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文芸部の仲間達1

僕はこの小説を、高校時代の思い出の再構成であり、ありえた別の可能性だと考えている。

僕は、高校のとき文芸部に入った。1年生の頃は、まだ、「全国高等学校文芸大会」もなかったし、かなり緩い部活だった。好きに作って、好きに発表して、好きに文芸について語る場所だった。行かなくても何も言われなかった。
部員は全部で10名。
まずは、1年生から。
1人目は僕。僕は、恋愛小説を書いたが、評判は良くなかった。彼女ができたことがなかったので、
「リアリティがない。」
「童貞の妄想。」
と言われた。
唯一、評判が良かったのは、次の作品だった。

セックスのことをずっと考えていた。すると、目の前にセックスが現れた。僕は彼に言った。

「ヤりたいな。」

すると彼は頷いた。僕は喜んだ。しかし、僕と彼の間には齟齬が生じていたらしい。

次の日、僕はセックスになっていた。「部長やりたい」的な意味に捉えられたのだろう。こうなってはセックスできない。セックスがセックスをしたらおかしなことになる。ニワトリが先か卵が先かみたいな。

2週間経つと、セックスがまた僕の前に現れた。

「もう十分だ。」

そう言って僕はセックスをやめた。

今になって考える。本当にセックスがセックスしてはいけなかったのだろうか。セックスできないことの言い訳だったんじゃないのか。本当はセックスになることを望んでいたんじゃないのか。そもそもどうしてセックスしたいのだろうか。

そんなことを考えていると、僕の前にプライドが現れた。随分と疲れているようだったので、僕は言った。

「代わってあげましょうか。」

彼は断った。

「俺自身がセックスになることだ」

これに関しては、
「素晴らしい。」
「童貞の悲哀が表われている。」
と称賛された。
2人目は、たなかばっくすぺーすだ。僕と彼は中学の同級生だった。彼は中学生の頃、こう言った。
「全く新しい小説を書くんだ。だから、なるべく小説は読まないようにしている。影響を受けない為にね。」
そんな訳で、彼はほとんど部活動に現れなかった。
しかし、彼は文芸部に影響を与えている。今でも文芸部の1つの目標になっている、「カオスから小説を作る」は、彼が2年生の頃に立てた目標、「時刻表や商品のカタログのような、明らかに小説ではないものからスタートして、だんだんと小説に近づけていくことで、極限まで破壊された小説を作る」からの流れだろう。
また、彼は卒業間際に、Whitespaceのソースコードを書いている。この際、頻繁にパソコン部に出入りしていおり、そこから、パソコン部の方で、「プログラミング言語の文学への応用」の流れができた。この流れは、プログラミングに興味のある人間が、みんなパソコン部に入ってしまう為、文芸部の方には生まれなかった。
文芸部は、今年の春の大会で、ベスト8敗退となっている。この現状を打ち破る鍵は、パソコン部との連携にあると僕は考える。
3人目は、青山怜あおやまれい 。彼女は魔女に言葉を奪われていた。話すことも書くことも、手話だってできなかった。
僕は彼女のことを尊敬していて、「お師様」と呼んでいた。
彼女は優しかったが、僕のことは嫌っていた。
彼女と仲良くなる為、僕は魔女に会いにいった。
「彼女に言葉を返してください。」
「タダでという訳にはいけないね。『龍の心臓』を持ってきたら良いよ。」
「どうしたら『龍の心臓』を手に入れることができますか?」
「西の山に住む龍を殺せば良い。」
「どうやったら龍を殺せますか?」
「『龍殺しの剣』を使えば良い。」
「どうしたら『龍殺しの剣』を手に入れることができますか?」
「『龍殺しの剣』ならここにある。ただ1つ問題がある。」
「問題?」
「『龍殺しの剣』は使用者の寿命を吸って力を発揮する。人間が使ったら一振りで老人になってしまう。」
「それじゃ龍を殺せません。」
「そうじゃ。そこで不老長寿の薬が必要になる。」
「どうしたら、不老長寿の薬が手に入りますか?」
「作ろうとしているんじゃが、1つ材料が足りない。」
「何が足りないんですか。」
「『龍の心臓』じゃ。」
そんな訳で、彼女と僕が仲良くなることはなかった。
1年生の頃の彼女は、よく使う単語をまとめた表と辞書を指差し、それを他の人が書くことで作品を作っていた。この時期の彼女の作品の特徴は、難しい言葉の多用だろう。彼女は言葉を奪われたことで、誰よりも言葉を知っていた。何か表現したいことがあり、それを適切に表すためには難しい言葉を使う必要があるということもあるだろう。しかし、その範囲を超え、彼女の作品は衒学的な趣きをもっていた。「須く」や「仮令」など、副詞、接続詞を漢字で書く必要は余りないし、登場人物の苗字が「頗羅堕」になっているのは、完全に趣味だろう。
2年生以降の彼女はファウンド・ポエトリーを作っていた。

ファウンド・ポエトリー(英語:Found poetry)は、他の原典から単語、フレーズ、時には文章の一節を引用して、間隔や行を整えたり、テキストを足したり減らしたりすることで新たな意味を付け加えて再構成した(文学的コラージュに相当する[1])詩である。こうした詩は「処理済み(抜本的かつ体系的に変わった)」か「未処理(詩の順序、統語論および意味は変わらない)」と定義される[2]

Wikipedia

ネット、電子書籍からのコピペ、新聞の切り抜きで作品を作っていた。

おぼろげながら浮かんできたんです
46と言う数字が
寝ている間にナーマギリ女神が教えてくれた

ここから政治的な要素が強くなってくる。彼女は、ただ、事例を配列することで批判した。矛盾する政治家の言動を並べる。よく似た事例を発見し、上手くいかないことを示す。格言と並べて、愚かさを示す。
初期は、はっきり言って何の芸術性もなかった。
熟練するにつれ、端的な文章で、読者に深い解釈をさせらるようになっていき、味わい深くなっていった。
そこから、実際の文脈から離れ、政治家の発言に新たな文脈を与えることで、新たな意味を見せることに注力した。同じ言葉を文脈を替えることで、どれだけ違う意味にすることができるかに挑戦していた。
そして、2年の冬以降、彼女の作品から意味は無くなる。

今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
今のままではいけない
だからこそ
今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない今のままではいけない

4=4

彼女は新聞をミキサーにかけていた。僕が自分の作品を見せようとすると、それもミキサーにかけられた。何するんだ、と言おうとしたが、言葉がバラバラに並び替えられてしまう。
「す、ん、何、だ、る」
僕も反抗する。
「き、き、好、大、好、好、き、好、大、き、好、大、好、き」
彼女は極めて不愉快そうな顔をした。
4人目は、川俣碧かわまたあおい 。彼女は、小説のアイデアが思いつくと、体から赤ちゃんが分裂して出てくる体質だった。
アイデアというのは、1つ思いついて、また1つ思いつく、というものではない。いくつものアイデアの種があり、それらが、派生したり、くっついたりしてできるのだ。だから、彼女の体からは、常に小さな手や顔が出ていて、生まれてくる赤ちゃんが、双頭のこともよくあった。
赤ちゃんは、ペンを渡さないと、30分程で死んでしまう。ぺンを渡すと小説を書き始める。原稿用紙を渡しても枠に合わせて書こうとはしない。だから、文芸部の床と机には、大量の文字が書かれている。文字が既に書いてあっても、気にせず上に書くから、何重にも重なっていて、真っ黒になり、読めない部分も多い。赤ちゃんは、書き進めるにつれて成長し、書き終わると川俣碧になる。
そうして川俣碧は、増殖していった。
幸い、部室の広さは無限であり、机と椅子も無限にあった(もちろん、実際に測定することはできない。ホームページによると「定義上無限」らしい)ので、彼女が入り切らなくなったり、机と椅子が足り無くなったりすることは無かった。
彼女は今でも部室で増え続けているらしい。食べ物は、アイデアをエネルギー源とする為、必要ない。サルトルの「飢えている子供たちを前にして文学に何ができるのか?」に対する回答は、その子供が川俣碧だった場合に限り、「その子供が文学を食べる」になる。
しかし、服は寄付に頼っており、不足しているらしい。
何のすけべ心も無いが、様子を見にいきたい。
僕は、彼女の作品を断片的にしか知らない。したがって、これから語ることは彼女から聞いたことを元にしている。
彼女の作品は、神学と哲学を背景にしていた。「この小説の主人公は、自由意志なんだ。」と言っていた。
彼女は、自分のことを「賢い人間」だと思っていた。彼女によると、人間とはその定義上「愚かな」ものである。だから賢い人間は、人間ではない。このことが、詳細には何を表しているのかは分からない。
彼女は、自分を特別だと思っていたが、幼稚で、背も低く、まるで、子供のようだった。
5人目は、佐藤天使 えんじぇる。彼女は「詩」ではなく、「詞」を書いた。彼女は軽音部と兼部していた。彼女は明るい性格だったが、書く詞は暗かった。青春げんそうとか書いていた。
未来 やみ
希望 げんそう
学校 かんごく
性欲 あい
フォロワー数 銃口の数
昨日の明後日 あした
うちの犬チョコ
歌も上手くて歌詞もかけちゃう、才色兼備、文武両道、天が二物を与え給うた、完璧で可愛い美少女
パリ ロンドン
良い歌詞を書くけど、何言っているか聞き取れない歌い方をしていた。
今年 2019年というルビを振っていたことがある。1年しか使えないじゃん。2020年になったら替えるのかなと思っていたら、そのままだった。替えた方が良いよ、と僕が言うと、彼女は、歌詞に変数を入れるようになった。つまり、状況によって変わる要素を歌詞に組み込んだ。日付け、場所、天気を状況によって替えて歌った。その日の占いを言うだけの歌があった。

A型のみんな 地獄行き
ラッキーアイテムは蜘蛛の糸

今日の占い 2/27/2020

最後らへんは、ライブ中にすごろくを始めて、その結果を歌っていた。20分ぐらいある曲だった。ドラムがずっとリズムをとっていたのを覚えている。「振り出しに戻る」が出ると、ライブ中に帰った。
何言っているか聞き取れないのに、ランダム要素を入れはじめたから、歌詞は半分くらい彼女自身しか分かっていない。
(偉い人の名前)死ね、という歌詞は良かった。
6人目は、玉置環 たまきたまき。彼女は、常に目隠しをしていた。生まれてからずっと目隠しをしているらしい。どうして目隠しをしているの、と聞くと、
「目隠しを外しても見えないかもしれないと思うと怖いんだ。」
と答えていた。
彼女は、ラジオと音楽が好きだった。しかし、ミュージシャンのやっているラジオは、「カレー屋の握った寿司」と呼んでいた。
7人目は、平渡和ひらわたりなごみ 。彼女はずっと、意味の無い文字列を打っていた。彼女は、デザインに精通していた。彼女にとって文字列は、見た目が全てだった。だから、意味の無い、見た目の綺麗な文字列をずっと打っていた。ときには、自分でフォントを作ることもあった。
彼女は、よく、玉置環の作品作りを手伝っていた。

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ラジオを超えて

8人目(1匹目)は、犬の「沖縄旅行」。
彼の名前の由来について、話そう。
昔々、あるところに、男の子がいました。男の子の誕生日が近づいてきたとき、両親は言いました。
「誕生日プレゼント、犬と沖縄旅行、どっちがいい?」
男の子は悩んだ末に、一挙両得の妙手を思い付きました。
「そうだ!犬に『沖縄旅行』という名前を付ければいいんだ!」
こうして彼の名前は沖縄旅行になりました。
彼は当然、犬語で作品を作った。僕はそれを翻訳した。自動翻訳の精度は低いし、日本語の辞書も無かったので、ワン英辞典を引いて翻訳した。
犬語の名詞は、7種類に分けられる。

  1. 自分よりも序列が上の存在に関する名詞

  2. 自分よりも序列が下の存在に関する名詞

  3. 敵(の可能性がある存在)に関する名詞

  4. 食べ物に関する名詞

  5. 生殖に関する名詞

  6. このカテゴリーに属する名詞

  7. それ以外の名詞

彼は犬なので、嗅覚で世界を認識していた。嗅覚で世界を描写した。
次に2年生。
9人目はサモア人。本名は最後まで聞き取れなかった。ペンネームは、山田権兵衛。
彼はラグビーが得意だった。ラグビー部に入り、そして今年からラグビー部が文芸部になったので、彼はこの部活に所属している。2年と3年が1人ずつしかいないのは、そんな訳でみんな辞めてしまったからだ。
彼の作品のテーマは筋肉が全て解決するというものだった。暴走するトロッコを、5人の屈強なサモア人が止めることで、トロッコ問題を解決していた。
3年生。
10人目は秋山茜 あきやまあかね。彼女は、スポーツ少女だった。
特に覚えていることはない。
顧問の先生はもなか先生。彼女は全身に、ミルトンの『失楽園』の原文のタトゥーを入れていた。右手には常に、言葉を操る力を宿す棒——「詩歌」を持っていた。
「詩とは、なんだと思う?」
「分かりません。」
「いいかい、詩とは何処にでもあるものなんだ。」
彼女が「詩歌」を振る。世界にTwitterが挿入される。

「偶然短歌bot?」
「そう。短歌は、何処にでもある。例えばこれ。」

「これを書いた人間は、短歌を作ろうとした訳ではない。偶然、または無意識に短歌を作っていたんだ。それを見つけるのが歌人なのだ。」
「なるほど。」
こうして僕は詩とは何かを知った。多分。
最後はペット。
「竜」という文字をアクアリウムで飼っていた。春になると「の」を産み、それが孵ると「♪」が生まれ、成長すると「竜」になる。

このメンバーで送ったドタバタの1年。それを描くのは、これを読んでいる君だ!!!

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