役に入らないで漫才をするために、必要だった場所【シンクロニシティ インタビュー】
Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『シンクロニシティの録音ラジオ』を配信する、シンクロニシティのお二人にフォーカスします。
シンクロニシティは、西野諒太郎さんとよしおかさんによるお笑いコンビ。事務所に所属せず、フリーで活動しています。メディアへの露出は少ないものの、M-1グランプリでは3年連続で準々決勝まで進出し、『お笑い実力刃』(テレビ朝日)では東京03が注目している芸人として名前を挙げるなど、着実にその面白さが浸透していっています。
もともとラジオをやりたいと思っていたけれど、無言の時間が生まれるのを危惧していた西野さんと、お笑い以外の話をしたかったけれど、二人の共通の話題がお笑いしかなかったことに気付いたよしおかさん。
Radiotalkで配信している間にあらゆる出来事に直面しながらも、更新を止めるという選択をしなかった背景には、西野さんとよしおかさん、それぞれにとって「しゃべる」ということについての変化があったからかもしれません。
(取材・文/ねむみえり)
無言の時間への不安を振り切って配信をスタート
ーー音声配信を始めようと思ったきっかけは?
西野:ラジオをやりたい気持ちはあったんですけど、二人で普段会話をしていても無言の時間が結構生まれてしまうので、放送事故みたいになってしまうかなと思って実行に踏み切れなかったんです。でも、たしかRadiotalkさんからDMをいただいて、それをいいきっかけとして始めたという感じです。
ーー初回の収録トークで、よしおかさんが積極的に「やりたい」という姿勢でお話しをされていましたが、よしおかさんの中にこういうラジオ番組をやりたいというコンセプトがあってスタートされましたか?
よしおか:芸人さんが他愛もない話をしてるラジオをやってみたくて。今までは自分たちのネタの部分しか世に出してないから、自分たちの素の部分を出していくという方針でラジオをやりたいなって。ふわっとしてるんですけど。
ーーそのよしおかさんのお話しを受けて西野さんはいかがでしたか?
西野:ラジオを配信するには機材がいるとか、場所を借りてとかっていうイメージがあったんです。ただ、自分たちはそういう準備を協力してできる関係性ではあまりなかったというのも、ラジオ配信に踏み切れなかった理由の1つで。
でも、RadiotalkさんからDMをいただいたからやってみたいっていう相方の話もありますし、Radiotalkのアプリの使い方を確認してみたら、スマホがあればできるっていうのが分かって、それは実行に移せた一番大きい要因だなと思います。
ーー番組タイトルはどのように決めましたか?
よしおか:ちょっと面白いタイトルにしたいなって思ってて。私たちのラジオって録音して垂れ流してるから、じゃあ「録音ラジオ」かなって。そんな感じです。
西野:よしおかさんは何かを決めるとき、基本的にひねってすごい突飛なこととかはあんまり言わないタイプなんです。ただ当たり前のことをそのままつけちゃおうってなる人なので、それがタイトルにもなってるのかなって。
ーー最初は週2で更新していて、だんだん更新回数が減りながらもずっと続いているので、お二人の無理のないペースでできているのかなという印象があります。
よしおか:最初はプライベートなこととかを話したいという気持ちがあったんですけど、お笑い縛りでいつもラジオを配信していて。でもお笑い縛りになってくると、週2で更新していたら話すことがなくなってきちゃうんです。西野さんに、「お笑い以外の話をちらっとしたい」って言ったら、「お笑いの話じゃないと誰も聴かない」って言われてしまって……。
西野:「言われてしまって」って(笑)。「収録のアナリティクス」から再生回数が見れるじゃないですか。お笑い以外の話をしている回は露骨に再生回数が減るんですよ。
ーーある意味、ストイックにシンクロニシティさんのお笑いが好きな人がリスナーさんに多いのかもしれないですね。ただ、よしおかさんは本来、お笑い以外のプライベートな話をすることを目的として始められたかと思うのですが。
よしおか:自分がやってるSNSで、昔は自分のこととかをぼちぼち投稿していたんですけど、最近は変にプレッシャーに感じてしまっていて、「M-1出ます」とかしか呟けなくなっちゃっていたんです。なので、自分がしゃべるラジオでは自由気ままに、と思っていたんですが、私たちの共通の話題ってお笑い以外だとぱっと思い浮かばないですね。お笑い以外の話をしたいと思ったんですけど(笑)
もっと明るくてもいいし、もっとしゃべってもいいことに気付いた
ーー収録トークの中で、西野さんが「あと◯分あるよ!」と仰ってる回がたまにありますが、12分しゃべりきるということに強い理由はありますか?
よしおか:制限時間だと思ってました。
西野:(笑)。たしかに、12分でやるものだと思っていたのはあります。あと、芸人さんのラジオって30分から2時間ぐらいの間でやってるイメージがあったので、12分っていう短い時間ぐらいはせめてやろうっていうのもありますね。
ーー初期の収録トークで、よしおかさんの心が折れかけていましたが、今でも12分しゃべりきるということに難しさはありますか?
よしおか:そもそも、6回目ぐらいで話のネタが尽きていってたんですよね。それに、自分はあまりしゃべるのが得意じゃなくて、ライブのフリートークの場でも一言二言ぐらいしかしゃべっていなかったんです。なので、いきなりスマホ越しとはいえ、みなさんの前でしゃべるってなると、どんな風にしゃべったらいいか分からなくて。
ーー収録トークを録るときに、リスナーの存在を強く意識していたんですね。
よしおか:最初は、自分のキャラ的に、ボソッてちょっと面白いことを3文字とか10文字ぐらいで言わなきゃウケないんだって思ってたんですけど、ラジオを始めてから、意外と沢山しゃべってもいいんだなって思うようになって。ラジオのおかげで結構いっぱいしゃべれるようになったかなって感じですね。
ーーRadiotalkで配信することで、よしおかさんの中に変化が。
よしおか:そうそう。自分では暗い感じでボケていかないといけないって思い込んでたけど、みなさんのおたよりを読んだり、収録トークの反応がよかったりすると、意外と明るくしてもいいんだなって思うようになりました。
コミュニケーションと声量のバランスを重視した収録環境
ーー収録はどのような形式で行っていますか?
西野:対面のほうが多いです。リモートでやるときもあるんですが、今もそうなんですけど、よしおかさんがどのタイミングでしゃべりだすのか分からないんですよ(※Zoomインタビューの際、Wi-Fi環境の影響でよしおかさんはカメラがオフの状態で実施)。
よしおかさんがこれからしゃべろうとしているところを遮りたくないし、逆にしゃべることないからお前しゃべれよって思われてるときもあるので、僕がしゃべりだしたほうがいいのかどうなのか、正直見てないと分からないんです。
ーー西野さんが「今うなずいてるの?」とよしおかさんに確認している収録トークを聴いたときに、この回はリモートで収録しているのかなと思ったことがありました。
西野:よしおかさんは、収録しているときに黙ってうなずいてることが結構あるんです。それが分かるので、対面で録ることが多いですね。
ただ、最初に対面で録っていたときは、貸し会議室みたいなところをいちいち借りてたんですよ。それがなかなか大変だし、コロナ禍であるというのもあってリモート収録のときもそれなりにあって。そうなると、よしおかさんの顔が見えないので、対面で収録していたときの記憶をもとに、今はただうなずいてるのかな、とか判断していたときもありましたね。
ーー相手の表情が見えない状態で、今自分がしゃべるべきかどうかを判断できるのはコンビだからこそという気がします。
西野:でも、全然今も分からないです。自分としては、収録トークを録るときに、よしおかさんがしゃべりたいとき以外は埋められたかなと思っても、もっとしゃべりたかったのにって怒られるときとかもありますし。
ただ、去年僕が車を買ったので、収録トークを対面で録ることがすごくやりやすくなったんです。僕が車でよしおかさんを迎えに行って、車を止められる場所で収録をしているので、貸し会議室を借りる必要がなくなって。リモート収録でどうしゃべればいいんだろうって悩む時期を経ているのもあって、それに比べると対面での収録はすごくやりやすいですね。
ーー車が貸し会議室の代わりになったんですね。
西野:スマホに挿して使うマイクがあるので、後部座席でよしおかさんがそのスマホを持って、マイクを口にすごく近づけてしゃべって、僕が運転席から大声でしゃべるっていう感じでやってます。
ーーものすごく珍しい収録スタイルですね。
西野:よしおかさんの声が聴こえなくて、ボリュームをあげたら僕の声がうるさいっていうことを言われることが多くて。今後要改善なところだなと思ってるんですが、一応そういう対策はした上で、今ぐらいのクオリティになっているという。
ーー最近は収録トークの更新が多い気がしています。
よしおか:できれば週に1本は録りたいと思ってて。
西野:そうですね、週1より下回ったらさすがに少ないんじゃないかって思って。毎日更新されてる方とか、ライブ配信をされてる方もいるじゃないですか。
よしおか:上手くできるかは分からないんですけど、ライブ配信もやってみたいです。
これからも二人で活動していくために更新を続けた
ーーよしおかさんが半年ほどお休みされていた間も、西野さんがコンスタントにラジオの更新を続けられてましたが、強い理由はありますか?
西野:解散する予定ではなかったし、よしおかさんが戻ってきたらまた二人でやるつもりだったので、更新を続けていたら、いずれよしおかさんが帰ってきたっていう回が録れるかなと思って。多分何もやってなかったら自然消滅すると思ったんですよね。
ーー西野さんが、シンクロニシティさんとして発信をする場所を守っていたんですね。
西野:ただ、一人になった瞬間、再生回数がとんでもなく減ったんですよ。二人で録っていたときも、やっぱりある程度再生されるから録るっていうのはあったので、今後も一人だったらやってもな……とは正直思ってました。よしおかさんが戻ってきたときの再生回数のために一応続けていこうってやってましたね。
今のシンクロニシティになるまでの過程がRadiotalkにある
ーー今まで配信をしてきた中で、モチベーションが上がったこと、もしくは下がったことはありましたか?
よしおか:収録トークに沢山リアクションがついてたら、モチベーションがすごい上がりますね。モチベーションが下がったことはないかもしれないです。あ、でも、その日の気分が悪くてラジオを録りたくないのに、相方が強制的に録ろうって、スマホにマイクをつけたのを持ってくると腹が立つし気持ち悪い(笑)
西野:ちょっとヤバい奴みたいになってるけど、客観的に見たらたしかにヤバい奴かもしれない……。でも、ラジオ自体に対してやりたくないとかは、よしおかさんは多分全然ないと思います。
ーー西野さんはRadiotalkを続けていく中でモチベーションになってるところはありますか?
西野:僕はずっとお笑いファンだったので、ライブも出れたら出られるだけ嬉しいし、ラジオも録れるなら録れるだけ嬉しいんですけど、よしおかさんとのペースが合わないんです。自分がやりたくなくなる要因は特にないんですけど、こんなに嫌がっている人を無理やりやらせなきゃいけないんだったら、流石にやめようってなりますね。
よしおかさんのおかげでコンビとしてお笑いをやれてるというのが大きくあるので、よしおかさんがすごく嫌がってることをやったら、自分が楽しいだけになっちゃうじゃないですか。なので、よしおかさんのモチベーションが僕のモチベーションですね。
ーー配信を続けてきた中で印象的な出来事があれば教えてください。
西野:すごく印象に残ったというのからはズレるかもしれないですけど、シンクロニシティとして活動してる中での出来事が全部納められているみたいな感じがあります。共通の話題がお笑い以外になくて、しゃべることがなかなかない中でしゃべってることが多いので、自分たちのコンビで起こったある程度の大きいことは全部しゃべってるんです。そこが全部残っているっていうのは僕の中では一番大きいですね。
印象的な収録トークは、僕がこっそり、馬鹿よ貴方はの新道さんのYouTubeチャンネルでの生配信に一人で出て、M-1グランプリの決勝戦を見ながら感想を言ってることがよしおかさんにバレて、すごい怒られた回ですね。
ーー『シンクロニシティの録音ラジオ』を聴くと、シンクロニシティの遍歴が分かるようになっているんですね。よしおかさんはいかがですか?
よしおか:今までは、ただライブに出てエゴサして終わりだったんです。でもRadiotalkで自分が話したことで、リスナーさんがおたよりで感想を送ってくれたり、質問してくれたりとかすると、会話してるみたいだなって思って、それが印象的です。
西野:あるリスナーさんが、僕たちが解散しそうになったときに、すごいおたよりをくれたんです。そのおたよりをスクショして、こういうのもらってるよってよしおかさんに送ったら、「面白い」ってなって、勇気づけられて復活に繋がったんです。よくファンの方とかリスナーの方に勇気づけられましたとか言いますけど、直接勇気づけられて立ち直るってあんまりないと思うんですよね。
ーー今、シンクロニシティのお二人にとってRadiotalkはどういう場所になっていますか?
よしおか:12分間自由にしゃべれる場所っていう感じですね。
西野:死ぬほど薄い(笑)。でも僕らからしたら、自由にしゃべれているのがすごいことですから。
僕としては、自由にしゃべれるというのもあるんですけど、芸人としての活動にも影響してるんです。今は漫才をしていますが、もともとは二人でしゃべる画が浮かばなくてコントをしていたんです。それから、センターマイクの前ですぐ役に入ることで、二人でしゃべれなくても、役としてしゃべってるからいいや、という感じで漫才をし始めて。
そういう中でRadiotalkで配信をしていたら、ちょっとずつ二人で日常会話みたいなものができるようになってきて、今は漫才をするときに役に入ってないんです。多分Radiotalkをやってなかったら、今の形で漫才はできてないと思うので、二人の会話として漫才をするために、なきゃいけなかった過程だなっていうのは個人的に思っています。