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打たないで、作ろうよ

僕は、必死にパソコンと向き合っていた。

僕には、物書きとして沢山の人に届けたいシナリオがある。

しかし「構成を練る」というのは大変な作業で、単に辻褄が合っていれば良いという話ではない。

届いた先の人々に感動してもらいたい、欲を言えば心を突き動かして、生きる糧のほんの一部にでもなれたら。

名声なんて要らない。

「なんとなく良いものを見たなあ、さて寝よう」くらいに思っていただける溶け込み方で良いのだ。

購入して1年半になるスマートフォンのKeepメモというアプリが最初から入っていて、そこに創作のアイディアを書き留めていたが、この頃は何度アンインストールとインストールを繰り返してもアプリが強制終了するようになった。

新しく書いても保存されずに落ちてしまう。

いくつか、新しいアイディアを生み出しメモしては、消えてしまった。

人間はアウトプットを完了したと認識すると自身の頭からは抜け落ちてしまう。

悔しいことに、僕はいくつかのアイディアを失った。

Xなどで同志はいないか、解決策を知る者はいないかと検索しても見つからない。

アプリ側のバグではなさそう。

僕の推測では、書き溜めすぎて容量オーバーしているのだと思っている。

それくらい、創作意欲が高いし熱を持って挑んでいると叫びたい。

僕は現在閲覧のみOK状態になったKeepメモを元に、パソコンに向かって執筆をしていた。

物語の中の「場所」にヒントは得られないかと、ボリュームを下げた状態でテレビドラマを映し出し、時々そちらを気にしながら。

少し肩がだるいな、いやそんな事は言っていられない。

息苦しいな、しばらく姿勢がそのままだしそもそも普段から姿勢が悪いからな、仕方がない。

集中しなきゃ。

その時だった。

ミサイル発射の警報が出た。

ご存知の通り昨晩のことだ。

僕は首都圏にいて、警戒が出されている沖縄から遠く離れていて、軌道だって全然違う方向だと分かっていても、怖く感じた。

創作モード真っ只中、いつか自分の作品を楽しんでもらいたい、その対象でもある百数十万という沖縄方面の人々の恐怖心を勝手に思い浮かべていたら僕も心拍数が上がってしまった。

身体のコンディションが良くない瞬間、加えて孤独。

気がつくとパソコンを打つ手が止まり、手のひらから汗がどんどん出てくる。

背もたれに寄りかかり、浅い呼吸をしている自分に気が付き、落ち着けーと、軽く胸を叩きながら無理やり深い呼吸に切り替える。

テレビを見る。

さっきまで流れていたドラマは画面から消え、ひたすら避難を呼びかけている。

せめて海に落ちてくれ、これは究極に譲歩してのものだ。

打たないでくれ、いや、それ以前にこのような海外と向き合い方を変えてくれ。

早くて10分以内と言われていたが、そこから15分、20分、怖い時間というものはいつもより長く感じる。

しばらくして、太平洋側へ通過していったと報道された。

首都圏でもなぜか、警報が解除された途端に近くの道路をバイクや車が走り始める。

それなりに平気な人は解除が出てすぐ日常生活に戻れるんだ。

うらやましい。僕はそこら辺が苦手だ。

しばらくは身体がつらい状態をひきずりながらパソコン画面に向かっていた。

争うのはやめよう。

一緒に面白い作品作ろうよ、ねえ?

35MB、この容量が原因でアプリが使えなくなっているのだろうか。



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