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ホイップクリームに負けた

冷蔵庫を片付けていたら、ホイップクリームが出てきた。箱に入って、もう泡立ててあるやつ。娘がクリスマスケーキを作るというので、年末に買って使い切れなかったもの。明日食べよう、明日こそと思いつつ、はや1月も10日が過ぎていた。
箱を見ると、消費期限は1月13日。あと3日。
12日から旅行に出かける予定なので、このままだと開封しないまま捨ててしまうことになる。

しかし、食べるべきか否か。
ホイップクリームまるまる一袋、中年夫婦が食べていいものか。カロリー表示なんか見なくても、恐ろしい数値が表示されていることは分かる。しかし、開封せずに捨てるのはもったいない。
そうでなくても、年末年始に食べ過ぎて体重が増えているというのに、これ以上、己の体に対して悪行を重ねて良いものか。
でもホイップクリームはおいしい。食べずに捨てるのはあまりにおいしい。せめて一口……

散々迷った末、食べずに捨てることに決めた。
明日の朝の燃やせるゴミの出すのだと誓って、布団に入った。

翌朝、起き抜けに夫が、
「今日はホットケーキだよね? ホイップクリームあるんでしょ?」
とウキウキ声で訊いてきた。
「え、ご飯とみそ汁だけど?」
と返すと、非常にがっかりした様子。ホイップクリームが残っていると聞いたから、今朝はてっきりホットケーキなのだと期待していたらしい。
「ご飯は昼にカレーに使うし、残りは冷凍しておくから」
夫の甘い提案に、
「じゃあ、ホットケーキにする」
夫の意見に、私の決意はあっさり覆る。その程度の決意なのだ。

ホットケーキミックスを出して、いそいそとホットケーキを焼いた。
実は、昨日の夜、迷いながらホットケーキミックスを買っておいたのだ。やっぱり私の決心はゆるゆるである。

満を持して、ホイップクリームを開封し、ホットケーキの載った青い皿にもりもりと絞り出す。青空にそびえる雪山のようだ。
4分の1枚にカットされたホットケーキに、たっぷりつけて食べた。
「んまいー!」
ホイップクリームは正義。起き抜けに甘いもの、頭にガツンとくる。エネルギーチャージ感が半端ない。

「お、いいこと思いついた」
まだたくさんのこっているホイップクリームの袋をつかんで、コーヒーカップに絞り込む。
「ほら、ウィンナーコーヒーできた!」
コーヒーカップの表面を覆い尽くすホイップクリーム。最高である。
このままやと、二人でホイップクリーム一袋、使い切れるかもしれないと、強気な期待をもっていたのだが……

負けた。

二口、三口まではご機嫌でパクついたが、四口、五口と進むうち、その甘さと脂っこさに頭がクラクラしてきた。口直しにコーヒーを啜ると、コーヒーに溶けたホイップクリームが追い打ちをかけてきた。
甘いが辛い。
なんだか悪寒までしてくる。ブルっと体を震わせる。
中年の体は素直に糖と脂のダブルパンチに拒否反応を示している。
ホイップクリームの袋はまだ半分も減っていない。

カーンと試合終了のゴングがなった。
これ以上はもう食べられない。

ああ、もう少し若かったら、1袋まるまる食べられたはず。悔しい。
今までもホットケーキにホイップクリームは定番だったが、ちびちび使っていたし、子どもたちも一緒に食べることが多かった。食べる量が圧倒的に違っていた。
中年二人で1度に1袋は無謀だった。

口をならそうと、しょっぱいものを探したが、運悪く無添加ナッツしか見つからない。しょうがないので、水を飲んで口をすすいでしのいだ。

夫は私より少し長く格闘していたが、やはり途中でKOされた様子。
恐るべしホイップクリーム。

でも、全部食べなくてよかった。血糖値もコレステロールも中性脂肪もとんでもなく爆上がりして、危うく私の血管も膵臓もノックダウンするところだった。

ホイップクリーム、食べきれなくて、ごめんなさい。
皆さんも、ホイップクリームのご利用は計画的に。

サポートいただけると、明日への励みなります。