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映画『もう終わりにしよう』雑感

先週、『コブラ会』が今年最高のドラマかなと書いて、一抹のカッコ悪さを感じていたが、今週末、ふと観たこの文芸?映画のインパクトがあったので、難解さゆえにイチオシするにはカッコいいので以下雑感を。

あまり事前知識なしに、Netflixが僕の過去の鑑賞履歴を基に?推奨してくる作品のなかにこれがあったので観た。2時間超の映画だし、たぶん文芸作品かなと。

主人公の独白で始まる出だしは、質のいい文芸作品といった感じで、土曜の夕食後自宅でみるにはぴったりで、期待が高まる。どうも平日とかだと、仕事のストレス解消で、1話45分くらいのクライム・ドラマ系に走ってしまうが、週末くらい2時間超のいい映画をみようかと。

暗い空に粉雪が舞う、アメリカ北部の地方都市という設定か、大学都市に住む若いカップルが車で4、5時間とか離れた、男性の実家の農家に夕食に訪ねるんだというのがわかる。のっけから、主人公の女性は、題名にもなっている「もう終わりにしよう」と、付き合って7週間しかなっていない男性との関係に複雑なものをもっているのが伝わってくる。独白や、長距離ドライブでの彼らの会話から。

男性のほうは優しそうな喋り方をする、よくアメリカにいそうな20代半ばの若者なんだが、あれ、この役者みたことあるなと思う。どこでみたかすぐ思い出せなかったが、まっとうな好青年の役じゃなくて、サイコパスだったかかなりヤバい役をやっていて印象が残っている役者。どこでみたんだろう。

話しは、最初はごく普通な感じで進んでいくが、だんだん、おかしな感じになっていく。文芸作品が、だんだん、サイコ・スリラーかホラー・ストーリーに変わっていく感じ。そういえばNetflixのカテゴリーはホラーだったかな。不気味に変なのは、廃家の庭に新品のブランコがあるのが見えて何故?とか、農家の家畜が死んだ話とか、農家の地下室の話とか。粉雪だったのもだんだん本格的な雪となって、映画シャイニングみたいな、寒くて怖い映画になっていく。

この映画、鑑賞して楽しい2時間を過ごそう思う人にはまったくおすすめしないです。むしろ、観ていて不快感、居心地の悪さ、怖さが増していく。つい、ネットフリックスの10秒早送りを押したくなるが、ここは我慢。文芸作品は作者の独特な世界観が散りばめられているので、敢えて付き合わないといけない。コブラ会だと1話30分で、話が楽しくとんとんと進んでいったんだが。

農家からの帰り道に寄ったアイスクリーム屋も、かなり不気味。クラウン(道化師)もでてきて、これはホラーの定番だなと思う。そこら辺で、この男性役の役者が誰だったか思い出す。ドラマBreaking Madで、一番不気味で怖かった悪役をやっていた役者だ!

Breaking Badでは、小柄で不細工だが優しそうな喋りの若者で兄弟に誘われて麻薬取引に関わる。Nothing personal, it's just work, sorry とかいいながら表情も変えずに人を殺して、「この人はいい人だったからちゃんと弔ってあげないとね」とか言う。背筋がゾクッとするようなサイコパスを演じていた。それを思い出すと、この男性も不気味なサイコパスとしか見えなくなってしまう。演技力があるのか、この役者の地なのか。すごい。

それでネタバレは避けると、いろいろ展開があって、不可解なエンディングへとつながる。映画の早い段階からパラレルに、ある学校の用務員のおじいさんの生活が挿入されていて、それがなんらかエンディングでつながるんだろうという、この難解な映画のなかではわかりやすい伏線ははられている。

感想としては、一言でいうと、大部分が、時間や場所のつながりが辻褄があわない話のようで、重たい悪夢をみせられている感じ。自分もみる夢はだいたい時間も登場人物もメチャクチャ。それと同じ。そんな悪夢が積み上がっていって話が展開していく映画。

前半、話の展開が不気味で不可解がゆえに観ているのが辛い分、それを我慢して付き合っていると、後半、それが倍くらいになってすっと腑に落ちる瞬間がある。サウナで高温に耐えに耐えて、その後の冷水浴ですっと整うような。違うな、殺風景な道のりをずっと我慢して運転しつづけたら10時間後に壮大な風景が広がってきたような。

大袈裟にいうと、人生ってこうだったのか、生きている目的ってこれだったかと悟る瞬間がでてくる。後半のダンス・シーンや、学芸会のような授賞式のシーンが、僕にとってはそれだった。不気味で不可解な展開だったが故に、突然でてくる、流れるような生きることを謳歌するような踊りは美しい。いろんな難解な名言の引用が多くあるがゆえに、人を愛するということは複雑な方程式より真理だ(とかいうようなセリフ、詳細忘れた)と男性が授賞式?で言うシンプルなセリフも美しい。

やっぱり、サウナだな。苦行のあとに訪れてくる悟り、みたいな鑑賞プロセスが求められている映画でした。今年観たなかでやはり一番インパクトがあった。おすすめしませんが、サウナファンにはおすすめです。

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