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QuestReading[12] 「国土」喪失

天変地異によるSF小説のような本のタイトルだが、正反対のノンフィクションに基づく提言書である。
平和平穏な20代だった私は、2000年ごろにフジテレビの深夜番組「平成日本のよふけ」で、著者佐々淳行さんの鬼気迫る現場・現物・現実の話を初めて聞いた。その話は衝撃的で、浮世離れし、でもそれが事実であり、日本という国をいかに守ろうと舵取られてきたかを胸に刻みこまれた瞬間だった。
そんな初代内閣安全保障室長で「危機管理」「安全神話(平成7年 新語・流行語大賞受賞)」の生みの親の一冊を、2019年大阪でG20が開催される今こそQuestReading。

書名:「国土」喪失
著者:佐々淳行
出版社:PHP研究所
出版年:2012年

公憤と向き合う圧倒的な体験

連合赤軍による<あさま山荘事件>の陣頭指揮を執ったことで著者は有名だ。しかし、この本の中にはそれだけではなく、<柳条湖事件><紅衛兵暴動><丹羽駐北京大使公用車襲撃><三原山噴火にともなう全島避難><宮永スパイ事件><ミグ25亡命事件><第十雄洋丸事件><第一次ノモンハン事件><阪神・淡路大震災><湾岸危機>と学校では習いきれない数々の現代史実に、著者が対面した体験が描かれている。

圧倒的な体験の中で、私怨は横に置き<公憤>と向き合うことが、著者の根底にある。個人的にどう思うかではなく、国として全体として何を思うかが大事ということだ。

ハラスメントや体罰など、最近では<怒る>という行為に対して批判的な風潮が広まっている。私自身も、怒ることは滅多にない。
しかし、<全体を思って>正しく怒りを向けるならば、それは「必要なこと」「遠慮すべきではないこと」という意見には共感することができる。もし、怒りを向けないならば、それはリーダーとしての資質が足りないともいえる。

本が出版された2012年ごろは、民主党が自民党から政権を奪取し約3年が経過し、前年に発生した<東日本大震災>に伴う混乱などで、政権不安が大きい時期であった。
そこに乗じてか、<竹島問題><尖閣諸島問団><北方四島問題>などの外交問題が噴出、当時の政権の、事なかれ主義で、友好主義な、私怨・私情を振りかざす政治姿勢が批判されている。
なぜ、公憤を正しく抱き、外に発信しないのか。「国土」喪失というタイトルには、そこへの不安がにじみ出ている。

3つの志

著者の指摘は、国や国防の話だけでなく、会社や組織、家族のことにもいえる。私は、著者の行動の根底に3つの志を感じた。

・我が事のように怒り、大人げなく喜ぶ<愛国心>
・事なかれと思わず、命がけになれる<主権意識>
・はじめてなのでは通用しない<危機意識>

愛する気持ち(愛国心)が公憤の根底にはある。ただ、愛する気持ちが、独りよがりだと、それは体罰やハラスメントのように、私怨として批判される。

自分事(主権意識)として逃げない行動も大事だ。
書内で、日本人は5つのことが確保されないと身動きが取れないのだと書かれている。

・十分な準備期間
・確保された予算
・明確な責任範囲と権限範囲
・誰が何をするかがはっきりしている
・指揮官、指揮系統が明確

「部下に行動を促すための5つのこと」とタイトルがつきそうな文章だが、それぞれを事なかれと傍観せず、自分ごとにして整えられるかどうかがポイントだろう。
さらに、非常時は悠長に構えてはいられない。それでも、逃げずに行動できるか。真一文字に悩んだり、ニコニコ笑っているだけでは、何もはじまらない。

「なにぶん初めてのことで・・」で、危機への対応が許されるものではない(危機意識)。
確かに初めてのことも多いが、著者の経験からは、次の心構えが大事だと書かれている。

・悲観的に準備、楽観的に対処
・大きく構えて、小さく収める
・火事は火花のうちに消す
・凶報を平静に聞く
・非常時は飛び越える
・いざの場面でこそ鶴のひと声

私は、<非常時の準備を平時にしておく>というメッセージだと思う。
対処法、連絡網、初期行動、指揮系統など、備えておかないから、知識がないとか、平和ボケしているとか言われているのだろう。著者のように、実際におきた史実を批判的にみることで学ぶことも大事だろう。

人間力

リーダーに対して、責任逃れで逃げることは許さず<負け残り>させて、最後までやり遂げさせるべきと厳しい姿勢を一貫して示している。

ただ、全体を見たときには、厳しさだけではなく優しさを持っている。
例えば、厳しい場面で失敗を行った業者に対して、改善計画を立てさせ、次回に再起を機会を与えるなどの対応をしている。
人材を、人在(いるだけ)、人罪(いると迷惑)にせず、人財にするという意思を感じる。

それは、自身が数々の現場で味わった窮地やピンチの場面でも、「はじまったことはいつか必ず終わる」と、最後は好転できることを実感しているからだろう。

まもなくG20が開幕。
私は、非常時に備えて、点検しよう。

免責:
本を精読しているわけではありませんので、すべての内容が正確とは限りません。詳細は、実際の本でご確認ください。

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