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空から逃げる

僕が生まれ育った地元には小さな山があり、その中腹には、人が出入りするには充分なサイズの穴が空いていて、奥まで長く続いている。

第二次世界大戦中に使われていた防空壕だと言い伝えられている。

土地の管理者や所有者が不明だから、戦後何十年もそのまま残されていると当時は思っていたが、後世に伝えるために敢えて残していたのかもしれないなと、最近では解釈している。

社会科見学のように、学年単位で訪問して、地元のおじいさん(つまり近所の方)からお話を聞く機会も設けられていたが、放課後、友達と一緒に防空壕の中に入ったりもしていた。

現代では子供の遊び場所の一つになっている。

戦時中ここは、警報を聞いたり空を見ながら、入りたくないけど命を守るために入っていた場所。

ここに入って、次に家に戻ったら、家はもう焼けてなくなっているかもしれない、そんな極限的な恐怖を抱えながら。

僕らはその防空壕近辺に腰を下ろしていても、一度たりとも誰かに怒られることはなかった。

戦争経験者の方からすれば、子どもがここで無邪気に過ごしていというのは非常に尊い光景だろう。

平和というものは本来当たり前に転がっているようなものではないから。

そのような環境で育ってきたため、僕にとっては防空壕=山の中腹だった。

2024年、戦争はしていないのになぜかミサイルが飛んでくる危険性があるこの国では、今はやはり「地下に逃げろ」と促されている。

僕はまだ、恐怖の感情を抱きながら地下シェルターに逃げ込んだ経験はないが、ウラジスラワさんのように、どんな状況でも前向きな物に目を向けていたい。


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