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野毛の夜は更けて(2020.1)

ちょうど1年前、出張先の横浜は桜木町で朝4時まで唄っていたらしい。今朝、SNSのなかの "Memories"というのが教えてくれた。

厳密には桜木町駅というより日の出町駅に近いほうだったが、自分にとっては、「野毛の飲み屋街」の一角という位置づけの中。10年くらい前から、横浜に住むある仕事上の知り合いと打ち合わせの必要があると、「また野毛来てよ。じゃあ、金曜午後3時待ち合わせで、その後で飲もうよ」となって、打ち合わせを済ませると、野毛の街に繰り出す。もちろん打ち合わせがかなり長引いて、繰り出すのが遅いスタートのときもある。

僕は東京は出張で行って東京で宿をとるので、近年、ここ3年くらいは、野毛に行く夜は荷物を東京のホテルに預けて、横浜に1泊の宿をとって、万全の体制で臨む。なんどか東京に戻る終電を逃して、東京のホテルまでタクシーに乗るという意味のないことを経験した後で。

野毛は不思議な街で、飲食はチェーン店が比較的少なく、かなりの数がオーナー店主経営の個性がある店だと聞く。たしかに10年通って(といっても年に数回の訪問だが)、毎回3、4箇所はしごしてわかったのは、かなり個性のある店が多かった。

話はそれるが、一度、知人が常連の地元の老舗の中華料理屋にいったら、なかなか博学な初老の在日華僑の料理人オーナーで、美味な巨大な肉団子を食べながら世間話をさせていただいたが、急に、「英国EU離脱がEUの将来に与える影響についてどう思いますか?」と聞かれたのには驚いた。知人が海外長いやつがきたのでとか言ったからなのだが、野毛、誰にでくわすか、何に遭遇するかわからない、すべてがディープだった。

以下、一年前にSNSにあげた文章を焼き直したもの。残念ながら、この生演奏で朝5時までやっていた店も、2021年1月末で閉店だと聞いた。悲しい。

Deep into the Night in Noge

こんな飲食のビジネスモデルがありうるのかと思った夜。

古い知人と夕食がてら打ち合わせの後、9時からOPENの店があって生バンドで歌えるので1,2曲歌いに行こうかというので行く。

京急線の駅からは近いが、桜木町界隈からはちょっとはずれた場所にそれはあった。

店に行くと、愛想のいい若者2人が音楽談義しているので加わると、Jazz Fusion系の20代のギタリストとドラマー。あまりにも客あしらいがいいので店の人かとおもったら、店のおかかえバンドのメンバーだという。もう1人キーボードがいて、その人は普段はスタジオ・ミュージシャンだという。店も、月曜から土曜まで午後9時の開店で翌朝5時まで営業。そんな生カラオケ屋のビジネスが成り立つのか?

客は我々のほかは3人連れがいただけだったが、だんだん、1人、2人と増えていく。10時頃から音楽が始まる。バンドの3人は、基本的に初見でなんでも演奏できてしまう。まあ、カラオケの生バンド版か。豪華。

若者のグループもいくつか来て、一晩でマリーゴールドという曲を2度聞いた。いい歌だな。やっと聞き覚えた。生バンド休憩のときにカラオケが稼働する。

我々も含めてそこに居たおじさんたちは、ちょっと難し目の昭和のJ-Popsを好んで歌っていた。仕事の知人はそこの常連で、バンドは彼が歌いたい曲はよくわかっていて、次々と昭和Popsとかビートルズとか演奏する。

新参者の僕は、まずは受けを狙ってポルトガル語でボサノバを1曲。珍しさがウケた。その後、なぜか、結構ブロードウェイ・ミュージカルを歌う歌自慢みたいな人が何人かでてきたので(横浜で不動産屋やっているというおやじがアラジンの曲を熱唱してブロードウェイ俳優みたいにうまかった)、On the Street where you liveという、大昔、半年ほどボイスレッスンを受けた時に(はずかしい我が黒歴史)唄った曲をやりたいというと、バンドは即対応してくれた。この曲やったのはじめてですよ、と言われたが。これが零時をまわったくらいの頃。

その後、夜が更けてくるにつれて、生きているには歌わずにいれない?ような強者がぞくぞく現れて店は満室。けっこう飲食勤務の人たちが仕事が引けてからきているという。知人がビリー・ジョエルを歌うというので、Just the way you areはサックスソロのラインをよくしっていたので、エアーサックスやりますよと口でPhil Woodsのソロをやったら、けっこうウケる。

深夜3時をすぎて、みんなが歌う曲想がだんだんメローな感じになっていったので、最後として、サザンの曲を歌う。栞のテーマ。歌い終えると、見知らぬ親父から、あの曲いいですよね、といわれる。

なんだろう、この不思議な盛り上がりは。

たぶん、歌歌うのが好きな人が集まってきているということだけなんだろうと思うが、やはり人口の何%かに、歌わずにいられないような人たちがいて、カラオケでもいいんだが、生のバンドで、歌い手にあわせてくれて(途中で転調したりもする)、気持ちいいタイミングでベースが盛り上げたりドラムのフィリングがはいる、それに大事な価値をおいていて、わざわざ遠くから深夜に集まってきているようである。やはりディープな野毛。

決しておしつけてこないが、常連が、ここのカレーはマスターの兄弟がカレー屋やっているんでうまいんですよ、というので、仕方なく?午前3時に半カレーを頼むと、ささっと小さいのがでてきたが、大きなエビフライが載っていて、たしかにうまい。深夜の炭水化物摂取の禁忌を犯してでも、食べたい味であった。

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謎だらけの不思議な、野毛のカラオケというかライブハウス。

その日は、金曜夜ということもあるんだろうが、朝まで満席だった。ほんとに朝まで歌自慢の宴は続いた。

さすがに、出張できて月~金フルに働いた後での徹夜はきつかったが、歌いまくって、こころおきなく満足。ホテルでチェックアウトの時間まで爆睡した。

そんな個性的で素晴らしい店も、その後の世界を覆った感染のせいで、閉店だと聞く。やはり、個性的な店は、それがあるお陰で心の平静が保ててる人がいると言う意味で、ある種の必要な社会的インフラなので、絶滅種にならないように社会として支えられないものか。こんなの言うが易しでなにもできない自分の無力さを感じるが、また、平常な世の中にもどったらぜひ復活してほしい。そう祈るしかない。そういう店、たくさんあるのではないか。

(タイトルの絵は、Noteライブラリーでカラオケで検索してでてきた中から、とてもいい感じのクリエーターのものを拝借。シンプルだけどとてもいい)

(追記)お店のLinkみつけたので:


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