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プレスリリース 日米の違いとトレンド

今回は広報業務を行う上での基本アイテムのひとつである「プレスリリース」を取り上げたいと思います。

プレスリリース、メディアリリース、ニュースリリース?
もともとは企業や組織が自社の人事や製品・サービスについて発表するために、報道関係者(プレス)に向けて書いたものを指しますが、インターネットの利用が広がるにつれ、読み手がプレスにとどまらず、株主や取引先、顧客など広範になり、特に欧米では10年くらいから「ニュースリリース」という呼び名に変わってきた気がします。

ウェブサイトのプレスルームもニュースルームという呼称が一般的になりました。日本ではそのままカタカナで使うのが一般的だと思いますが、「報道発表資料」という言い方もします。

広報の基本と言われるプレスリリース
企業内で新たに広報部に所属したり、広報代理店に入社すると、真っ先に習う要素に含まれるのがプレスリリースの書き方でしょう。読み手の層が広がったとはいえ、一番のターゲットは記事を書く記者や、誌面テーマを考える編集者、テレビのリサーチャーなど、メディアに所属する皆さんであることには変わりません。したがって、彼らに読んでもらえる、取り上げてもらえる文章にすることが重要であるとされています。

とはいえ、ウェブサイトにそのまま掲載されて一般読者の皆さんの目にも触れますので、わかりやすさと丁寧さ、コンピューター画面やスマートフォン画面での読みやすさも考慮する必要があり、プレスリリースの書き手には様々な配慮が求められていると感じます。

好まれるプレスリリース
日本のメディアに好まれるプレスリリースは、必要な情報が簡潔に漏れがなく記載されているものでしょう。事実情報と具体的な数値、新しい要素だけにフォーカスして、箇条書きや表も使いながら短くまとめるのが良しとされています。

そこで困るのが外資系企業の広報担当者や、外資のクライアントを持ったPR会社の担当者です。経験者にとっては、まさに「あるある」だと思うのですが、欧米のリリースは、事実を淡々と簡潔に書くというよりも、感情的要素も含むストーリーとして読ませる、いわゆる“ナラティブ”な作りが多いという事実です。

形容詞が多く、反復もあり、CEOや担当役員、担当者、場合によっては関連する顧客のコメントなどが、“クオート”として含まれており、長く、お話調になっていることが多いのです。(逆に欧米の広報担当者に日本のリリースを直訳して見せると、「なんだこれ、メモか?」と思うようです。まさに文化の違いです)

欧米スタイルのリリースによくあるフレーズは、「数々の受賞歴のある~」「業界でも比類ない~」「業界をリードする~」「クラス最高の~」「ユーザーフレンドリーで直感的かつ卓越した操作性を持つ~」などです。これを日本人記者に持っていくと、「形容詞で凄いって言い続けるのは止めて事実を具体的に書いてよ」と苦言をいただく、というのが良くある流れです。また、関係者のコメントが2~3名分含まれており、内容がすべてリリース本文と被っているので不要というフィードバックも受けがちです。これは私が広報に関わり始めた90年代から今に至るまで、脈々と続く外資系リリース問題だと思います。(それでも今の記者さんはクオートへの嫌悪感がだいぶ減ってきていると感じます)

このような欧米スタイルのリリースを日本語化する際に、日本の広報担当者としては短く編集してトーンも変えて、と加工したくなるのですが、注意すべき点があります。プレスリリースは企業の公式発表書面となりますので、ほとんどの企業において、特に上場企業の場合はほぼ100%、広報の統括責任者の承認に加えて、言葉の選び方や表現を含め法務担当者による入念な確認と承認(いわゆるサインオフ)を経て最終化されている事です。

そこまで注意を払って最終化した文面ですから、本社やクライアントの同意を得ずに勝手に編集すると問題になることがあります。慎重な欧米担当者の中には日本語文面を英語に自動翻訳して、要素が抜けていないか、勝手に編集されていないか確認する場合もあると聞いたことがあります。お互いの信頼関係が既に築けている場合は良いですが、そこまでに至っていない場合は、勝手な編集は避けたほうが良いと言えます。

上記を踏まえての解決策として、事前に本社やクライアントに言語の違いやリリース体裁の違いを説明したうえで、編集に関する了承を得ることが良いと考えています。そうすれば、クオートや既発表部分を参考資料として別紙にすることも可能でしょう。そして、リリースの上部に「この書面は英語リリースを日本向けに翻訳したものです。オリジナルはこちら(URL)で御覧いただけます」と入れるという方法があります。「翻訳」の部分を、「意訳」や「抄訳」とする場合もあります。事実情報に絞ってクオートなどを削除し、日本式に編集しなおした場合は「抄訳」としたほうが良いでしょう。

プレスリリースの変化とトレンド
広報活動の基本ツールというべきプレスリリースですが、欧米においてはオウンドメディアの発達とストーリー化の加速、受け取るメディア側の変化もあり、姿を変えていると感じます。リリースとして正式文書を出すよりも、オウンドメディア内にストーリーとして掲載し、それをエンドユーザーに直接読んでもらうスタイルが増えていると感じます。また、ターゲット層によっては、文章は最小限にして短い動画でメッセージを伝える形も見受けられます。

日本でもオウンドメディアが注目されており、ニュースルームはオウンドメディアの一部として運用している会社もあるようです。メディア側では、経営を取り巻く環境が厳しくなる中で、一部の経済紙誌を除いて記者や編集者は益々忙しくなり、個人にかかる負担が多いので、昔のようにニュースリリースに目を通してそこから取り上げるという機会は少し減っている気がします。一方、オンラインメディアがかなり増えて、記事広告のようなタイアップ記事の機会は増えています。

読み手にきちんとタイアップ記事であることを伝えたうえでの展開であれば問題ありませんので、その場合は広報担当の手を離れてプレスリリースをもとにマーケティング担当者が媒体・広告代理店と進めるという流れが一般的かもしれません。メディア側の変化もあり、広報とマーケティングの業務範疇がオーバーラップし、境界がなくなりつつあるのかもしれません。

プレスリリースのトレンドは時代とともに少しずつ変わっていきますが、発表内容を正確にまとめて伝えることを念頭に、受け取り手である記者・編集者の皆さんのフィードバックにも耳を傾けながら、改善し続けていくのが広報担当者の仕事なのだと思います。

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