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書評 森本あんり 異端の時代―正統のかたちを求めて


「岩波新書」と言えば、個人的にはガチコチの「進歩的文化人」的な本が多い印象だが、本書に関しては、それは例外だった。米国のトランプ大統領誕生に代表される世界的なポピュリズムの蔓延。米国だけでなく、日本でも少し前に小泉政権の誕生もあったほか、ビジネスの世界やカトリック教会のような宗教団体でも、これまで当たり前とされてきた「権威」の崩壊が進み、従来「異端」とされてきた物事が台頭し、「正統」の腐蝕が進んでいると序章で著者は指摘する。 

2章以降は、日本での丸山真男の「正統」と「異端」をめぐる議論を突破口に、キリスト教を中心に宗教の歴史をたどりながら、「異端」がどのように生じてきたかを探っている。著者はさまざまなこれらの歴史をたどってきたなかで、「現代には非正統はあるが異端はない」とする。そして、「古今東西の歴史に見えでる真正の異端は、知的に優秀で、道徳的に潔癖で、人格的に端正で、人間的に魅力のある者だけが、異端となる資格をもつ」とする。ドイツの画家デューラーが描いた騎士の絵を引用しつつ、「一人よがりの正義を振り回したり」はせず、「同志を募り、信頼する友をもち、共同作業を委ね、自分も分業体制の中で限定する位置をもつ。そうしてこそ、腰の据わったアイデンティティが生まれ、粘り強く理想を実現するための闘いを続けることができる」とする。そのうえで、「そのような異端だけが、やがて正統となる。正統となったら、次は自分が新たな異端の挑戦を受ける立場となる」と記す。

「正統」と「異端」とは、人間がさまざまな営みを進めるなかで、必要不可欠な事柄であり、それが時には進歩をもたらすこともあれば、後退をもたらすことがあるのかもしれない。あるいは希望を与えることもあれば、逆にあまり望まない結果を及ぼすことがあるかもしれない。「歴史」を見ていくとき、この2つの観点は決して見逃してはならないと本を読んで感じた点である。

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