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とある理系の研究室4 バイト

某国立大学の理系の研究室の話。

そこそこの大学のそこそこの研究室。国内外の学会やコンスタントに出ていて、論文もそれなりに出している。活気もそこそこ。古き良き時代の雰囲気を残している研究室。

学生につきものなバイトの話。

研究室ではバイト禁止の不文律が。

配属してすぐに、先輩に言われたのがバイト禁止という不文律、暗黙の了解について。

厳密ではないが、バイトなので帰ります とかバイトなので帰りました とか言うと先生の機嫌が悪くなるらしい。

実際にはバイトしてたけども。

私は当時週2でバイトしていた。22:00からの夜勤だったので問題なかった。

ただバイト明け7:00に帰宅、8:00に起き8:30に研究室へ出勤という過酷な日々だった。

同じチームのM2のKさんは個人指導のバイトをしていた。そして、実験室に行くと見せかけて、夕方前に鮮やかに帰宅していた。チームと言っても私とKさんの2人なので

「A君、俺帰るから、もし先生に聞かれたらうまく言っといて」

というやり取りが常だった。

先生に「Kはどうした?」と聞かれたら、「わかりません」と答えていた。私の「うまく言う」の最大値はこれくらいだ。

半年後私はバイトを辞めた。

体がしんどすぎるし、研究室に入ったことで友人と飲みに行くなどの出費が減ったので。

不文律が崩壊した日

時は流れて2年後、M2になった私にはM1とB4各1名ずつ計2名の後輩がいた。

B4の後輩から、家庭の事情もあってバイトはやめられない、家庭の事情は皆に言いたくない、でもバイト禁止なんですよね。どうしましょう。と相談された。

別に明確に禁止と言われてないからしれっと続ければよいのだが、すごくマジメな後輩だったので悩んでいた。

では正式に先生に話して許可をもらえばよいのだが、なぜ許可がもらえたかを皆が知りたがる。そうすると言いたくない家庭のことを言わないといけない。それが嫌なので、なんとか波風立てずにバイトを続けたいと。

実験時間を短くしよう。

先生が学生のバイトを嫌うのは、実験が疎かになるからなのだ。古き良き時代を知る先生方は、実験の水準数をこなし、成果をたくさん出せば、とりあえずは上機嫌なのだ。

実験時間10hrも0.5hrも同じ1プロット。

B4の実験は最長6hrまでになるように、卒論のテーマを決めた。6hrなら朝に仕掛けて夕方前に片付けまで終わる。簡単に言うと、「反応初期における〜の検討」みたいなテーマにした。ちょっと反応させたら実験は終了できる。

M1、お前もか。

その後、もう1人の後輩であるM1も、実はずっとバイトしてまして。。。と言ってきた。B4の件で味をしめた私は、こっちも実験時間短めスタイルに変えた。

そして流れるチーム間の不協和音

しばらくはうまく行った。

私のチームのB4とM1は、夕方前に帰って行く日が多い。バイトしているのもなんとなく雰囲気で伝わる。夜遅くまで実験している他チームの後輩達のフラストレーションが溜まってきていた。

何故あいつらは、早く帰って自由にバイトもしてるのに自分たちは。。。と

そして起こる事件

秋の学会発表の準備で忙しい時期に事件は起こる。M2が皆発表することになっていて、資料修正、先生からのダメ出し、追加実験の日々に疲れて殺伐としていた。

他のチームはB4の卒論をM2の修論が包含する構成なので、M2とB4は一蓮托生である。

一方で私のチームは(指導教官の方針で)卒論と修論が別テーマで独立していた。M2の私とM1、B4はそれぞれ違うテーマだった。

他のチームは全員が夜中まで忙殺される中、私のチームは私だけが残り他の2人は普段通り夕方前には帰宅していた。

そう、あれは学会2週間まえの日付が変わる時間帯のことだった。

昼に先生からのダメ出しを受けた他のチームが、資料を直していた。そのチームのB4がM2に対してぶつくさと文句を言っていた。

「あっちのチームは早く帰ってるのに、何で俺はこんな遅くまでアンタの発表のために苦労させられなきゃいけないんだ。あっちのチームにしておけばよかった」と。

始まる取っ組み合いのケンカ。

B4の発言に怒ったM2が殴りかかった。二十歳を超えたシラフの大人が取っ組み合ってるのをこんな間近で見ることになるとは。

私のスヌーピーのマグカップからは衝撃でコーヒーがこぼれた。

怒りの矛先がなぜ

慌てて仲裁に入ると、M2同期の怒りの矛先は私に向き、「お前が後輩を好きな時間に帰して楽させてるのが悪いのだ」と。それ以外にも研究の進め方とか色々と罵詈雑言を浴びせられることとなった。

晴天の霹靂であった

この慣用句の使いどころを初めて知った。

少し同情はしていた。彼らのチームはなかなか実験が上手く行かず中途半端な20hr/水準、1hr経過毎にサンプリングとかストイックすぎる、めんどくさ過ぎる実験を2人交代制を敷いてやってたから。

なぜ20hrなのか、なぜ1hr定期サンプリングなのか、反応初期は刻んで、安定してきたら数時間に一回でいいのじゃないか?

今なら笑い話。。。か?

これをきっかけに生じたギクシャクは最後まで続く。秋の学会→修論卒論→春の学会 まで殺伐研究室であった。

今なら笑い話にできるだろうか。大学を離れてから、彼とは一度も会っていないのでわからない。




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