる。「ドローンの映像」を表示して、周辺に見えるポータルを選択してそのポータルへ飛ぶようになっている。ポータルではハックとグリフハックができるようになっているが、ポータルへの攻撃、レゾネーターやMODアイテムの設置はできない。
後に、ドローンネットの外観が一新されて、レジスタンスエージェント、エンライテンドエージェントが操作するドローンネットに見た目の違いが現れる、他のエージェントのドローンを表示できるなどのアップデートが行われた。
バーチャルファーストサタデー
これまで、世界各地で現地のIngressエージェントが企画・運営を行い、現地でエージェントが集ってきたファーストサタデー(毎月第1土曜日開催)は、オンライン会議ツールを通じて自宅で楽しむイベント、バーチャルファーストサタデーになった。
第1回を迎えたバーチャルファーストサタデーについては、Ingressエージェントでもあるフリーライターの深津庵さんがファミ通Appに記事を書いているので詳しくは以下を読んでもらいたい。
セカンドサンデー
任意のミッションを6個クリアする事に取り組む、セカンドサンデーというイベントが2021年7月から行われるようになった。
セカンドサンデーについては、Ingressエージェントでもあるフリーライターの深津庵さんがファミ通Appに記事を書いているので詳しくは以下を読んでもらいたい。
ブライアン・ローズさんとのQ&Aセッション
これはイベントではないが、Ingressに関する様々な情報を発信する有志のTelegramチャンネル「Ingress Updates [ENG]」で、NianticのIngressシニアプロデューサーであるブライアン・ローズさんへの質問が募集され、それに基づいたオンラインでのインタビューが有志によって行われ、以下の通りに、その様子を収録した動画が公開された。
動画の下側に映るのが、NianticでIngressシニアプロデューサーを務めるブライアン・ローズさん。(※動画は英語の自動生成字幕あり)
動画の内容そのものについては書き起こされていないが、2020年10月3日にブライアン・ローズさんがIngressフォーラムに文書形式で回答を公開している。
日本語訳は以下の通り。
XM Ambassadors:XMアンバサダー
XMアンバサダー(XM Ambassadors)はIngressフォーラム上でIngressに積極的な姿勢を見せるエージェントから構成されるアンバサダープログラムである。
2021年2月にXMアンバサダーの募集が行われて、2021年3月にXMアンバサダーに選ばれたIngressエージェントが発表された。
NL-1331X USサマーツアー
アメリカでは2021年8月4日から8月29日にかけてNL-1331X USサマーツアーが行われた。これまでの新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行下では数少ないミートアップのイベントであり、エージェントが現地に集う形式の公式イベントになった。
NL-1331X USサマーツアーの様子は以下の一連のツイートから窺える。
カリフォルニア州サクラメント
オレゴン州ポートランド
アイダホ州ボイシ
ユタ州ソルトレークシティ
コロラド州デンバー
テキサス州ダラス
テキサス州オースティン
テキサス州マルファ
アリゾナ州フェニックス
カリフォルニア州マリエータ
カリフォルニア州サンフランシスコ
バトルビーコン
2020年7月にバトルビーコンの出現が確認されて、2020年8月1日には新たなアイテム「バトルビーコン」として正式なテストプレイが台湾とオーストラリアで行われた。台湾でのテストプレイの様子は現地の有志によってTwitchで配信された。
バトルビーコンは、累積取得APが4000万APを超えたエージェントが任意のポータルにバトルビーコンを設置する事で、レベルを問わず全てのエージェントが15分間で小規模のポータル争奪戦を行えるアイテムになっている。
バトルビーコンを使った数少ない取り組みとして、日本では2020年11月7日に、愛知県西尾市にある愛知こどもの国でバトルビーコンを使った有志による非公式イベントが行われた。
愛知こどもの国のアカウントからツイキャスでのライブ配信も行われた。
キネティックカプセル
2020年10月、指定のアイテムを投入して8km歩く事で特定のVery Rareアイテムを生成するカプセル、キネティックカプセルが登場した。
キネティックカプセルは、Very Rareアイテム1個の生成につき8kmの徒歩移動(1日合計40kmまで)をしながら、Rareポータルシールド3個+レベル4以上のXMPバースター3個+レベル4以上のレゾネーター3個でVery Rareポータルシールド1個を生成したり、Rareヒートシンク3個+レベル4以上のレゾネーター3個でVery Rareヒートシンク1個を生成するアイテムになっている。
キネティックカプセルを使った一連の流れについては以下のファミ通Appの記事が詳しい。
なお、その後のアップデートとして、ハイパーキューブが新たに生成可能になった。
ポータルスキャン
2020年2月、ポータルスキャン機能が発表された。このポータルスキャン機能は、現実世界のポータルを自らのスキャナー(スマートフォン)でスキャンし、Nianticが手掛ける既存のポータルのダイナミック3Dマップの生成と、Nianticが更にリアルな拡張現実(AR)機能を将来的に構築できるように準備するためのものになっている。
2020年3月にアメリカにいるレベル16またはリカージョン済みのエージェントに対してポータルスキャン機能が先行して実装された。
ポータルスキャン機能は、最終的にレベル8以上のエージェントが使える機能として実装された。後述するGIFアニメーション画像は、Ingressフォーラム上でNianticのブライアン・ローズさんによって公開された、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ、Niantic本社があるフェリービルディングの裏に建つマハトマ・ガンジーの像をポータルスキャンした点群データである。(Googleマップ、Ingress Intel Map)
ポータルスキャン機能の実装後、ポータルに対するスキャン回数の多さに応じたポイントを競う要素になるスカウトコントローラーが導入された。
ポータルヒストリー機能
これまでに自分自身が過去に訪問してハックしたポータルやキャプチャーしたポータルの情報を確認する機能はなく、有効な方法は自分でメモなどをして控えておく事だった。そんな中で、2021年2月にポータルヒストリー機能がIntel Mapに実装されて、Ingress Primeにはver.2.65.1から実装された。ポータルヒストリー機能は訪問済み、キャプチャー済み、スカウトコントロール済みのポータルを表示する機能になる。
2021年7月にはポータルヒストリー機能の開発日誌がIngressフォーラムに公開された。
以下のブログでは開発日誌の日本語訳を記している。ポータルを訪れたデータを実装していく過程や処理にかかるコスト削減の工夫などが窺い知る事ができる。S2セルについても触れられている。
ニュースフィード
スマートフォン用のアプリで展開する多くのゲームタイトルとは違い、これまでIngressにおける様々な最新情報は主にアプリの外、すなわちSNSなどで情報を受け取る事が多かった。そんな中で、2020年12月にCOMMの画面にニュースフィードのタブが追加された。最新情報をはじめ、イベントの概要など、これまでアプリ内だけでは気付きにくかった情報へアクセスしやすくなった。ニュースフィード上のトピックによってはタッチするとIngressフォーラムの投稿などの詳細情報に移動する。
2020年の年末には、カウントダウンパスコードがニュースフィード経由で配信された。
C.O.R.E.サブスクリプション
2021年2月、Ingress史上初の月額課金システム、C.O.R.E.サブスクリプションが開始した。AndroidアプリのGoogle PlayストアやiOSアプリのApp Storeを経由した月額課金で、日本円での価格は1ヶ月550円になる。
なお、Ingress Prime以外で月額課金システムを導入しているスマートフォン用ゲームの例としては、WFS『アナザーエデン』のプレミアムサービス「星天の導証」と「大地の導証」やスクウェア・エニックス『星のドラゴンクエスト』の「星の冒険者パスポート」になる。いずれもAndroidアプリのGoogle PlayストアやiOSアプリのApp Storeを経由した月額課金になる。
Niantic Lightship
Niantic LightshipはNianticが開発・提供するスマートフォン用アプリケーションを動かす一連のツールやサービスを含めたNianticのプラットフォーム全体をカバーしたり、スマートフォンで高度な拡張現実(AR)を使うアプリを開発するためのプラットフォームの名称。Niantic Real World Platformから改名した。Niantic Lightship ARDKは開発者用キットの名称になる。
2021年11月8日には、AR開発者向けプラットフォーム「Lightship」の正式リリースと、UnityベースのARアプリ開発キット「Niantic Lightship ARDK」の正式な提供開始を発表した。
【Niantic Lightshipグローバル発表会の配信】
【Niantic Lightshipグローバル発表会の配信・日本語字幕版】
以下の開発日誌に記されているが、Ingress Primeでは特徴点を視覚化したポータルスキャン、Nianticプロフィール、NianticフレンドとのNiantic Chatのクローズドベータテスト、Niantic Wayfarerで審査されたポータル(ウェイスポット)の毎日の同期などがNiantic Lightshipの機能として導入されている。これらに加えて、いつでも冒険モードやポータルスキャンのメッシュ表示が新たに追加される機能として公表された。詳しくは以下を参照。
日本語訳は以下の通り。
また、アメリカのカリフォルニア州サンタクララで開催されたAugmented World Expo 2021(AWE2021)では、IngressとNiantic Lightshipの統合について、Nianticのブライアン・ローズさんとアンソニー・マースさんの講演が行われた事が有志によって報告された。詳しくは以下のファンサイトを参照。
ストーリーライン
新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行下では、Ingressの長大なストーリーラインにも影響した。
まず、Ingressのストーリーラインは2019年7月から「ネメシス・シーケンス」と題する新章が展開されていて、ネメシス・シーケンスの開始に際して、以下のトレーラー動画が公開された。
そこからしばらくして、2019年の10月から「テッセレーション」と呼ばれる、オンラインでの暗号解読(デコード)と外部ページの画像や動画などにアクセスできるメディアというアイテムをポータルハックで取得する行動を組み合わせて進行するパズルゲームのイベントが行われた。「テッセレーション」は以下のブログに記載したルールで進行していた。
ファンサイト「Lycaeum Wrap-Up」での解説は以下の通り。
しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行によって、2020年3月からルールが変更され、ポータルへ訪問する必要がなくなり、オンラインでの暗号解読(デコード)のみになった。変更されたルールについては以下のブログを参照。
テッセレーションはルールが変更になった上、日程も大きく遅れていた。
日本の沖縄県那覇市で開催予定だった「ペルペトゥア・ヘキサスロン那覇」とイタリアのミラノで開催予定だった「ペルペトゥア・ヘキサスロン・ミラノ」はテッセレーションに絡む事が想定されていたが、いずれも中止になり、代わってオンラインでの暗号解読が遅れながらも行われた。
以下は、「ペルペトゥア・ヘキサスロン那覇」に絡めて出題される予定だったと推測される、スタイン・ライトマンのテッセラとその手掛かりになるが、「ペルペトゥア・ヘキサスロン・ミラノ」絡めて出題される予定だったと推測されるテッセラは不明である。
ネメシス・シーケンスのフィナーレとして、ドイツのミュンヘンでレクイエム・アノマリーが2020年5月に開催される予定だったが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で延期になった。
テッセレーションの進行スケジュールが変化する中、ストーリーラインは進んでいった。
本来はレクイエムアノマリーが開催される2020年5月で終わるはずだったネメシス・シーケンスも、日程が大幅に遅れて、2020年7月にネメシス・シーケンスの幕は閉じた。
ネメシス・シーケンスとテッセレーションが終幕した以降も、ストーリーラインに進捗が見られた。
ネメシス・シーケンスの幕は閉じたと思っていたのだが、公式には「保留」となっている事が発表された。まだ完結していないのだった。
タブラ・ラサ事件に関連してカレンダーを使った謎解きが行われたり、エーオース・プロトコルに関連して新たな情報が明らかになる事もあった。
ストーリーラインの進行が滞る中、P.A.シャポーがIngressエージェントのコミュニティ「Behind The Scanner China」(ビハインド・ザ・スキャナー・チャイナ、BTSC)からのインタビューに応じながら、暗号を通じて未解決事件に関わる新たな文書を明らかにするという事もあった。
未解決事件【M.A.N.I.A.】についてはファンサイト「Lycaeum Wrap-Up」の以下の解説を参照。
時には、P.A.シャポーがストーリーラインに興味を持ち始めたIngressエージェントに向けて、自らの素性とXM(エキゾチックマター)に関する秘密を明らかにするという目的を改めて説明する事もあった。
ストーリーラインの登場人物の1人であるビクトリア・クレーゼがIngressフォーラムに現れた事で新たな情報がもたらされる事もあった。
P.A.シャポーがIngressのストーリーラインの調査コミュニティ「Project Lycaeum」(プロジェクト・リュケイオン)からの質問に回答する事もあった。
今日まで、Ingressのストーリーラインに関するP.A.シャポーからの投稿はなく、最後に確認できたP.A.シャポーからの投稿はアメリカ・テキサス州オースティンにあるブーロック・テキサス州歴史博物館の前に建つローンスターの写真が最後になっている。(テキサス州は一つ星が描かれた州旗からLone Star Stateとも呼ばれる。)
Ingressのストーリーラインの進行が停滞する現在、ファンサイトの「Lycaeum Wrap-Up」では、時を遡って2012年からストーリーラインを振り返る企画が進行している。Ingressは2012年11月15日にAndroidアプリの招待制テストプレイを開始したが、前触れはそれ以前に始まっていた。
Niantic Project(ナイアンティック計画)のTwitterアカウントは「秘密はもうすぐ明らかになる」と、IngressがAndroidアプリの招待制テストプレイを開始する約5ヶ月前の2012年7月12日に最初のツイートを投稿している。
IngressがAndroidアプリの招待制テストプレイを開始する約3ヶ月前の2012年8月16日にナイアンティック計画(Niantic Project)を「不吉なもの」とツイートしたのは、『トランスフォーマー』などを手掛けた脚本家・ゲームデザイナーのフリント・ディルさん。Nianticの一員でもあり、2018年にフジテレビ系列で放映されNetflixで現在配信中のアニメ『イングレス』ではストーリーコンサルタントを務めた(オープニングクレジットを参照)。
FictoでのIngressオリジナル作品配信
2020年2月にアメリカのモバイルストリーミングサービスのFicto(フィクト)はIngressのオリジナル作品の配信に関するNianticとの提携を発表した。その後の2020年3月に第1話、第2話、第3話が公開されて既に1年以上が経つが、2021年11月4日時点では第4話以降の新しい物語は全く追加されていない。
その他の各種イベント・キャンペーン・機能など
2020年以降のIngressは、エージェントが集う形式の有志・公式イベントは限りなくゼロに近くて機会が少ないものになっている。その一方で、これまでに以下のようなアプリ内イベントやキャンペーンなどが行われてきた。
書籍
2021年、Ingressに関連する内容が掲載された書籍は2つある。
Google在籍時にはGoogle Doodle(ホリデーロゴ)を手掛けた事で知られ、現在はNianticで副社長を務める川島優志さんの著書『世界を変える寄り道 ポケモンGO、ナイアンティックの知られざる物語』(日経BP社)がソフトカバー(紙)とKindle(電子書籍)で読める。IngressとポケモンGOの開発・運営に関するエピソードはもちろん、川島さんの幼少期や学生時代、Googleへの入社、社内スタートアップだったNianticへの参加、Googleから独立したNianticに加わる多士済々の社員の方々、Ingress・ポケモンGOでの各種イベントでの川島さんの視点など、多くの出来事とエピソードが記されている。
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『世界を変える寄り道 ポケモンGO、ナイアンティックの知られざる物語』を読んだ感想は以下のnoteに記した。
雑誌『アイデア』の第395号では、Nianticで副社長を務める川島優志さんと、同じくNianticでユーザーエクスペリエンス(UX)デザイナーを務める石塚尚之さんを交えたIngressとポケモンGOに関するインタビューが掲載された。
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【honto】
Nianticの川島さん・石塚さんのインタビューをはじめ、『アイデア』の第395号を読んだ感想は以下のnoteに記した。
―Ingressはこれからも続く―