28冊目:ドローン探偵と世界の終わりの館/早坂吝
北欧神話の終末論に取り憑かれた男が建てた迷宮で起こる不条理な連続殺人事件
~稀代のトリックスターが仕掛ける「読者への挑戦状」
時にミステリーというジャンルは、作者と読者の「知的遊戯」であると表現されることがあります。
作者がミステリーの中に忍ばせた魅力的な謎の解明に読者は挑み、探偵役と一緒になって事件を推理したり考察したりする。
ミステリーには、真実を最後まで分からせまいとする作者と、その謎を探偵役よりも早く解き明かそうとする読者との知的な対決という側面があるのです!
そんなミステリーの特性を最も顕著にしたのが「読者への挑戦状」形式ミステリー。
「読者への挑戦状」とは、エラリー・クイーンが始めたとされるミステリー小説の趣向で、序章や真相がわかる前の章に「すべての情報、手がかりは提示してある。さあ、読者にこの謎が解けるかな?」と、はっきりと作者から読者に知恵比べへの誘いが明記されているものです。
こうした「読者への挑戦状」形式のミステリーは、読者がきちんと推理力を働かせられれば犯人を論理的に推察できるように、「フェア」に情報や手掛かりを散りばめていることの裏返しでもあり、同時に自信の表れでもあります。
作家さんがわざわざ読者に向けて送りつけてきた挑戦状。
ぜひ受けてたとうではないですか!
というわけで今回は「読者への挑戦状」がある作品の中から、早坂吝さんの「ドローン探偵と世界の終わりの館」をご紹介します。
早坂吝さんは、個人的に最も好きなミステリー作家さんです。
「どうやったらこんなこと思いつくんだ」と思うような大胆で自由な奇想を、精緻なロジックとギミックで見事に成立させてしまう、本当に稀代の天才としか言いようがない才能の持ち主。
限りなく自由な発想力で、読者を唖然とさせる当代随一のトリックスターです。
そんな早坂さんは、最近、人工知能(AI)が活躍する「探偵AIシリーズ」や、仮想現実(VR)の世界を舞台にした「アリス・ザ・ワンダーキラー」など、現代のテクノロジーを巧みに活かした切れ味抜群のミステリーを立て続けに発表しています。
そして、今回ご紹介する「ドローン探偵と世界の終わりの館」では、ドローンという最先端の科学技術を巧みに用いたあるトリックが仕掛けられており、早坂さんは本書の序章にて「さあ、そのトリックが何かを当ててごらん?」と読者に挑戦状を叩きつけています。
ただ、とはいえこのトリックはあまりに大仕掛け過ぎて、とても常人が解けるものとは思えないので、勝手にひとつヒントを差し上げておきます。
このトリックは、言うなれば「幾何の問題に見せかけて、実は関数の問題だった」というような超ひっかけ問題で、解くためには思考の角度を変えて物語を捉えなおす必要があります。
不可能な密室に、不可能なバラバラ殺人…。
あなたにこの謎が解けるでしょうか?
騙されたくなければ、あなたも飛ぶしかない。
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