見出し画像

いざイギリスへ「ア イ ラブ デベッ、バウイー」

2016年10月1日


私は今からボウイの故郷であるイギリスはロンドンへ彼を探す旅に出る。 成田空港は異様に空いている。何も待たずに出国審査を終わらせた。

免税店で煙草のカートンを買う。海外に行く時は恒例だが、今回の銘柄は絶対に赤のマールボロなのだ。ボウイが好きだった煙草だ。どうでも良いようなことが重要なのだ。彼が私と同じぐらいの世代の頃に過ごした街、ブロムリーで赤マルを吸うことが重要なのだ。私はロックスターたるもの、フィルターが茶色の煙草を吸っていてほしい と思っている。なぜなら格好が良いから。格好つけてロックンローラーだ。好きな パンクロッカー(ネオロカビリーかも)にジョー・ストラマーがいるが、彼はラッキーストライクを吸っている。同じ茶色のフィルターでもジョーはラッキーストライク以外考えられない。 ジョーがマールボロを吸っていたらなんだか間が抜けてしまうし、ボウイがラッキーストライクを吸っていても、なんだかギクシャクする。ボウイは赤いマール ボロが良く似合う。薄い唇に浅く咥えて、細長い指で操ってくれるのだ。うむ、たまらぬ。彼らのそういった自己演出も大好きな理由の一つだと思う。自分に何が似合うか分かってやっているのか、それとも自分が格好良いと思ったものに似合う人間へと変化していくのか。

 搭乗ゲートへ着いた。まだ搭乗時刻までかなり時間があるが、ゲートの前の椅子のところでテレビでも見ながら待つとしよう。 ふと昨年、2月に舞台公演に出演するためにパリを訪れた際にボウイの回顧展 『DAVID BOWIE is』にほぼ毎日通っていたことを思い出す。あの頃は無性に「いつか必ず会える」と信じていた。世界のどこかにいるはずの彼の回顧展に世界中のファンが集っていることに感動していた。

 だめだ。もう泣きそうだ。まだ成田空港なのに既に泣きそうになっている。なぜ 私はこんなにもあの爬虫類顔の男に惹かれるのだろうか。自分でも分からない。 あ、テレビで生活笑百科が流れている。中田カウス・ボタンが漫才をしている。 笑えということか。テレビなんぞに励まされている。笑って旅立とう。 

 離陸から約6時間。映画を流しながら『地球の歩き方』を読む。ボウイの生まれた土地であるブリクストンと、彼が物心ついた頃から70年代末までを過ごしたブロムリーという街を地図で探すが、なかなか見つからないし、やっと見つけてもその土地にはこれといった名物はないらしくただ地図に地名が載っているだけだ。 ブロムリーなんか特に酷い。大きな地図に地名が載っているだけで、ロンドンを 11に分けて拡大してくれているページには載っていない。11の中に入っていないの だ。ロンドンなのに。そんなのってあるだろうか。ビートルズや、セックスピストルズ、マーク・ボランの名所は載っている。マーク・ボランなんて“グラムロックの 王様”なんて書かれちゃっている。いいですよ。“グラムロックの神様”はボウイです けどね。

急に不安になってきた。たどり着けるだろうか。ボウイを見つけることができるだろうか。改めて心に誓う。今回の旅では観光も買い物も出来なくていい。日本に帰 国するまで出来るだけ彼に近づこう。 

ヒースロー空港に到着。ロンドンで結婚し在住している友人が迎えに来てくれて、一緒にタクシーに乗り込む。タクシーの運転手に「アイ ラブ デヴィッド・ ボウイ」と言うと、誰?知らない。と返ってきて友人と驚いていたのだが、どうやら発音の問題だったらしい。これから現地の人にボウイのことを伝えるときは「ア イ ラブ デベッ、バウイー」と言うことにする。 滞在先は、私が演劇役者として活動するきっかけを与え、師と仰いでいる 演出家である野田秀樹氏の家を借りることになっている。 無事に滞在先に到着すると、野田氏がロンドンに滞在している時以外にこの家を使っているという、野田氏の友人の娘さんが置き手紙と私用の日用品の数々を置いてくれていた。Wi-Fiも使えるようになり、一通り過ごしやすい環境を整えたので、 明日の計画を練る。明日は早速ボウイが生まれた街、ブリクストンに訪れよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?