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線香花火 

「これ終わったら線香花火ねー。」
「何本あるの?」
「8本!」
「えー。すくねー。」

夏休みの帰省時には恒例となっている、おじいちゃん家の庭での花火大会。

昨日、事前に買ってあった分は全部終わっていたけれど、
おばさんが仕事帰りにコンビニでもう1袋を買ってきてくれたので、今日もできることになった。

火花が勢いよく線を描いて噴き出し、火薬の匂いと煙がもくもくと湧き上がる。
従兄弟どうし、小学生3人の歯の抜けた笑顔が手持ち花火の明るいフラッシュに照らされる。
次々と火をつけて、あっという間になくなってしまった。
そして、最後の線香花火。

「終わった!線香花火ちょうだい。」
「火ぃつけるよー。」
「待ってそれ反対だよ。」
「あまったのはお母さんたちの分ね。」
最後の線香花火に火をつけて、みんなでそおっとしゃがみ込む。
「あ。始まった!」

3人はぽっちゃりした小さな指の先でこよりをつまんで、オレンジ色の丸ができていくのを見つめている。
そのうち、パシパシというかすかな音と共に細い糸のような火花が爆ぜはじめた。
「落ちんようにねぇ。動かんのよ。」
おばあちゃんがのぞき込むようにして言ったのが言い終わるか終わらないか、
火の玉が一人ずつ静かに光を失っていく。

最後に残ったのは、おばさんの線香花火だった。
「お母さん、がんばれ!」
スーツのまましゃがんでいるおばさんを子どもたちはぐるりと囲むように立ち、じいっとその手元を見つめる。
まだ、まだ、まだ…。
「あっ。」

暗くなった手元をおじさんの持っていた懐中電灯が照らし、おばさんのピアスにも反射してチカリと光った。
「終わっちゃったねぇ。」
「楽しかったね。」

あと片付けをしてくれるというおじさんたちを残して、子どもたちは部屋の中へ戻った。
「いつまでかねぇ。」
おじいちゃんがふと庭に向かって言ったのが聞こえて、私は振り返った。明日になったらみんな行先の違う電車に乗って、それぞれの家に帰ることになっている。

ドアが開いて、遅れて帰ってきたおばさんが私にお風呂に入るように言った。
耳元でピアスがゆらゆらと揺れている。
ピアスの軸先が、まだ花火が燃えているように瞬いていて綺麗だなと思った。

「またぁ帰ってきんさいね。」
いつもそう言って、手を振る私たちを見送ってくれる祖母の声も聞こえたような気がした。

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