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居場所

初めて「愛してる」と
告げた人がいる。

わたしたちはお別れをしてからも
ズルズルと関係を続けてしまっていた。

彼はわたしの住む街には住んではいない。

ただ、仕事でこちらに来る時に
わたしの家に泊まるようになっていた。

彼の私物が増えていくのが嬉しかった。

けれど、
いつまでこの生活を続けていくんだろう。と、
悩んでいた。

わたしたちは昔に終わったはずなのに。


それを、
今、お付き合いのあるあなたに話したことがある。

「そうか。じゃあ、一緒に片付けをしよう。」

そう言って部屋を片付けに来てくれた。

わたしがいちいち感傷に浸るから
それを奪ってあなたは片付けていく。

おそろいのマフラーをじーっと見て
香りを嗅いでいたら
取り上げられて、あなたが自分の首に巻いて
「俺の匂いにする」
そう言って、少し怒った顔で真夏に汗をかきながら
そのまま片付けを続けたことに
少しだけ笑ってしまった。


彼の私物が箱の中に詰められていく。
わたしの意志とは裏腹に。
リズム良くスピーディーに
違う男の手によって。

想いはいつか風化する。

分かっていても、それを受け止められなかった。

彼がわたしの心の中からいなくなることが
とてもとても怖かった。

でもそれは、
わたしが臆病なだけだったんだと気付いた。

離れた時間を過ごして
他の人から愛情をもらったら
こんなにもあっけなく
彼がわたしの心の中からいなくなることを
受け止めることができるなんて思わなかった。

それができたのは
あなたのおかげだったんだと思う。



普通のセックスなんかじゃ常に物足りなかった。


でも、人より少し外れたところにいる自分を
友人や同僚、同性異性関係なく
話せたことなんてなかった。

いつだって猫を被って
人間のフリをした。

性癖なんて10人いたら十人十色なのに。


でも、あなたは違った。

わたしが少しづつ話す性癖を全て受け止めてくれた。

誰かに全てを話したところで
受け止めてもらえるなんて思っていなくて
やっぱり受け止められなかった時の恐怖が大きくて、
恥ずかしくて、隠しながらぽつりぽつりと話した。

そんなわたしの話をあなたは全て受け止めてくれた。



精神的に追い詰められたいの。
俺は、全てを支配したいよ。

体液が好きなの。舐めたいし飲み込みたい。
俺も舐めたいし汚いなんて思わない。

甘い身体の全てを食べたくなっちゃうの。
俺も普段我慢してるけど噛んじゃうんだ。

堕ちていくくらい、気持ちよくなりたいの。
俺は気持ちよくなりすぎて崩れる顔を見るのが好きだよ。

穴として好きなように使って欲しいの。
かわいいね。俺はやめてって言われてもやめないよ。

身体だけなんて嫌なの。心で抱き合って繋がりたいの。心が繋がらないとセックスなんてできないの。
俺はそんな身体だけのつまらない関係嫌だね。

ゾクゾクした。

全てを受け入れてもらえるなんて思っていなくて
なんならあなたの方がぶっ飛んでいるとさえ思った。

身体を繋げれば繋げるほど
あなたに抱いてもらえることが嬉しくなって
わたしの全てをさらけ出せることが気持ちよくて
あなたのすべてを受け止めたくなって
こんなにも乱れるのかと自分でも驚いた。

身体だけではなくて
信頼関係を大事にしてくれるあなたは
辛い時には駆けつけてくれて
そばにいてくれるようになった。


わたしも弱さを見せて
あなたも弱さを見せて
慰め合うように寄り添った。

好きの気持ちがどんどん大きくなってしまう。
離れている間あなたのことを考えてしまう。

一緒にいる時間が楽しくて
子どものようにふざけ合って笑い合う。

時間がいつも足りなくて
もっともっとを願ってしまう。

お酒の趣味も食事の趣味も
ファッションやスニーカー。

好きなものがそっくりなことも嬉しかった。


いつだって寄り添ってくれる。
わたしのそばにいてくれる。

それが嬉しくて、暖かくて
あなたの優しさに包まれていることが心地よくて

スマホの待受画面も、
ホーム画面も、
昔むかしに彼が撮ってくれた写真だったのに、

数年ぶりに変えられた。

両耳に付いたタンザナイトのピアスも外した。


ネガティブなわたしが
自分でもびっくりするくらい
前向きに変えられたことに驚いた。

あぁ、こんなにも簡単に卒業できるのね。

心がスっと呪縛のようなものから解かれた気分だった。



忘れようとは思わない。

彼がいてくれたから
わたしは弱い自分も肯定できるようになったし
迷うことだって悪いことではないと思えた。

彼と出会えて
彼と愛し合って
彼とお別れをしたから

今のわたしがある。

今でもきっと
“最愛の人”と聞かれたら
彼を思い浮かべてしまうと思う。

でも、それでもいいと思った。


そんな弱いわたしを可愛がって甘やかして
支えてくれる人がいてくれることが
分かったから。


わたしの弱さもずるさも好きだと言ってくれる。


そして、あなたは言ってくれた。

「今まで出逢った女性の中で
過去最高の女性だと思っている。
あなたを超えるような人に
出会える自信はない。
あなたの人間性が素敵なんだ。」

わたしは涙が止まらなかった。

女性としてではなく
その根本の人間としての部分を褒めてもらえるなんて
なんてありがたいことなんだろうか。


過去の弱いわたしさえも
彼と慰め合うことしかできなかったあの頃も
全てを肯定してくれた気がした。

あなたの言葉に
あなたの愛情深さに
あなたの心の広さに

心臓を刺されて動けなくなった。


いつだって愛情と苦しさは紙一重。

気持ちの濃さに溺れて溺れて沈んでいく。

好きだから苦しいも
幸せだから寂しいも

抱え込めなくて
涙となって溢れて溢れて止まらない。

そんな感情を心を剥き出しのわたしを
あなたは羨ましくさえあると言ってくれた。

初めてだった。
初めて自分の心が穏やかだった。

誰かの想いをスっと自然に受け止められた。

呪いや苦しさを感じずに
心がぽっ。と、温かくなった。

あなたを想って口角が上がる。
心も身体も満たし合える。

出会って知り合えたことに感謝しかないの。
そうポツリと告げたら

俺だってそうだよ。ここまで合う人との関係は
大切にしたい。こちらこそ感謝なんだ。

そう言ってくれた。

わたしの心を真っ先に大事にしてくれる。
隠さずに全てをさらけ出してくれる。
そして、
わたしのことをもっと知りたいと言ってくれる。


あなたがわたしを受け止めてくれたように
わたしもあなたのことをもっともっと知りたい。
あなたのすべてを受け止めたい。


たまに、
わたしの胸元で子どものように甘えて抱きつくあなたを愛おしいと思う。



これからどうなるのかなんて分からない。

ただ、今一緒に過ごす時間を
大切に大切にして
少しずつゆっくりと積み重ねていきたい。


そんなふうに思える相手との関係を
ただただ、大事にしたい。


誰かを愛おしいと思って
誰かに愛おしいと思ってもらえること。

こんなにも幸せなことだなんて思わなかった。


あなたも、同じ気持ちでいてくれるとうれしい。


頬に触れて目を合わせて口付けを交わして
あなたのものになりたい。

そして、わたしだけのものになってくれたなら。


ゆっくりでいいから。

あなたがわたしに心地よい居場所くれたように。

胸に感じるあなたの温かさを守りながら
ゆっくり、ゆっくり、どうか、一緒に。


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