【Jazz Standard】2つの歌詞があった ”I'll Close My Eyes”
同じJazz Standard 曲に、2つの違う歌詞が存在していたとは。
この曲 ”I'll Close My Eyes”は、コードもII-Vという進行がめりはりよく並んで、キーもFとかでやりやすく、ベースがアドリブのバックではずんずんずんずん4ビートなので、いかにも初心者ジャズ・アドリブ練習用という感じの曲。でもこういう曲がアドリブ的にはいちばん奥が深くて、ともすれば童謡のようなメロディが終わって、あれよあれよと複雑なアドリブ技が展開してくると、聞いててわくわくする。
トランペットのBlue Mitchelのアルバムに、Wynton Kellyという華麗なピアノの小気味よいイントロで始まる名演奏があって、ときどき聞きたくなる。トランペットのソロが職人芸、背後に流れるコードの動きを感じさせてくれるアドリブ。繰り出してくるリズムも、彼の深い技の引き出しから出てくるわ、出てくるわ。緊張感あるフレーズがあると思えば、それがうまくまとまってひと息ついたり。でも決して事前に展開が用意してあったようなのでなくて(残念ながら日本のお上手な奏者に時々それを感じてしまう)、時々、考えて次に展開するアイデアへの助走があったり、まさに持てる技を動員したその場のアドリブ。これです:
あれ、ジャケット写真でトランペットからでているのは、光の影か、タバコの煙か、はたまたBlue Mitchellのトランペットからの飛沫か。
そうそう、管楽器はかなりの飛沫を発生するんです。先週末、クラブハウスで日本在住30年のアメリカ人ビジネスマンと偶然ちょっと雑談したが、もともとジャズ・ベーシストとして日本に来たという。趣味でジャズやってたというと、サックスまだ吹いたりするの?と聞かれたので、いや、管楽器は飛沫拡散するんで、というと、ハハハ、でっかいベルついてるしな、と笑っていた。あの黒人独特のお腹の底から響いてくる底抜けに明るい笑い声を久しぶりに聞いた。つい、つられて笑ってしまう。
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さて、本題の2つの歌詞。
学生時代にこの曲を練習したときに、歌詞をみた記憶があった。ジャズのスタンダード曲というのは、原曲が、1940-50年代のアメリカのヒット歌謡曲が多かったりするので、原曲に歌詞がついてるのが多い。
今でも覚えている出だしが、I'll close my eyes and make believe it's you。
「目を閉じて(いまのお相手が)あなただと妄想するの」
え、これはひどい話だなと。当時、まだ女性経験もあまりなかった僕には、正直ショックだった。そういうことなのか?
昔の恋人が忘れられなくて、いまでも目を閉じては妄想する。そういうときに目をつぶる女性はみんなそうなのか?と人生の深い法則を学んだような気がした。
それから30年以上の年月が経つ。先日、夕食後にデスク仕事をしながら、YouTubeでBlue Mitchellの演奏後に同じ曲つながりで自動再生を流しておいたら、この日本人女性のボーカルのバージョンに出くわす。これなんかいいですよ。
なにがいいというわけではないんだが、なんかいい。ゆったりと、やさしい感じ。普段はあまりVocalは聞かないんだが、全部きいてしまった。そしてふと気がつく。あれ?出だしから歌詞が違う。
I'll close my eyes to everyone but you... あなた以外の人には目を閉じて...
え、make believe it's you が everyone but youになっている。妄想するのが無い。意味が逆になっている。集合のベン図が反転したような。わけがわからなくなったので仕事を中断、Googleしたら、Wikiが教えてくれた。
作詞者が2人存在していた。当初は、 Billy Reidという人が、「後悔」の唄として書いた。その後、Buddy Kayeという人が、新たな歌詞を書いて、今度は「永遠なる愛」の唄として、あなた以外には目もくれないというような内容になったという。やっぱり、妄想するのはよろしくないということだったのか。
The original version of the song had both music and lyrics written by Billy Reid. In this original version, the song is a song of regret, with a verse introducing the theme in words which include: "Love was mine, you gave me a chance; But my heart was not content and I lost my romance.." The main song refrain then begins (as it does in the later version) "I'll close my eyes" but continues "and make believe it's you". The song then continues on the theme that the singer has foolishly lost his love and can now only close his eyes and imagine her in his loneliness.
Version with lyrics by Buddy Kaye
Soon after its release, new words were written for the Billy Reid tune by the American songwriter Buddy Kaye. The new words make the song more upbeat. The initial phrase of the song remains "I'll close my eyes" but now it continues "...to everyone but you". The song then continues on the theme that the singer will always be faithful, will "lock my heart to any other caress" and will close his eyes to see his love "through the years" in "those moments when we're apart". It thus becomes, not a song of loss, but a commitment to fidelity in a relationship which is expected to last. (Wikipedia)
喪失の唄から永遠な愛へと180度転換。
まあ、それもいいんですが。有名な曲に、歌詞が2バージョン存在していた、それをやっと知った。長生きはするもんだという話。
そんなことがスペイン語の唄でもあったというのを書いたのがこれでした、ついでに:
(タイトル写真は、Note Galleryから、気持ちよさそうに目を閉じている猫のを拝借)
おまけ: フルブローのサックスでのバージョン
https://youtu.be/QsorQsxq82k
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