PR会社か企業内広報か

広報のお仕事をするためには、ざっくり分けると広報代理店(PR会社、PRコンサルティング会社)で働いて外部コンサルタントとして顧客企業の広報業務をサポートするか、企業・組織に所属して、広報部で働くか、大きく分けると2つのパターンが考えられます。

私自身は2つの外資系広報代理店と、4つの企業・組織の従業員として広報を担当してきましたが、どちらにも良さと難しさがあると感じます。

まず、PR会社。

PR会社の良さは、何といっても広報の仕事を始めやすいところです。広報をやりたいな、と思っても、一般企業に所属していると広報部へ配属されるまでの道のりが長く遠い場合が大半です。しかし、PR会社なら、入社して即、広報の実務に携わることができます。中には学生アルバイトとしてPR会社で働き始め、その後PR会社に就職する人もいます。

もう一つの利点は、高頻度で記者会見や説明会、製品発表会、プレスリリースなどを経験する機会が、イヤというほどあるので、短期間でかなりの経験値を得ることができる点です。たとえば同じ3年間でも、PR会社での“広報業務に関する”経験値は、一般企業の3倍~10倍くらいあるというのが実感です。

また、副産物的に、マルチタスクのスキルが磨かれます。PR会社では複数のクライアントを同時に担当することが多いので、業界も企業文化も違うクライアントを一度に5~7社受け持つというのも良くある状況です。その中で質の高い仕事をするためには、頭の切り替えを早くし、効率の良い仕事の進め方、プライオリティの付け方、同時進行の進め方が、自然と上手くなります。加えて、外資系PR会社に多いタイムチャージ方式で働いていると、1時間毎にどこかのクライアントに時間を請求する必要がありますので、仕事も早くなります。

クライアントに請求する金額は役職によって決まっていますので、アシスタントでも1時間1万円以上、一人前の担当者であるAE(アカウント・エグゼクティブ)で2万円代、マネージャーなら3万円代、ディレクターなら4万円以上、という相場感です。*注1
クライアントから見れば、「それだけ価値のある仕事をしてくれるんでしょうね」というスタンスになりますので、広報実務のプロとしての自覚が植え付けられます。

いっぽう、PR会社での難しさとしては、社外からは分からない・できないことが多いという現実です。
これは次の企業内広報の良さと難しさの中でご紹介します。

次に、企業・組織内広報について。

企業は人で成り立っています。組織が複雑であればあるほど、また、多国籍企業(日系・外資系双方)であればあるほど、社内での人間関係、コミュニケーションは本当に複雑です。その中で仕事を進めていくためには、広報実務とは別のスキルも必要となります。 

上述のPR会社の利点として、同じ3年間でも“広報業務に関する”経験値を多く得られると書きました。「広報業務に関する」という枕詞を付けたのには、理由があります。実は社内の広報部に所属すると、広報実務だけをやっていられる(広報担当としては幸せな状況)なんてことは、ほぼ無いからです。PR会社で外部からサポートしていると、この現実が見えにくいのと、見えていてもサポートできない場合がよくあります。

企業内・組織内広報の役割として、企業のスピーカーとなる社長やCEOとの関係構築はもちろん、社内で情報を持っている部門、各事業部の意思決定者への情報共有や意見交換をはじめ、社内調整などの仕事が山ほどあるからです。社内プレゼン、稟議、必要に応じた根回し、社内協力者の獲得など、いずれも広報活動の目的を達成するためには必要かつ大切な業務です。

企業内広報の難しさを挙げるなら、社外コミュニケーションを達成するための社内調整やコミュニケーションの難しさとそこに使う時間と、外部向けの本来の広報業務の両立でしょう。

ただ、この難しさは、企業内広報として働く利点にも繋がっていると思うのです。企業内広報の利点は、何といっても自社ブランドへの愛着と責任感からくる達成感が挙げられます。“うち”の製品・サービスの良さを世に発信したい、“うち”の従業員の頑張りを営業実績やブランド価値の向上につなげたい、など、自社の事業に広報の側面からいかに貢献するか、という俯瞰した視点を持てることです。

また、社長やCEOなどトップマネジメントと密に連携して活動することから、広報やマーケティングの視点にとどまらず、企業経営の視点も得ることができ、それを広報活動に生かせることも大きな利点です。さらに、メディアの記者をはじめ社外のステークホルダーとの関りかたも、PR会社の立場とは違います。彼らから、その企業のスポークスパーソンとして見られる、扱われることになりますので、より広報担当としての覚悟と、ある種の落ち着きが身に着くと思います。 

以上、PR会社か企業内広報かというお題で双方の良さと難しさをご紹介しました。どちらを選ぶか、どの道から広報に携わるかは人それぞれだと思います。企業人として働いていたらいきなり広報部に配属された、という人もいるでしょうし、PR会社でイチから修行をしてキャリアを積んでいくかたもいるでしょう。

いずれの道を行こうと、何が正解・不正解、有利・不利ということは無いと思っています。「広報」という難しくも魅力的なお仕事に従事する仲間として、心からエールを送りたいと思いますし、私自身も引き続き精進していきたいと思います。 


*注1:各PR会社の規定により異なります。また、実働時間をベースにタイムチャージを行うシステムとは別に、リテイナー契約で定額での契約やプロジェクト単位での定額契約もありますので、常にクライアントに時間給を請求するわけではありません。 あくまで参考値としてお考え下さい。


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