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書評 フテンマ戦記 小川和久

著者の軍事をテーマにした著作物はこれまでも読んできたのだが、予断と偏見を排除した「リアリズム」に徹した内容に、大変勉強になる。今回は、もう20年以上にもなる沖縄の普天間基地の移転をめぐる問題を、著者がこの問題に関わってきた立場から、かなり克明に記載されていて、メディアにもたびたび出てくる政治家、官僚などが実名で出てきて、引き込まれていった。

著者の立場は、普天間基地の危険性除去のためには、早期の移設は不可欠の立場だが、現在政府が推進する辺野古沖ではなく、キャンプ・ハンセンの陸上案を勧めており、空港本体の建設費も静岡空港の490億円を上回らない支出で済むという。普天間移設は、1996年に橋本首相が普天間基地返還で米国と合意して以来の取り組みだが、時の首相や政界の実力者、助言者によって、「海上ヘリポート案」が出てきたり、「辺野古V字滑走路案」になったり、いわば「迷走」を続けてきた。特に鳩山首相に至っては、著者が鳩山氏の命で、米国に行っている間に、県外移設やらあっけなく辺野古推進に転じたりと、著者が「無責任」の極みというのも仕方がない状況だったとのこと。小泉純一郎氏が、鳩山氏のことを「判断力が欠如」していると、著者にプライベートの席で語ったのには、苦笑せざるを得ない。

この鳩山氏に、辺野古推進に転じる情報を吹き込んだり、沖縄問題でも「首相補佐官」の立場で、専門家ぶりながら、その実、軍事面に関する知識は何も持ち合わせていなかったとして、本書に何度も登場するのが、今年コロナで急逝した岡本行夫氏である。イラクの自衛隊派遣問題でも、自らが顧問を務める企業の利益誘導ともとられかねないような行動をとっていたことが、指摘されている。このほかにも、佐藤優氏の沖縄問題への関わりや、いまは米国陰謀論者と化している孫崎享氏による米国への情報漏洩騒動、野中広務氏の変節、ケビン・メア氏の無知ぶりなど、実名でいろいろと出てきて、ついつい引き込まれてしまった。また、辺野古の工事費がどんどんと膨れ、「さんずい=汚職」までささやかれているというのは、何とも言えなくなる気分になる。

著者が指摘するのは、とにかく本当の専門家がいないことである。そもそも、海兵隊の何たるかも知らずに、日米で議論をしている現状には驚く。中国の領土拡張の動き、あるいはロシアの動向、さらには自国中心に傾きつつある米国の現状を踏まえると、「リアリズム」に徹した政策遂行が求められると強く感じた。

#書評 #基地問題 #沖縄 #小川和久