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官僚主義に陥った大企業でも、急速な変化に対応できるようにする手法【アジリティハック】

アジャイルはソフトウェアに限らず、変化の激しいCRM、新市場の開拓、迅速けつ即応的な新製品開発など、スピードの求められる領域でも大きな成果をもたらしてくれます。
その一方で、固定化された大規模な組織や一貫性と効率性が求められる官僚主義的システムではあまり効果を発揮することができません。

しかしこれでは目まぐるしく変化する環境には適応するのが困難です。
スピードや柔軟性を求められるプロジェクトを進めるためには、官僚主義から脱却する必要があります。

では、官僚主義的な組織が既存の仕組みを維持したまま、アジャイルを取り入れるにはどうすれば良いのでしょう?


俊敏性を高める手法【アジリティハック】

アジリティハックは、アジャイルの原則と価値に基づいています。
しかし、必ずしも正式なアジャイル方法を採用するわけではありません。
代わりに、生産性や反応性を高めるための場当たり的な方法や新しい手法を採用することがあります。

アジリティハックに必要な三つのポイントを紹介します。

⒈目的

目的は、組織内の保守的な上級職からの反発を最小限に抑えるのに重要です。

以下は、2012年にGEで起こった出来事です:

  • 背景: インド鉄道がディーゼル機関車の全車両を改良するための25億ドルの計画を発表し、6ヶ月以内に入札を求めました。機関車の長い耐久年数を考慮すると、これは珍しいチャンスでした。

  • 課題: GEインドの若手幹部の一人は、期限内に入札競争に参加するには、以下のような多くの障害があることに気づきました:

    • GEの伝統的なシステムの遅さ

    • 遠隔地にあるGEトランスポーテーション本部

    • インド鉄道の不明確な要件と、入札プロセス中の仕様変更の可能性

    • 高リスクの取引(入札額が高すぎると失敗し、低すぎると大きな財務損失を招く)

  • 解決策: 彼は提案をまとめるために、製造、調達、財務、契約、そしてインドでの政府の入札プロセスの仕組みを理解している人、さらに問題に対し新しい方法を考えることができる人を含むチームを組織しました。

  • 成果: 彼はこの巨大なビジネスチャンスを強調し、巨額の利益の可能性を主張し、幹部の支持とGE内の様々なグループの協力を得ることができました。これらのグループの専門知識は、強力な入札をまとめる上で重要でした。

以下は、2016年のPepsiCo UKの事例です:

  • 背景: PepsiCo UKは2年連続で収益が減少し、3年目も収益減少が予想されていました。一般マネージャーの一人は、対策の必要性を認識していました。

  • 課題: しかし彼は、PepsiCoの凝り固まったシステムと規則が迅速で斬新な対応を妨げることを理解していました。また、組織全体を内部から改革することは時間がかかりすぎ、おそらく大きな抵抗に遭うだろうとも知っていました。

  • 解決策: 彼の解決策は、「SLAM」(self-organizing自己組織化, leanリーン, autonomous自律的, multidisciplinary多分野)チームを立ち上げることでした。このチームは、事態を好転させる任務を負いました。8週間にわたり、チームメンバーはブランドの専門知識を持つ主要なステークホルダーや小売業者との関係を持つ人々に接触し、何が間違っていたのかを理解し、さまざまなブランドとアカウントを活性化するためのアイデアを収集・創出しました。

  • アプローチ: 例えば、一部のブランド専門家はオンライン販売を改善するアイデアを持っていましたが、それらを試す機会には招待されていませんでした。SLAMチームは解決策を押し付けるのではなく、アイデアを集め、衰退から脱出するための実行可能な道筋を作るために他の人々に力を与えました。

  • 成果: この取り組みは、初年度に2.3%、2年目に2%の英国での収益増加につながりました。


⒉許可

アジリティハックは、従来のやり方から離れなければ失敗します。
アジリティハックを採用したほとんどのケースのプロジェクトチームは、通常のチャネルや承認を経ずに、新しいことを迅速に試すための許可とリソースをシニアリーダーから与えられていました。

以下は、GEインド鉄道プロジェクトチームが直面した困難とその乗り越え方です:

  • 組織構造の迂回: GEインド鉄道チームは、組織階層を迂回して、GEインドとGEトランスポーテーションのCEOに直接報告しました。これにより、進捗と障害について常に最高経営責任者に状況報告することができました。

  • 課題: 厳しいコストとカスタマイズ要件を考慮すると、GEがこの取引から利益を得ることができるか不透明でした。さらに、インド鉄道は過去に似たような入札を行った後で撤回したことがありました。これらの理由から、GE内部にはこの取引を追求することへの抵抗がありました。

  • CEOの強力なサポート: 二人のCEOの強力な支持を受け、チームは以下の方法で障害を克服しました:

    • GE内部から鍵となる専門家を迅速に募集する。

    • コストを部門間で共有する。

    • インド鉄道と幅広く関わる。

    • 異なる情報源から情報を収集してコスト見積もりを改善する。

    • アイデアを迅速にテストするための行動をとる。

  • 上級幹部の介入: チームが必要なリソースや決定を得るのに問題に直面したとき、上級幹部が介入しました。

以下は、ソニーの元CEO、平井一夫氏が2013年に始めたアジリティハックです:

  • 背景: 平井一夫氏の変革努力の重要な部分であり、1990年代初頭から始まった長い低迷期から脱出させたものです。彼は、リスク回避的な官僚制が、エキサイティングなイノベーションの弊害であったことを認識しました。

  • 解決策: 既存の製品カテゴリーの外でコンセプトを追求し、最終的に一連の成功したイノベーションを立ち上げることを可能にするイノベーションハックを行いました。平井氏は彼に直接報告するチームを組織し、そのチームにソニーの煩雑な予算編成と意思決定プロセスを迂回する許可を与え、必要なリソースや技術に迅速にアクセスできるようにしました。

  • 成果: この体制は、チームに新しい可能性を想像し、ソニーの組織内外でそれを実現するための風通しをよくしました。チームによって立ち上げられたイノベーションの中には、壁に高解像度の大画面イメージを投影するだけでなく、家具としても機能する人気の4Kホームプロジェクターや、電球の中に収められたガラス製のスピーカーシステムがありました。


⒊プロセス

アジリティハックは無秩序的とは正反対です。
厳しい時間的制約の中で何がうまくいくかに細心の注意を払い、プロジェクトを完遂後も細かく頻繁な軌道修正を行う構造的なプロセスを踏みます。

以下はPepsiCo UKのSLAMチームの取り組みと、それに続くチームがどのようにして定義されたミッションに集中的に取り組み、期限を設け、構造化されたアジャイル方法を使用したかについての解説です:

  • ミッションとプロセス: SLAMチームは、問題や機会を中心にチーム憲章を形成し、チームリーダー、コーチ、ステークホルダーを特定しました。主要な作業領域を特定し、これらを1週間のブロックに分類して、連続する実験を設計しました。また、協力的な作業を透明で反復的な方法で整理する一連の実践を採用しました。

  • アジャイル方法: このプロセスは、組織内の障害を迂回し、マーケティングや製造などの様々な機能を持つ同僚と必要に応じて調整することを可能にしました。これは、時間に厳密なタスクの実行を保証するためです。

  • 成果と復帰: 成果が得られると、チームメンバーは元の役割に戻りました。


アジリティハックは短期的な解決策であり、問題の根本原因を対処するものではありません。
しかしこれは、差し迫った課題への迅速な対応として非常に効果的です。
人々を新たな可能性に気付かせ、成功へ導くことができます。

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