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ゲンに振り回されなくても良い

大学受験の前日になっても僕の受験票は手元に来ず、担任の先生に聞いても焦らせてしまうだけで、受験当日は代替受験票を大学側からレンタルして挑むことになった。

犯人はやはり、自分の人生をやり直すために無断で隠し持っていた僕の親だった。

勝つ、落ちない、滑らない、置くとパス。

僕の家庭環境は、そんなちょっとしたゲン担ぎなんてまるで意味がない。

窃盗が日常なのだから。

盗られる、奪われる、ちぎれる、メンタルが削られる。


嘘でも、受験前に食べ物なりゲン担ぎををしてくれる家庭環境に憧れを抱いていた。

受験期の親へのありがたみって、向こう何十年も覚えていそうなものだけど、長期投資が苦手な親には一切できないことだった。

そもそも目先の他人の受験票を手元に保管し、自分がもう一度大学受験をやり直すというゼロ%の奇跡を待つ奇行に走るのだから、投資の概念もないんだろう。


ゲンを担ぐとか、そんなレベルで生きてこられなかった僕は、ようし新年だから、なんて気合の入れ方をしない。

それでも、金銭出納帳や私物の手帳は新しくなるし、正月は親戚にも会うから新しいセーターでも買っておくか、となるし、新年に合わせて多少新しく切り替わる。

年が明けた。1月1日。

明日の2日に親戚に会うから、今日はゆっくり過ごそう。

そうしていた夕方、テレビ画面に流れた緊急地震速報。

関東は対象に入っていないが、側の洗濯物を見ると、ゆらゆらと揺れている。

僕は恐怖で強いめまいを起こすので、震度2〜3でも自力で立っていられなくなる。

壁にぶつかりながら震える手でようやく玄関のドアを開けて、外の様子を見る。

関東がこれなら、震源は大変なことになっているだろう。

家庭環境に恵まれなかった割には、僕の悪い勘はよく当たる。


僕は「新年だから」という感覚は人より薄い。

だけどきっと世の中的には、新年から災難だ、という人が多いのだろう。

今年は出鼻をくじかれたし、頑張らなくていいや、頑張る気にならない、という人が出てくると、ますます不景気になってしまう。

だけど僕は誓う。

今年もたくさん働きます。

僕には出鼻なんてないから。


とは言え精神的に疲れてしまい、翌日2日も身体がダルく、身内の集まりは欠席した。

誰にも会わない新年。

それでも良い。

僕には出鼻なんてないから。

3.11の日、僕は普通に働いていた。

地震発生後、停電して仕事にならず自宅に帰らされたものの、翌日は電気が復旧し普通に働いていたが、その翌日は、自粛ムードに押されて会社の命令で休みになった。
(不動産なので、震災の金〜日曜日の3日間は一般で言う火〜木曜日に当たる)

笑えなくなった人の分まで、笑うべき。

働けなくなった人の分まで、働くべき。

誰かが何かをできなくなった分、それを自分が補填する、それも世の循環だと思う。

自分が親にしてやられていた時、恵まれている人たちは僕を置いてどんどん良い人生へと突き進んで行ったように。

僕はめまいと闘い涙をこらえながら、ずっと手を止めずに働いている。

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