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「作家のエージェント」という仕事

私がエージェントになった経緯、そしてnoteで文章を綴る思いなどを、改めて記事にまとめました。昨今、「エージェント」という存在が話題になっておりますが、初めて「作家のエージェント」という存在を知った方、改めて詳しく知りたい方にご覧いただけましたら幸いです。


作家のエージェントになるまで

私は、弁護士事務所でのアシスタント、地方出版社勤務、ライター経験などを経て、2006年、総合出版エージェントである「アップルシードエージェンシー」に入社しました。

子どもの頃から語学や海外文学が好きで、大学時代はアメリカに留学するなど、将来は翻訳家を目指していました。その修業期間中、生計のために働き始めた出版業界で、「作家のエージェント」という仕事に出会ったのです。

海外の小説や映画、ドラマに時々登場する出版エージェントに馴染みがあったこともあり、当時、日本ではまだ珍しく、これまでにない方法で新人作家の発掘や執筆活動をサポートする仕事に興味を持ち、「挑戦してみよう」と思いました。

仕事を始めてみると、創意溢れる作家たちと接し、彼らの活動の舞台裏を支える仕事に、私はすぐに夢中になりました。翻訳家になる夢が吹っ飛んでしまうくらいでした。以降、たくさんの作家を担当し、現在ではミステリや歴史時代小説などのエンターテインメント分野を中心に、数多くの小説を世に送り出すことができています。

エージェントの仕事とは?

作家のエージェントとは、作家の代わりに企画や原稿を出版社や新聞雑誌、その他の二次利用(翻訳、映像、演劇、音声メディアなど)の会社に売り込む仕事です。作家の利益や思いを代弁して、取引や交渉を行います。

欧米では、作家にエージェントがいるのは一般的な商習慣です。私がアメリカの老舗出版エージェンシーが舞台の映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』の日本公開に寄せて、「出版エージェントとは?」という記事を書いているので、ぜひご参照ください。

また、イギリスの出版社であるペンギン・ブックスのホームページでも、エージェントの仕事がこんなふうに述べられています。

The work of an agent is vastly varied, with Felicity describing agents as “part lawyer, part accountant, part counsellor and part editorial sounding board”.
(要約:エージェントの仕事は多岐にわたる。作家の弁護士でもあり、会計士でもあり、心理カウンセラーでもあり、編集者でもあるのだ。)

Penguin Books Limited

作家ひとりひとりの希望や個性に合わせて、作家とエージェントの関係は変わり、作家がもっとも求める分野でサポートできるよう力を尽くします。そのとき、エージェントは弁護士や会計士、心理カウンセラーなどの資格は持っていませんが、豊富な経験や知識、人脈を駆使して、作家が執筆活動に専念して順調な作家人生を送れるように、さまざまな専門的なアドバイスを行うのです。

例に挙げると、以下のようなことです。

  • 書籍企画書の作成や原稿のブラッシュアップのアドバイスを提供する

  • 市場のトレンドや読者の嗜好、業界の動向など最新の情報を提供する

  • 作品に最適な出版社、作家に最適な編集者を紹介する

  • 契約条件を交渉して経済的利益を最大化する

  • 作家自身の希望を反映したキャリアを歩めるようサポートを行う

エージェントの仕事のやりがい

エージェントが作家にとって最初に行う仕事であり、いちばん楽しいのは、作家の原稿を誰よりも――読者はもちろん編集者よりも――先に読むことです。そして、こうしたらもっと良くなる、売り込みやすくなるとアドバイスをして書き直してもらい、あらゆる手段で編集者を探して毎週のように売り込みをします。

その結果、出版社に作品が採用されたとき。編集者との共同作業によってさらに良くなって、世に送り出されたとき。そして評価されたりベストセラーになったとき。――まるで自分のことのように嬉しいです。エージェントの仕事に最もやりがいを感じる瞬間です。

エージェントは作家と編集者の緩衝材

日本に出版エージェントが登場したのは20年ほど前からですが、作家の創意や人間関係の機微を大切にする日本の出版業界に、アグレッシブな交渉を行う契約重視の欧米型の出版エージェントは馴染まないのではないか、出版社には歓迎されざる存在なのではないか、と言われてきました。

しかし、エージェントの本来の役割を考えたとき、けっして出版社に対立するものではありません。エージェントは、作家と編集者の緩衝材になります。そのため、作家はもちろん編集者も出版ビジネスにおける問題点や不満をエージェントに預けて、クリエイティブな作業に集中することができるのです。

noteで記事を書く理由

さて、昨今、話題となっている出版エージェントについて、より正確に知っていただきたいと思い、noteで記事を書くことにしました。作家のエージェントの仕事について、出版業界での役割や課題について、作家志望の方々に生かせることなどを発信してまいります。

作家として必ずしも順調に歩んでいるわけではない方々、エージェントになりたい、自分でエージェント会社を起こしたい方々、エージェントが日本の出版業界を活性化するのではないかと考える方々に、参考にしていただけましたら嬉しく思います。

寄稿・取材など

私がエージェントという仕事や出版業界について書いた記事や受けた取材について、以下にまとめます。ご参考にしてください。


お読みいただき、ありがとうございました!