不安になる権利すらなかった。|『あの日、選ばれなかった君へ』を読んで
不安で冷えた気持ちが、毛布のような優しく暖かい言葉の数々で勇気づけられる。選ばれなかった自分の過去を、選ばれる未来への伏線として再解釈してくれる本が、『あの日、選ばれなかった君へ』だ。
読むと、つい自分のことを語りたくなる。この本に背中を押されたように、自分の選ばれなかった過去も誰かの背中を押すかもしれないと、応援の連鎖が広がっていく。
そんなポジティブな光をわき目に、僕は焦っていた。
「語れる過去がない…」
決して常に選ばれ続けてきたというわけではない。その逆。これまでなあなあに生きてきたということ。
すなわち、自分には不安になる権利がなかったということ。
部活も受験も恋愛も。人並みほどほどマイペース。本気で努力したことも、悔し涙を流したこともない。特筆して語れるエピソードがひとつも思い浮かばなかった。
この本で「君」は、いくつも悔しい思いをする。身を削り曝け出した過去も、思い出したくもない苦い記憶もあったはずだ。そんなエピソードがあること自体、とても眩しくて遠いものに思えてしまった。
◇◇◇
印象に残っているシーンがある。
「君」の当時の交際相手とのやりとり。阿部さんの過去の著書や、メディアでの発言は、常に誰も傷つけない前向きだ。それは表の言葉だけでなく、裏でも同じだった。こんな書き方は失礼かもしれないが、この人は常に本気で真正面だった。仰天した。
「人を幸せにする」という理想を「君」は持っていた。だから努力をしたし、選ばれなくて悔しい思いもした。努力とは、理想と現実の差を埋めるための行動だ。すなわち、理想がなければ努力はできない。
自分に足りないのは、理想かもしれない。
目指すものがぼんやりしている。だから努力をしなかった。続かなかった。身が入らなかった。マラソンは42.195km先にゴールテープがあるから走り切れるのだ。
自分はなにを目指すのか。ひいてはどう生きていくのか。すぐに答えが出るものではない。だが、たくさんの人と話して、たくさんの本を読んで、たくさん考えて、自分なりのゴールを見つけたい。そして、本気で努力するスタートラインに立ちたい。
◇◇◇
ここまで考えてきて、ひとつの疑問が生まれた。それは「努力は必要なのか」ということ。厳密には“自覚的な努力”。「頑張らなくちゃ」というメンタルは必要なのか、だ。
勉強ができた友人。1年目から頭角を表す同僚。あらゆる分野に精通している先輩。これまで出会ってきた人たちはみな、日々の研鑽を努力と思っていなかった。好きだから、面白いからやっている。無理してる様子はいっさいなかった。(見せてないだけかもしれないが)
努力とは24時間の使い方だ。ある物事に対して、人より多く見聞きする。手を動かす。頭を使う。本質はそれだけのこと、なのかもしれない。
時間を忘れ、没頭する。それは、オタクになることと言える。
世のオタクは、大義名分のもとにオタクをしているわけではない。ただ、好きだから。好きになってしまったから、オタクにならざるおえなかった人たちだ。
こればかりは運だと思う。
カミナリに撃たれたような衝撃の出会いは、そう簡単には起こらない。ただ、確率を上げることはできる。出会いの量を増やすこと。すなわち、割く時間を増やすこと。結局はここに戻ってくる。
最初はつまみ食いくらいの気持ちでいい。何かにおいて人より多く時間を割く。それを繰り返し、夢中になれるものを見つける。
そうして見つけたものは、離したくても離せない。オタクになった瞬間だ。こうなればもう、自然と時間を費やすようになる。
一方、疑念も残る。オタクは決して目指すものではないということだ。先天的な素質であり、それは自分にはないものだと思っている。
加えて、年齢を重ねるにつれて、新しい価値観を受け入れる寛容さと感受性も衰えていく。
自分の不適合具合に辟易してしまう。この文章を書いたことで、まざまざと実感してしまったフシもある。
恐ろしい話しだ…。
◇◇◇
今年から広告の勉強をする時間を増やした。仕事終わり、休日、空いてる時間は課題やインプットに時間を充てている。
それなりに面白い。やりがいもある。ただ、胸を張って「大好き!!!」とは言えない気がする。
知り合いに「もがいてる」と言われた。その通りだった。地に足がつかない中で、なんとか前に進もうとしている。
すべては理想を見つけるために。そして、熱中できるものを見つけるために。今は、もがきあがく青春感を楽しみながら、なんとかやっていきたいと思う。
◇◇◇
話が脱線したが、今回読んだ『あの日、選ばれなかった君へ』は、何かに努力する人、努力しようともがいている人にとっての、セーブポイントになる本だった。
「努力はダサい」という空気感が強くなってる世の中な気もするが、人生において一度くらい「なにふり構わず突っ走る時期」があってもいいと、思わせてくれる本でした。
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