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芍薬の思い出


白い芍薬が綺麗に咲いた。

うっとりと眺める。

白の芍薬の花言葉は「幸せな結婚」

あなたが、わたしに初めて送ってくれた花。


花を見てあなたを思い出す。

部屋中があの頃の香りに包まれる。

目を瞑り、匂いを吸い込んで

あなたとの思い出を振り返る。





子宮も卵巣もいらないの。
こんな、使えないものに
毎月毎月調子を狂わされるなら
取ってしまいたい。

そう言うと、大抵
そんなこと言ってはいけないよ。
そんな言葉が返ってくる。


わかってる。
わかってるわよそんなこと。


臓器が無くなるリスクも
それによる女性の身体の変化も
理解した上で言ってるの。


綺麗事なんかの言葉なんていらないの。


その言葉が返ってくるだけで
わたしがまたどれだけ苦しい思いを
飲み込んで我慢するか分からないでしょう。


だって、この体験をしているのは
わたしだけなんだから。


他人に、理解出来るなんて思ってない。

ましてや、異性になんて
理解してもらおうとさえ思ってないの。


だから、毎月
動けなくなるわたしのために
スマホの文字を追えなくなるわたしのために
あなたが送ってくれる写真に勇気付けられる。


季節の花や、空、風景の写真。
少し笑ってしまうような街角を切り取った写真。
そんなあなたの優しさと愛が詰まった写真と
愛してる
の言葉にわたしは涙を流して元気を貰うの。


わたしがあなたから離れられない理由の一つに
あなただけはわたしのこの願いを
肯定してくれたことも大きい。


わたしの身体を理解した上で
一緒に過ごした時間に
あなただけに弱さを見せて
ベッドの上で泣きながら話した。

“わたしはわたしの願いもあなたの願いも
一生叶えてはあげられないけど
こんな苦しい思いを今後もするのなら
子宮も卵巣も取ってしまいたいの。”

そう言うとあなたは

“そうだね。
今までもこれからもこの辛さが続くのであれば
それはひとつの手段かもしれないね。
人生のうちの何年を
戦ってきているんだろうね。
わたしは医者ではないから決められないけど
あなたが決めたことには背中を押すし、
仕事もお休みを貰うくらい
しんどいということは
とても辛いことなんだろうと理解できるよ。
即効性の薬でもできたらいいのに。”

こんなこと、初めて言われた。

涙が溢れた。

ずっと否定されてきたの。

理解も共感も求めてはいないし
諦めていたけど

それを、ましては同性ではなく異性に
言葉にして受け取ってもらえて
わたしがどれだけ嬉しかったか。
言葉になんか表せないくらい
胸が熱くなったか。

あなたには理解できなかったことかも
しれないけれど
味方がいてくれる事が
わたしにとってどれだけ有難いことか。


あの時に、
上手く言葉に出来ず
何も言えず涙をひたすらに流して
ありがとう。ありがとう。
と、声に出せたのかさえ分からなかったけれど
わたしのこの気持ちはちゃんとあなたに
伝わったのかな。


それだけが、今でも不安なの。


あなたにいつも励まされて
あなたがそばにいてくれるから
わたしは今こうして元気でいられるけれど
わたしはあなたに何か返せているのかな。


わたしと文字を交わして
わたしの声を届けて
わたしの視線を送って
あなたにも優しさと愛情が届いているのかな。


こんなに離れた距離にいるのに
簡単に会えるわけでは無いのに
変わらずわたしを好きでいてくれるのは
どうしてなのかな。


目を瞑って
あなたの声を思い出して
あなたの笑顔を思い出して
こうしてわたしたちは
2人の思い出を信じて
永遠に
思い出の中で愛し合って
思い出の中でしか生きていけないのかな。


幸せな思い出の中で
切ない思い出の中で
いつまでも動けない弱いわたしたちは
ふたりの思い出にしがみついて
守って守って生きていくしかないのかな。


これは残酷なのかな。
これは苦しいのかな。


全てを投げ捨てて
あなたに会いに行ったら
あなたはどんな顔をして
わたしを受け止めるのかな。



ねぇ?
簡単に想像ついてしまうの。

抱きしめて頭を撫でて
微笑みをくれるあなたを思い浮かべてしまうの。

今度はもう離さない。もう離れない。

そんな風に絆を結び直す未来しか見えないの。



わたしたちは
いつまで離れて過ごせばいいのかな。


毎夏、芍薬を蕾から愛でて育てて

いつまであなたとの日々に想いを馳せればいいのかな。



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