小景

坂の上から斜面に沿って
流れている光の
途中で果実が実り
ごろごろという音に変わる
見ている者の存在を
対岸に感じるが
もう誰もいないだろう

月面へ向かって
開いている窓の
いつから開いているのか知らないが
風よ もう閉じてもよいと言う
林の奥へ羅針盤を埋めなおし
ここへ戻ってきてもよい

架空と虚構とにまたがって
横たわる鰐の死体を
四つ辻に見ていた
事件でも事故でもないと警官は言い
川がないのに流水音がやまないのは
なぜだか聞かせてくれないか

隘路へすすんで引き返すことがない
そういう生活にはきまって窓がなく
ひとまず手の甲のその煤を
落とすところから始めたらどうか
外階段の影に催促を焼いている
もう連絡はしなくていいと言ったはずだ

街の外縁を加速する鉄道に
乗っている白亜の時分だった
見知らぬ外套の
うちに見た景色におぼえがある
心象が手をとりあって遠吠えする
小銃を持っていない
この車両に画家はいないか
小銃を持っていない
おまえもおれも
もう帰りたいのだが
それを許してくれるかどうか