26冊目:半落ち/横山秀夫
殺人を自首してきた男がひた隠しにする
「空白の2日間」の真実とは?
~組織の論理と個人の矜持のぶつかり合いの
果てに明かされる心が震える真実
ミステリー紹介シリーズ第7弾は横山秀夫さんの名作「半落ち」です。
この作品は2003年版のこのミスで大賞を獲得したほか、映画もかなりヒットしたそうなので、ご存じの方も多いことでしょう!
そんなこの作品は、一言でいえば「ホワイダニットミステリーの大傑作」です。
昨日、東野圭吾さんの「悪意」を取り上げた際に「犯人の動機の解明に主眼を置くホワイダニットミステリーは希少だけど、重厚な人間ドラマが展開され、とても読み応えがある作品が多い」ということを書きましたが、この作品もまさにそれに当てはまります!
この小説は、現職警察官である梶聡一郎警部が「妻を殺害した」と自首してくるところから始まります。
温厚篤実を絵に描いたような警部による衝撃的な不祥事に警察内部が騒然となる中、志木警視は梶総一郎の取り調べを行います。
そして、取り調べの結果、この事件はアルツハイマーに苦しむ妻に懇願された末の苦悩に満ちた嘱託殺人であることを知ります。
しかし、そんな自らの罪状については素直に自供する梶ですが、殺害から自首に至るまでの2日間の行動だけは頑なに口を閉ざして決して何も語ろうとしません。
そんな梶の様子を見て、志木警視は、梶はまだ真実を半分しか自白していない、すなわち「半落ち」であることを悟ります。
果たして彼がひた隠しにする空白の2日間には、どんな秘密が隠されているというのでしょうか?
この謎をメインテーマにこの物語はぐいぐいと進んでいきます。
そして、この作品ではもうひとつのテーマとして「組織の中で己の矜持を試される個人の姿」が丁寧に描かれています。
捜査の過程で、梶が空白の2日間に歓楽街である新宿歌舞伎町に行っていた事実が判明すると、県警上層部は志木警視に調書作成の捏造を命じます。
これに対して、なんとしてもこの事件の真相を明かしたい志木警視は、己の矜持を賭けて上層部への抵抗を試みます。
しかし、志木警視への圧力を察した梶は、上層部が願うような供述を始め、ついに「半落ち」のまま検察に送還されてしまいます…。
この小説の構成が面白いのは、警察の取調官から検察官、裁判を担当する判事、弁護士、県警の隠蔽工作を暴こうとする新聞記者、そして最後は梶が収監された刑務所の刑務官まで、章ごとに別の人物が主人公となり、さまざまな目線からこの事件が進んでいく様子が描かれる点です。
長編でありながら、連作短編のようなスタイルで、法や報道に携わる者たちそれぞれの矜持が試される人間ドラマがじっくりと描き出されながら、梶の起こした事件の真実に迫るという、非常に贅沢な作りになっています。
そして、この物語のラストでは、ついに梶がひた隠しにしてきた「空白の2日間」の真相が明らかになります。
この真相が全く予想できない意表を突く内容で、自分は大いに驚かされました。
しかし、個人的にすごく心にストンと収まる納得の真相でもありました。
世間ではこの真相に賛否両論あるとも聞きますが、個人的にはこれ以上ない素晴らしいラストへと着地したと感じました!
ぜひ皆さんの目で、この驚きの真相を確かめてみてください!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?